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「ねぇ、ひろみ……私、あの日ね、実はなんとなく分かっていたの」
「なに、なんとなく分かっていたって?」
夕飯を食べ終わり二人で寛いでいると祥子が神妙に話しかける。
「ひさしさんがもう直ぐ亡くなることを」
「……何か前兆があったってこと!」
祥子が山口にひさしと別れることにしたと電話したあの日、ひさしは間もなく自宅の屋根で泣き叫んだりとヒステリックになり屋根から飛び降りて全身を強く打ち亡くなった。
近所の人の証言によると飛び降りたというより屋根とは別の足場があるかのように飛び移ろうとした、という方が正確らしいが。
妻から別れを切り出されて家からいなくなってしまったショックで頭がおかしくなってしまったということにされているが、
『おい、お前は一体、誰なんだ!』
『お前が祥子を奪ったのか!?』
などまるで誰かに向かって怒鳴りながら屋根から飛んだらしい。
ひさしと祥子が住んでいた土地は事故物件であることから山口は心霊絡みの事件ではないかと疑っていた。
そこで出た祥子の告白。
「ある晩、女の人が訪ねてきたの」
「女の人?」
「その女の人がね、ひさしさんには悪い霊が憑いているから離れた方が良いって言ってきたの」
「なに、それ。その女の人は何者なの?」
「分からない。けど、なんでひさしさんにそんな悪い霊が憑いているか? ……その霊が天罰を下そうとしているからだって」
「それを祥子は信じたの?」
「うん。なんでだろうね。根拠はないのに妙な胸騒ぎがして……とりあえず一旦、離れてみようとは思ってあの日、出て行ったの。そしたらひさしさんがその日の内に亡くなった……いくらなんでもそこまでの精神状態だったらもっと前から暴れたりしていただろうって一緒に暮らしていた私も思うよ」
山口の動揺が計り知れないと祥子は手に取るように分かる。
「あの土地、事故物件でしょ。それをひさしさんは知っていてあの土地に住もうとしたのかもしれない。ひさしさんはひさしさんで何か調べたいことがあった、でもそれはタブーで祟りみたいに亡くなってしまった……どう、この仮説?」
「有り得なくはないけど、もっと確信が持てる情報が欲しいかな」
「それならあるよ。ひさしさんの遺品であるパソコン。私、ロックを解除することに成功したの」
そのパソコンに保存されてあったメールや写真を山口に見せる。
「このメールのやり取りに、荒れ果てた空き家を撮ったりこれは……間違いない。これは何かあるよ、あの土地というかこれはあの地域に禁忌のような場所が!」
「ひさしさんはこのメールでやり取りした人に頼まれてこの土地を一度、訪れていそうだよね。それと、この返信のようになんでひさしさんなんだろうね?」
「池袋にはよく来られるのですか? って……」
事はもっと複雑かもしれない、祥子だけはそれを承知している。
「どうする? ひさしさんが犠牲になっているしこのまま無かったことにするか、それとも私達がまた……」
やはりここでも怖いし、危なさそうだしやめておこうとは山口はならなかった。
祥子は……。
東京駅から発車した新幹線に乗車している祥子と山口。
二人はあの土地へ。東京は晴れているがこれから向かう先はどんよりとした雲が。
時おり閃光が。向こうは雷雨らしい。




