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「鑑定しかできない無能」と追放された俺、実は壊れた才能を直せる唯一の神職でした〜捨てられ聖女と辺境村を修理していたら、勇者より先に国を救ってしまった〜  作者: 藤原朝臣御神常陸介釋寛浩


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第231話 中枢室を休ませる

 中枢室を休ませる。


 その言葉を、俺は朝になってもまだうまく飲み込めずにいた。


 正確には、中枢室そのものが疲れていると決まったわけではない。


 表示時刻差候補があった。


 けれど、その原因はまだ分からない。


 俺の読み上げが遅れたのかもしれない。

 ニコルの復唱確認が入ったからかもしれない。

 広間での記録処理に時間がかかったのかもしれない。

 王都書記の筆が遅れたのかもしれない。

 通信受信差かもしれない。

 あるいは本当に、中枢室という表示照合点そのものに、何らかの負荷があったのかもしれない。


 未確定だ。


 未分類だ。


 だから、すぐに「中枢室が疲れた」と決めてはいけない。


 分かっている。


 分かっているのだが。


 昨日の最後、中枢室自身が表示した。


《注意:表示点も疲れる》


 その一文が、妙に残った。


 朝の中央井戸で、副記録係がいつものように読み上げる。


「朝。中央井戸、水温正常。水面揺れなし。濁りなし。匂いなし。中枢室表示時刻差候補登録後、継続異常なし。中枢室休止時間、検討候補」


 ニコルが頷いた。


「よいです」


 トマが井戸の水面を見ながら言った。


「部屋を休ませるって、やっぱり不思議ですね」


 ダリオさんが豆を噛む。


「まだ部屋を休ませると決めたわけじゃない」


「はい。でも、中枢室を休ませるって題になりそうじゃないですか」


「お前は題を先に決めるな」


「最近、言葉が先に手を動かすって散々言われてるので、題も危ないですね」


 ニコルが記録する。


『題を先に決めると、解釈が寄る可能性』


 トマが振り向いた。


「今のも記録するんですか」


「します」


「なんか、俺、口を開くだけで記録が増えてません?」


 井戸番が通信越しに笑った。


『口を閉じたら、今度は黙った理由を記録されるぞ』


 トマが絶望した顔をする。


「逃げ道ないじゃないですか」


 村長が水面を見ながら静かに言った。


「逃げ道はある。勝手に動かぬことじゃ」


 ダリオさんが頷く。


「喋るのはいい。喋ってから手を止めろ」


 トマは少し考えた。


「それなら、俺にもできそうです」


 ニコルが書く。


『トマ、喋ってから手を止める』


「それ、成長記録みたいにしないでください」


 セリアが薬草茶を持って来た。


「でも、実際に成長していると思います」


 トマの顔が少し緩む。


 ニコルが筆を構える。


 トマが慌てた。


「待ってください。今、小さく喜びます。小さくです」


「どうぞ」


「……よし」


 ニコルが書く。


『小さめの喜び。次行動の理由にしない』


「やっぱり付く……」


 少し笑いが起きた。


 ただ、俺は笑いながらも、井戸の水面に映る自分の顔を見ていた。


 中枢室を休ませる。


 その言葉が、怖かった。


 中枢室は、俺たちの目だ。


 表示照合点。


 何かが起きた時、そこに文字が浮かぶ。


 危険を知らせる。


 未分類を知らせる。


 止まれと知らせる。


 その目を閉じる。


 たとえ短時間でも。


 それは、かなり怖い。


 広間へ戻ると、ニコルが新しい大紙を用意した。


『中枢室休止時間・検討』


 その下に赤字。


『休止=監視放棄ではない』


 俺は、その文字をしばらく見た。


 ニコルがこちらに気づいた。


「レオンさん」


「はい」


「まだ何も決めていません」


「分かってます」


「顔が決めた後みたいになっています」


 トマが小声で言った。


「顔、やっぱり正直ですね」


「トマ」


「すみません。でも俺、毎回言われてるので」


 俺は苦笑した。


「そうだな。今日は俺の番だ」


 ダリオさんが豆の椀を置く。


「レオン。お前は何が怖い」


 まっすぐ聞かれた。


 答えは分かっていた。


 でも、口に出すのは少し嫌だった。


「中枢室が見ていない時間に、何か起きることです」


 ニコルが書く。


『レオンの不安:中枢室休止中に何か起きること』


 ダリオさんが聞く。


「他には」


 俺は少し黙った。


「……中枢室を休ませることが、俺が見ないことを選ぶみたいに感じます」


 広間が静かになった。


 ニコルの筆が、少しゆっくり動いた。


『中枢室を休ませることを、自分が見ないことを選ぶ行為と感じている』


 俺は続けた。


「見ていれば、何か分かるかもしれない。見ていれば、止められるかもしれない。それなのに休ませるって……目を逸らすみたいで」


 ダリオさんはすぐには答えなかった。


 豆も食べなかった。


 村長が静かに言う。


「見ぬことと、目を閉じることは違う」


 俺は顔を上げた。


 村長は続ける。


「逃げるために目を逸らすのと、見間違えぬために目を休ませるのは違う」


 ニコルが赤字で書く。


『見ぬことと、目を閉じることは違う』


 セリアが頷く。


「薬草を見る時も、ずっと見続けることはできません。夜まで張りついて、朝に判断を誤ったことがあります」


 ハンナが即座に反応した。


「あります」


 セリアが少し困った顔をする。


「そこは強く言わなくても」


「大事な失敗なので」


 ミラが記録する。


『セリア、夜間観察継続後、朝の判断を誤った経験あり』


 セリアは諦めたように頷いた。


「はい。あります。心配で、夜中まで何度も見ました。葉が少し垂れるたびに水を増やしたくなって、朝には私の方が疲れていました」


 トマが聞く。


「それで、どうなったんですか」


「朝、根の状態を見誤りました。乾いていると思ったのですが、表面だけでした。もう少しで水を足すところでした」


 ハンナが言う。


「私が止めました」


 セリアは素直に頷いた。


「止めてもらいました」


 ミラが記録する。


『見続けることによる判断精度低下。停止者必要』


 ダリオさんが俺を見る。


「見続ける奴は、見ているつもりで、見たいものを見るようになる」


 ニコルが赤字で書く。


『見続けると、見たいものを見る危険』


 俺は黙って頷いた。


 痛い。


 けれど、分かる。


 中枢室の表示を見続ければ安心する。


 表示が出ないと不安になる。


 だから、出るまで見たくなる。


 そのうち、出ていないものまで意味があるように感じる。


 微かな揺れ。

 一瞬の明滅。

 文字になる前の光。


 何でも読みたくなる。


 それは、もう観測ではない。


 期待だ。


 あるいは恐怖だ。


 ニコルが、俺の沈黙を見て言った。


「今、何を考えましたか」


「見ていないと不安で、出るまで見たくなる。そうなったら、出ていないものまで読みそうだと思いました」


 ニコルがそのまま記録する。


『表示が出るまで見たくなる。出ていないものまで読みたくなる危険』


 ダリオさんが頷く。


「よし。今日の中心だ」


 午前の王都協議が始まった。


 王都再審査室、外部監査部、防衛局、保存官、王都書記班。


 中枢室休止時間の検討だと伝えた時点で、王都側の空気が硬かった。


 防衛局が真っ先に言った。


『防衛局です。中枢室は現在、命令核浮上確認手順における表示照合点として最重要設備です。休止時間を設ける場合、監視の空白が生じます』


 来た。


 監視の空白。


 昨日、ダリオさんは言った。


 穴ではない。目を閉じる時間かもしれない。


 ニコルが書く。


『防衛局表記:監視の空白』


 ダリオさんが言う。


「空白ではなく、休止時間だ」


 防衛局が続ける。


『しかし、その間に異常が発生した場合、表示を見逃す可能性があります』


「ある」


 ダリオさんはあっさり認めた。


 防衛局が一瞬黙る。


 トマも少し驚いた顔をした。


 ダリオさんは続ける。


「だから、休止時間を無条件で作るとは言っていない。休止時間中の代替耳を整理する」


 ニコルが書く。


『休止時間中の代替耳』


 防衛局が聞く。


『代替監視点ですか』


 ダリオさんが首を振る。


「代替監視点というと、中枢室の代わりを作りたくなる。違う。中枢室が目を閉じている間、中央井戸と旧水路が、それぞれの役割で聞く」


 トマが小さく言う。


「耳の出番ですね」


 セリアが頷く。


「両耳で聞く」


 ニコルが整理する。


『中枢室:目』

『中央井戸:全体の耳』

『旧水路浅層緩衝線:近い耳/外縁逃がし反応参照点』

『黒石祠:封印本体監視中心』


 防衛局が言った。


『では、中枢室休止中も中央井戸と旧水路の報告を強化する形で——』


「強化しない」


 ダリオさんが即座に止めた。


 ニコルも赤字で書く。


『休止中の報告強化:不可』


 防衛局が詰まる。


『では、通常報告を維持?』


「通常報告も少し危ない」


 ニコルが顔を上げた。


「休止時間を作ったことで、耳側が“自分たちが代わりに見なければ”と背負う可能性があります」


 トマの顔が固まった。


 ダリオさんがすぐ見た。


「ほら」


「今、ちょっと思いました」


「何を」


「中枢室が休むなら、旧水路側はちゃんと聞かなきゃって」


 ニコルが書く。


『トマ、中枢室休止時に旧水路側が背負う感覚。即時自覚』


 トマはため息をつく。


「本当に、思った瞬間に記録される……」


 セリアが穏やかに言った。


「でも、それを言えたから止まれました」


 トマは少しだけ頷いた。


「そうですね」


 ダリオさんが防衛局へ言う。


「中枢室を休ませるために、旧水路を働かせすぎるな。中央井戸も同じだ。目を閉じたからといって、耳を酷使するな」


 ニコルが赤字で書く。


『目を閉じたからといって、耳を酷使するな』


 井戸番が通信越しに言った。


『聞こえないものまで聞こうとすると、井戸番も耳が悪くなる』


 トマが言う。


「本当に耳の話になってきましたね」


 井戸番が返す。


『水音を聞く仕事だからな』


 王都外部監査部が入る。


『外部監査部、リベル村案を支持。中枢室休止時間中、他観測点への報告強化、頻度増加、追加接近を行わないことを条件候補とする』


 ニコルが頷く。


「よいです」


 防衛局は、少し納得しきれない声だった。


『では、休止時間中に異常兆候が出た場合は』


 村長が答えた。


「休止を破るのではなく、まず止める」


 防衛局。


『中枢室を再起動しないのですか』


 ダリオさんが言う。


「異常が出たから即中枢室を見る、では同じだ。まず人を止める。現地を下げる。井戸、旧水路、祠の既定中止条件を見る。そのうえで中枢室休止解除が必要か判断する」


 ニコルが書く。


『休止中異常候補 → まず停止 → 退避/現地中止条件確認 → 休止解除判断』


 トマが言った。


「矢印、今ちょっと頭に出ました」


 ニコルが即座に書く。


『手順説明でも矢印を頭に作る危険』


 ダリオさんが苦笑した。


「お前は本当に正直だな」


「もう隠しても無駄なので」


 トマのその言葉で、少し笑いが起きた。


 午後は、実際の休止時間をどうするかの話になった。


 王都は、当然、数字を出したがった。


『防衛局案では、一回あたり五分相当の休止を一日二回から——』


「不可」


 ニコルが止める。


 防衛局が困る。


『まだ提案途中です』


「数字を先に置かないでください」


 ダリオさんが頷く。


「先に何を休ませるのか決める」


 トマが首を傾げた。


「何をって、中枢室じゃないんですか」


「違う」


 ダリオさんは指を折る。


「入力を止めるのか。表示確認を止めるのか。読み上げを止めるのか。復唱を止めるのか。記録を止めるのか。王都受信を止めるのか。全部違う」


 ニコルが書く。


『中枢室休止時間の内訳』


 一、追加入力停止。

 二、表示確認停止。

 三、読み上げ停止。

 四、復唱停止。

 五、広間記録停止。

 六、王都同時受信停止。

 七、緊急停止条件のみ別扱い。


 トマが目を丸くする。


「休むって、こんなに分けるんですね」


 ダリオさんが頷く。


「“中枢室休止”でまとめると、何が止まって何が残るか分からなくなる」


 ニコルが赤字で書く。


『休止も分ける』


 セリアが言う。


「薬草班でも、休ませると言っても、水を減らすのか、触らないのか、植え替えを止めるのか、日差しを避けるのかで違います」


 ハンナが頷く。


「全部やめると、逆に枯れることもあります」


 ミラが記録する。


『休ませることと、全部止めることは違う』


 村長が静かに言った。


「休むにも手順がいる」


 ニコルが書く。


『休むにも手順がいる』


 王都書記班が慎重に言った。


『では、“中枢室休止時間”ではなく、“表示照合点休止条件”とした方が技術的には正確でしょうか』


 ダリオさんが少し考える。


「王都技術語としてはそれでいい。現場語彙は“目を閉じる時間”だ」


 トマが頷いた。


「そっちの方が分かりやすいです」


 防衛局はすぐ反応した。


『“目を閉じる時間”は、監視放棄の印象を与えませんか』


 セリアが静かに答えた。


「目を閉じないと、見間違えます」


 昨日と同じ言葉。


 でも今日は、もっと重かった。


 ニコルが赤字で書く。


『王都技術語:表示照合点休止条件』

『現場語彙:目を閉じる時間』


 ダリオさんが言った。


「現場には、こっちが効く。目を閉じる時間。見続けない。読み続けない。期待し続けない」


 俺の胸に刺さった。


 見続けない。


 読み続けない。


 期待し続けない。


 中枢室を休ませる話だと思っていた。


 でも、本当は俺たちを休ませる話なのかもしれない。


 ニコルがこちらを見た。


「今、何か考えましたか」


「……中枢室を休ませる話だと思っていたけど、俺たちを休ませる話でもあるのかもしれない、と」


 ニコルが書く。


『中枢室休止は、人の表示依存を休ませる意味もある可能性』


 ダリオさんが頷いた。


「むしろ、そっちが大きいかもしれん」


 防衛局が聞く。


『表示依存、ですか』


 ニコルが説明する。


「中枢室表示がないと不安になる。表示を待ち続ける。表示が出るまで見続ける。微弱な光にも意味を読みたくなる。そうした状態を、人員危険兆候として扱います」


 ダリオさんが続ける。


「中枢室を常時監視点にすると、人が中枢室に寄りかかる。表示が出なければ安心。表示が出れば危険。そんな単純なものじゃない」


 ニコルが赤字で書く。


『表示が出ない=安全、ではない』

『表示が出る=危険確定、でもない』

『表示依存:危険兆候候補』


 トマが言った。


「中枢室って、便利すぎるんですね」


 ダリオさんは頷いた。


「便利なものほど、休ませろ」


 村長が静かに言う。


「人も同じじゃ」


 セリアが小さく笑った。


「その言葉、薬草班にも貼りたいです」


 ハンナが言う。


「セリアさんの机にも貼りましょう」


「ハンナ」


 ミラが書く。


『便利な人ほど、休ませる』


 広間に少しだけ笑いが戻った。


 夕方、中枢室へ登録する前に、休止条件の第一整理を作った。


『表示照合点休止条件・第一整理』


 一、休止は監視放棄ではない。

 二、休止は中枢室機能低下の証明ではない。

 三、休止中、旧水路、中央井戸、黒石祠の報告強化を行わない。

 四、休止中、追加接近、追加観察、報告頻度増加を行わない。

 五、休止中の異常候補は、まず停止と退避判断。即中枢室再確認へ進まない。

 六、休止は追加入力、表示確認、読み上げ、復唱、広間記録、王都同時受信を分けて扱う。

 七、緊急停止条件は別枠。

 八、表示依存兆候を人員危険兆候候補へ追加。

 九、現場語彙は「目を閉じる時間」。

 十、時間数値はまだ決めない。


 トマが十番を見て言った。


「まだ決めないんですね」


 ニコルが頷く。


「何を休ませるかを先に決めました。何分休ませるかは次です」


 ダリオさんが言う。


「時間を先に決めると、時間だけ守って安心する」


 井戸番が通信越しに言った。


『井戸番でもあるぞ。三回見ると決めたら、三回見て満足する馬鹿が』


 トマが小さく言う。


「心当たりありそうな言い方ですね」


『若い頃の俺だ』


 少し笑いが起きた。


 ニコルが書く。


『時間や回数だけ守って安心する危険』


 そして、中枢室への登録。


 俺は、今日は少し距離を取って立った。


 近づきすぎない。


 見張らない。


 見すぎない。


 ニコルが隣にいる。


 ダリオさんが少し後ろにいる。


 村長もいる。


 俺一人ではない。


 そのことが、今日はよく分かった。


 俺は読み上げた。


『表示照合点休止条件、第一整理。休止は監視放棄ではない。中枢室機能低下の証明ではない。休止中、旧水路、中央井戸、黒石祠の報告強化不可。追加接近不可。追加観察不可。報告頻度増加不可。休止中異常候補は、まず停止と退避判断。即中枢室再確認へ進まない。表示依存兆候を人員危険兆候候補へ追加。現場語彙、目を閉じる時間。休止時間数値は未定。』


 光が揺れた。


 俺は見続けたい気持ちを抑えた。


 文字が出るまで、息を数えそうになった。


 数えない。


 待つ。


 ただ待つ。


 やがて表示が浮かんだ。


《表示照合点休止条件:第一整理》

《休止:監視放棄ではない》

《中枢室機能低下:未確定》

《他観測点報告強化:不可》

《追加接近:不可》

《追加観察:不可》

《報告頻度増加:不可》

《休止中異常候補:まず停止》

《即時再確認:不可》

《表示依存兆候:人員危険兆候候補》

《現場語彙:目を閉じる時間》

《休止時間数値:未設定》

《注意:目を閉じる時間に、耳を酷使するな》


 俺が最後の一文を読み上げると、トマが小さく息を吐いた。


「耳、また守られましたね」


 井戸番が通信越しに言う。


『耳も休むぞ』


 旧水路班から声が入る。


『旧水路も、いつも通りでいいんですよね』


 ダリオさんが答えた。


「いつも通りでいい。中枢室が休むからといって、お前たちは頑張るな」


『……はい』


 その返事が、少しだけ安心していた。


 村長が静かに言った。


「目を閉じる時、耳を働かせすぎるな。耳を休ませる時、目を見開きすぎるな。どちらも人が壊れる」


 ニコルが赤字で書く。


『目と耳を交互に酷使しない』


 ダリオさんが言った。


「今日の終わりだな」


 夜、俺は個人記録を書いた。


『中枢室休止時間を検討。

前提:中枢室表示時刻差候補は未分類。中枢室機能低下とは断定不可。読み上げ遅れ、復唱確認、記録処理差、王都書記筆遅れ、通信受信差、表示照合点使用負荷など候補。

レオン不安:中枢室休止中に何か起きること、中枢室を休ませることが自分が見ないことを選ぶ行為に感じること。

村長:“見ぬことと、目を閉じることは違う”。

セリア過去記録:夜間観察継続により、朝の判断を誤りかけた。見続けることによる判断精度低下あり。

防衛局より、休止時間は監視の空白になるとの指摘。リベル村整理:休止は監視放棄ではない。中枢室が目を閉じている間、中央井戸と旧水路がそれぞれの役割で聞く。ただし、他観測点の報告強化、頻度増加、追加接近は不可。目を閉じたからといって、耳を酷使しない。

休止を分解:追加入力停止、表示確認停止、読み上げ停止、復唱停止、広間記録停止、王都同時受信停止。緊急停止条件は別枠。

王都技術語:表示照合点休止条件。現場語彙:目を閉じる時間。

表示依存兆候を人員危険兆候候補へ追加。中枢室表示がないと不安、表示を待ち続ける、出るまで見る、微弱な光にも意味を読みたくなる、など。

中枢室表示:表示照合点休止条件第一整理。休止、監視放棄ではない。他観測点報告強化不可。追加接近不可。追加観察不可。報告頻度増加不可。休止中異常候補、まず停止。即時再確認不可。表示依存兆候、人員危険兆候候補。現場語彙、目を閉じる時間。注意、目を閉じる時間に耳を酷使するな』


 最後に書く。


『中枢室を休ませる。

今日は、その言葉の意味を変える日だった。

最初、俺は中枢室という部屋を休ませる話だと思っていた。

でも違った。

中枢室そのものが疲れているとは、まだ決まっていない。

表示時刻差候補は未分類だ。

俺の読み上げかもしれない。

ニコルの復唱かもしれない。

広間記録かもしれない。

王都書記の筆かもしれない。

通信差かもしれない。

中枢室の使用負荷かもしれない。

それでも、休止時間は必要かもしれない。

中枢室のためだけではない。

俺たちのために。

表示がないと不安になる。

表示を待つ。

出るまで見る。

微かな光にも意味を読みたくなる。

それは、もう観測ではなく依存かもしれない。

見続けると、見たいものを見る危険がある。

見ぬことと、目を閉じることは違う。

村長の言葉は、今日ずっと残った。

逃げるために目を逸らすのではない。

見間違えないために目を休ませる。

中枢室が目を閉じている間、中央井戸と旧水路が聞く。

でも、耳を酷使しない。

中枢室が休むからといって、旧水路班が頑張ってはいけない。

中央井戸の報告を増やしてはいけない。

追加接近してはいけない。

目を閉じる時間に、耳を酷使するな。

中枢室はそう表示した。

休止時間はまだ数字にしていない。

何分休むかより、何を休ませるかを先に決めた。

入力。

表示確認。

読み上げ。

復唱。

広間記録。

王都受信。

全部違う。

休むにも手順がいる。

本当に面倒だ。

でも、人間は便利なものに寄りかかる。

中枢室は便利すぎる。

だからこそ、休ませる。

いや、俺たちが中枢室から目を離す時間を作る。

次は、その時間をもっと具体的にする。

目を閉じる時間。

そして、その時間の穴を怖がる王都と、もう一度話すことになる。

たぶん防衛局は、監視の穴と言う。

でも、目を閉じぬ者は、見間違える。

次は、その話になる。』


 地上では、水車が回っている。


 中枢室は、今も光っている。


 俺は、いつもより少し早く、その光から目を離した。


 何も見逃していない、と自分に言い聞かせはしなかった。


 ただ、目を閉じる時間も必要なのだと、少しだけ受け入れた。


 次は、その時間を作る。


 目を閉じるために。



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