12.大団円
そしてお約束の説教タイムである。
王妃、2人の公爵、そして国の重鎮達はずらっと正座して、うなだれた。
アルフォンスの様子がおかしいと思いながら、カタリナとの婚約式を続けてしまった大神官、ジュスティーヌ達を追おうとしたが、黒王号に怯えた馬が全然言うことを聞いてくれなくて、今頃ようやくたどり着いたジーヴス達も連座だ。
まだ起き上がれない国王はそのへんに大の字になったまま「敗けた……ファイアボールに敗けた……」とうわ言のように呟いている。
「ったくもー! 無茶しすぎですよ色々と!」
顔や首などに軽くやけどをしていたシャラントン公爵を、ジュリエットが光魔法で治してやった。
公爵はべそべそと泣いている。
説教タイム、と言っても、アルフォンスとジュスティーヌは、結婚を認めさせた喜びでいっぱい。
機転を利かせて急報してくれたカタリナに礼を言ってあわあわさせたり、互いに見つめ合うのに忙しい。
代わりに末の王女ソフィーが、「魔法で意志を抑えつけて婚約させるとはなにごとか!」と大人たちを叱ってくれた。
「……ごめんなさい、わたくしが悪かったわ。
王家の『耳』からあなた達が結婚を約束していたようだと聞いて、とにかく引き離そうと焦ってしまったの」
しょんもりした王妃は、深々と頭を下げた。
「ルイが逆上したら、アルフォンスになにをするかわからないというのもあったけれど。
ジュスティーヌのために後添いの話を全部断ってしまったルイが、こんなに早く一人ぼっちになってしまうのは、いくらなんでもかわいそうという気持ちもあって……つい」
「あ……」
ジュスティーヌは母が亡くなってしばらく経った頃のことを思い出して、声を漏らした。
遠い親戚だったり近隣国の王族だったり、とにかく若い女性が何人か、入れ代わり立ち代わり公爵家の館に滞在していた。
妙に猫なで声で接してくる彼女達が気に入らなくて、ひどい癇癪を起こしてしまった記憶もある。
自分がああいう態度を取らなければ、父はあの人たちの誰かを後妻として娶り、弟や妹が生まれていたかもしれなかったのか。
「いやいやいやいや、それは違う。
ジュスティーヌ、それは違うんじゃ。
田舎者のおっさんのところに来てもええ言うてくれる人がおらんかっただけなんじゃけ」
公爵は、慌てて両手を振って違う違うと主張した。
「あなた、あの頃まだ30歳過ぎだったじゃないの。
銀獅子公ならば、後添えでも嫁ぎたいという方はいくらでもいたのに」
王妃が公爵を睨む。
口ぶりからして、早くに妻を亡くした旧友を心配して、王妃も後妻候補を紹介したのかもしれない。
「じゃけえ、それは子供に聞かせる話やないじゃろうが!」
公爵が大きな声を出して、王妃は息を飲んだ。
「……すまんすまん。
クリスティーヌ、ああたがあれこれ心配してくれたんは、まっことありがたいことじゃ思うとる。
じゃが、ワシはのぅ、なんでもええけ、ジュスティーヌに幸せになってほしいんじゃ。
マグダレーナが儚うなってから、それしか望みはないんじゃけ」
「お父様……」
ジュスティーヌは、思わず父にかけより、抱きしめた。
父も、「すまんのう、考えが足りんことをしてしもうた」とえぐえぐと泣きながら抱き返してくる。
思えば父一人子一人。
小国とはいえ、多忙な君主という立場にも関わらず、父はよくジュスティーヌと遊んでくれ、魔獣の狩り方を自ら教える一方、母はなくとも立派な淑女になれるよう教育にも心を配り、優れた教師をわざわざ帝国から招いてくれたりした。
頓珍漢なこともちょいちょいやらかす父ではあるが、その深い愛情を疑ったことは一度もない。
アルフォンスと結婚するということは、この父を一人にしてしまうということなのだ。
ジュスティーヌは父と抱き合ったまま、アルフォンスを見上げた。
涙が溢れ、頬を伝っていく。
アルフォンスと一緒にいたい。
だが、父を置いて行くのは自分には到底無理だ。
眼を潤ませながらジュスティーヌ達親子を見下ろしていたアルフォンスは、ふと笑顔になると、パンと両手を叩いた。
「では、私が公爵家に婿入りしましょう」
「「「「「「はいいいいい!?」」」」」」
王太子アルフォンスはジュスティーヌとシャラントン公爵の傍に跪くと、ジュスティーヌの手をとった。
「君が、父上と離れずに私と結婚するには、それしかないじゃないか。
君は私との結婚を神意審問で勝ち取った。
だから、君が一番幸せになるかたちで結婚するのが、女神フローラのご意思にもかなうことだ。
そうだろう?」
「で、でも……」
「君のためなら、王太子は降りる。
廃嫡までされると、公爵家に婿入りする資格がなくるから勘弁してほしいが」
「アルフォンス!?
そんな勝手が許されるわけがないでしょう!?」
王妃が逆上し、王女たち、重鎮たちもざわついている。
「あーあーあー!
そもそもなぜ嫁入り婿入りで揉めているのか、吾輩にはさっぱりわからんのだが。
普通に共同統治にすればよいではないですか」
隅っこでふてくされていたサン・ラザール公爵が、モノクルをきらんと光らせながら話に割って入った。
「「「「「共同統治!?」」」」」
「君主または継承者同士が結婚した時に、夫婦が共同で双方の国を統治する体制だ。
ま、強めの『同盟』とイメージしていただければ。
公国と王国は4代前までは一つの国。
言語も宗教も同じで、通商を盛んにすればするほどお互い儲かるのだから、この際、組んでしまった方が得だと説得するのはさほど難しくはないのでは?
近年の情勢からして、近隣国も特に抵抗はしないでしょう」
「その場合、次代はどうするのですか?」
アルフォンスがぱちくりと訊ねた。
「子が生まれれば、『同君連合』を組めばよろしい。
同じ君主を戴く同盟国ということだ。
生まれなければ、王家、公爵家の継承者をそれぞれ別に選ぶことになる」
「「「「なるほど……」」」」
「このあたりの国々では先例がないのでなかなか思いつかなかったのでしょうが、北方諸国では幾度か例のあることです」
ドヤ顔で皆を見回し、サン・ラザール公爵は補足した。
王妃やシャラントン公爵、重鎮達が顔を見合わせる。
「そういえば、大昔、大陸史の授業で習った気がする」と今更なことを言い出す者もいた。
「あーのー……
もしかして、そういうこともできるって閣下が早く教えてくだされば、こんな大騒ぎにならなくて済んだのでは?」
ジュリエットがきょとりと首を傾げて訊ねた。
うぐぅとサン・ラザール公爵が詰まる。
「ふ、二人を穏当に結婚させる方策はないかとお訊ねがあれば、もちろん申し上げていたが!
不良娘を片付けるせっかくの機会を、自分から潰す馬鹿がどこにいるッ」
サン・ラザール公爵は逆ギレすると、「この貸しは、ぜひ娘の縁談で返していただきたい!」と吠えながら、カタリナの首根っこを捕まえて、さささとどこかに逃げていった。
というわけで、アルフォンスとジュスティーヌはただちに婚約した。
式典は無事行われ、ジュリエットは記念競馬でぶっちぎりの一着をキメたが、ジュスティーヌのウハーな払戻金は、色々ぶち抜いてしまった王宮の補修費用にほぼ消えた。
4年後、ジュスティーヌが18歳になるのを待って、アルフォンスとジュスティーヌは結婚した。
ブライズメイドはジュリエットとカタリナが務めたが、カタリナは式で出会った某国のイケオジ王族に熱烈に求婚され、色々あって28歳でようやく結婚した。
カタリナの結婚式でサン・ラザール公爵は凄まじい号泣っぷりを見せ、シャラントン公爵とサン・ラザール公爵、どっちが激しく娘の結婚式で泣いたか、しばらく近隣諸国の語り草になったという。
アルフォンスとジュスティーヌは両国を行き来しながら、仲良く国を治めた。
二人の曾孫の代になると、国民からの要望を受けるかたちで両国は統一され、ますます栄えた。
アルフォンスとジュスティーヌの銅像は、国の祖として王都や主要都市の中心部に飾られ、二人は手を取り合って、王国の行く末を見守っている。
最後までご覧いただきありがとうございました!
感想や★評価など、お気持ちのままに賜われますと、作者のやる気が急上昇し、またアホな感じの作品を投稿したりしますので、なにとぞよろしくお願いいたします。
ちなみに共同統治も同君連合もイギリスで実際に行われたことがあるそうです。
この作品は、「王太子アルフォンスが雑な扱いを受ける」シリーズ第14作目で、古芭白あきら先生に頂戴したネタ「ロミオ的役割はジュスティーヌ、ジュリエット的役割はアルフォンス(なお性別は逆転しません)」から書いた作品です。
あんまり「ロミオとジュリエット」になってないですが……
古芭白先生、ありがとうございました!




