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茅野陽太

 2 


 私立桜ヶさくらがおか学園は、埼玉県狭山市にある高校である。偏差値は平均よりやや高いが、進学校ではない。

 入間川いるまがわという一級河川の隣に建つ校舎には爽やかな風が吹き込み、自然の息吹を感じる。

《桜ヶ丘》という校名通り、春には満開の桜が咲く《桜ヶ丘公園》がすぐ近くにある。

 入間川を中心に急勾配な坂が多い。車があれば苦にならないが、自転車が愛車の高校生には大変である。

 そんな自然溢れる環境で僕は二年と少しを過ごしてきた。

 生徒数は多く、予算は潤沢にあり、特に運動部の活動は活発だ。昨年はサッカー部が冬の埼玉県大会を優勝したほか、野球部は夏の埼玉県大会で準優勝をしている。

 学校までは自宅から自転車通学をしている。自宅を出て、入間川にかかる《広瀬橋》という大きな橋を渡り、川の水源を利用した田園風景を越えて、大体、二〇分程度だ。

「じゃあ、よろしくね」

「ったく……、しょうがないなぁ」

 結局、蒼衣を家に連れてくることになった。理由はよくわからないが、しかし、拒否する理由も特にないのである。

「さあ、出発進行ー!」

 なんて蒼衣は自転車の荷台に乗って元気よく言う。「歩いて帰ろう」と提案したが拒否され、僕が自転車を漕いでタクシーをすることになった。

 なんだか蒼衣には強く出られないのである。

 狭山市名産の《狭山茶》の茶畑を横目に見ながら、広瀬橋を渡る。

「わー、ひっろーい」

 蒼衣は太陽を手のひらで遮りながら、川幅百メートルを越える入間川を覗く。

 光が反射してキラキラと光る。

「昔散々見ただろ」

「でも久々だもん」

 入間川の向こう岸に王川小学校が見える。僕らの母校である。小さいころは、この河川敷でよく遊んだ。虫を集めたり、追いかけっこをしたり、釣りをしたり、水遊びをしたり……、面影が泡になって溢れる。

「懐かしいね……、陽太」

 広瀬橋を渡ると、急勾配の坂を登った。一人でも結構きつい心臓破りの坂だ。蒼衣を乗せて走るのは一苦労だった。《七夕通り商店街入り口》の交差点を越えて、狭山市駅西口を通り、自宅へ戻った。

 緑色の外壁。築四十年ほど経っていてそれなりの痛みはあるが、僕にとっては生まれてからずっと住んできた大切な実家である。

 小さいが庭もあり、大きな松の木が植わっている。

「わー、なつかしー! 陽太の家だー」

 自転車を降りた蒼衣は、無邪気な笑顔ではしゃいでいる。小さいころは仲がよかった僕らは、よく遊んだ。

 平日の放課後。週末の野球の練習の後。家の中で野球のゲームをしたり、庭でキャッチボールをしたり、たくさんの思い出がある。

「何年ぶり? 五年ぶり? わー、懐かしいなぁー!」

「こっちは大変だったのに」

 蒼衣は元気だった。 

 僕は蒼衣を乗せて自転車を漕いできて、もうヘトヘトなのに。

「陽太」

「……ん?」

「ありがとう」

 と蒼衣はにっと笑って頭を下げる。

「乗せてきてくれて」

「え、いや……あぁ」

 屈託のないその言葉に圧倒される。

「ね? おうちはいろ」

「あぁ、そうだな」

 引き戸を開けて家に入る。少し広めの土間に靴が数足置いてある。

「お邪魔しまーす」

 蒼衣は靴を脱いで家に入る。脱いだローファーは自分で綺麗に整えた。昔は脱ぎっぱなしだったのに、大人になったなぁと思う。

「あー、家の中何も変わってないー! 懐かしー!」

「はしゃぐな、はしゃぐな」

「えー? だって五年ぶりだよー? ワクワクもするよー! わ-、なんかテンション上がってきたー!」

「なんでだよ」

 蒼衣は踊るように居間へ歩いていく。少し広めの廊下。紺色のスカートから見える生足。僕より背は低いが、比較的長身で綺麗なスタイルをしている。蒼衣の身長は一六〇センチ~一六五センチくらいだろうか。

 *

 居間に入った。畳張りの十畳程度のフロア。中央にはちゃぶ台があり冬はコタツにする。隅っこには小さめのテレビ。ここで蒼衣とよくゲームをした。窓から庭の松の木が見える。あのころよりも少し成長した木。まるで僕らのよう。

「え? おじさんたち海外赴任? 一人暮らし?」

「うん。去年から。転勤でさ、今スウェーデンなんだ」

 この実家には今、僕しか住んでいない。父も母もここにはいない。

「へー、大変だねー」

「そうでもないよ。もう一八歳だし。一人でも暮らせるよ」

 僕は最近嘘つきになった。蒼衣は「嘘はだめだ」なんて言うが、最近嘘ばかりついている。

「立派だねー。おじさんたちも鼻が高そうだね」

「そんなことないよ」

 ヤンキースの活動時は父兄が手伝いに来るのが当たり前だったし、練習後はお互いの家に行って遊んだ。

 僕も蒼衣もお互いの親のことをよく知っている。

「んー? それに一人だったら女の子連れ込んでも大丈夫だもんね」

「変な言い方するなよ。大体蒼衣ちゃんは何しにここに来たんだよ」

「え? それはもう言ったじゃん」

「……?」

「陽太に会いたかったからだよ」

「……!」

 嘘だとはわかっているが。言われる度にドキッとする。澄んだ瞳。屈託のない笑顔。蒼衣は紛れもない美少女。

「へー」

「なに? その反応は!」

「え? いや別に」

「もっと喜んでよ! 私陽太のためにこんな遠くまで来たんだからね!」

「はいはい」

 僕は感情を隠しながら居間の引き戸を開けて隣の台所へ行った。食器棚からマグカップを二つ出して、ココアパウダーをティースプーン二杯分、入れた。

「陽太―、テレビつけていー?」

「いいよー」

 脇にある電子ポッドでお湯を200CC注いで、スプーンで軽くかき混ぜる。

 そして一つのカップには、冷蔵庫から牛乳を取り出して少しだけ注いだ。

 甘い匂いが立ちのぼる。

「はい、ココア」

「ん」

 ちゃぶ台の前で足を崩して座っている蒼衣に、ココアを渡す。僕が床に座ると、

「牛乳、覚えててくれたんだね」

 なんて、笑う。

「まあな」

 蒼衣は、ミルクココアが好き。大切なことは忘れてしまうのに、こんなどうでもいいことは変わらずに覚えている。

「さっきまでは忘れてたけど」

「それ余計!」

 なんて蒼衣は僕の肩を叩く。

 華奢な体から放たれる攻撃の威力は大したことがない。

 あのころは蒼衣の方が体が数段は大きくて、殴られると結構なダメージがあったのに。

「ねー見て見てー、高校野球やってる-」

「埼玉県大会一回戦か」

 蒼衣がリモコンでザッピングをすると夏の高校野球埼玉県大会がやっていた。

 二年連続で甲子園出場中の強豪大宮学院と秩父農業高校の対戦である。

 大宮学院は県内屈指のマンモス校で野球部から何人ものプロ選手を輩出してきた名門である。

 対戦相手の秩父農業についてはよく知らないが、強豪ではない。

「ねえ陽太、おばさんたちいないってことは自炊してるのかな?」

「まあね」

「だよねー! さっき陽太が牛乳取った時の冷蔵庫、なんか、ちゃんと? してたから」

「余計なお世話だ」

 簡単にだが自炊はしている。ご飯を炊き、味噌汁を作って食べる。副菜は炒め物が多い。たまに揚げ物や煮物に挑戦してみたりするが、後片付けや味付けが大変で、母のすごさを思い知ったりする。

「ねえねえ、得意料理は?」

「さあ、特にないけど……、まあ炒飯とか? かな」

 料理上手ではないが、シンプルな料理である炒飯は、僕が作っても不味くはないと思う。

「えー? 食べたーい。ねえねえ、今日の夜ご飯につくってよー」

「は? なに言ってんだよ」

「今日ここに泊まる―!」

「いやいや、だからなに言ってんだよ」

「え? だって私泊まるところ決まってないしー、陽太の炒飯も食べたいし、いいじゃん! 泊まっても」

「よくないだろ」

「なんで?」

「なんでって……、学校とかあるだろ。ていうか今日平日だろ。学校はどうした?」 

「そんなのどうでもいいの!」

「よくないだろ」

「うるさいなー。いいの! 大丈夫なの!」

「……?」

「学校とかはちゃんと休むって言ってきたし……、それに陽太の家に泊まるんだったら親も安心じゃん。お母さんたちも陽太のこと知ってるし!」

「尚更だめだろ」

「え? なんで? 陽太一人暮らしなんだったら私一人くらい泊まっても全然大丈夫じゃん!」

「いや……」

「あー! もしかして恥ずかしいの? あはは、陽太ってウブだねー! かわいいー」

「う、うるさいな!」

「あはは。体大きくなったのに全然変わってないのねー。そういうところ」

「だまれー!」

「いーじゃん。陽太―、小さいころは一緒にお風呂入ったりしたじゃん。今さら緊張する関係でもないでしょー」

「だけど」

「あ、寝るところはここでいいから。布団だけ貸してくれたら。あ、あと着替えとかも持ってきてないから、陽太のTシャツとか貸してね。陽太おっきいから一枚でいいかなぁ……、あ、あと――」

 蒼衣は人の話を聞かず、勝手に進める。

 プライドが高くて負けん気が強い女の子。背が小さくて性格もひ弱だった僕は、あのころの蒼衣には何も意見出来なかった。

 だけどそんな関係は嫌いじゃなかった。

 それに、負けず嫌いの蒼衣は何か上手くいかないことがあったら、必死に努力して、次は必ず成功していた。

 そんな熱い性格はかっこよかったし、憧れだった。

「だいたいさぁ、蒼衣ちゃん、何しに来たの? 狭山まで」

「えー? だから陽太に会いに来たんだって」

「そういうのはいいから」

「……?」

「何しに来たの?」

「……? 陽太日本語わからなくなっちゃった?」

「うるさいな。真面目に聞いてよ」

「……? 私は真面目だよ?」

 蒼衣は外国人みたいに大きなリアクションで困った顔をする。両手を広げて「WATT?」なんて言った。

「そもそも、なんで俺の高校知ってたの?」

「え……、あ……」

 蒼衣からギクリ、という擬音が聞こえる。

 蒼衣とは五年間程、連絡をっていない。僕の高校を知っているはずがないのだ。

「誰に聞いた?」

「そ、それは……、なんか。勘? みたいなやつで……」

「そんなわけないだろ」

「ほ、ほんとだよー! にししー、私感性鋭いから!」

「はぐさらかさないで」

「はぐらかしてなんかない、よぉ?」

 蒼衣の嘘は子供みたいでわかりやすかった。蒼衣は小さいころから顔がよく喋っていた。

「はぐらかして、ない……、けど……」

「けど?」

「ひ、陽太の高校はね……、ネットで調べたの」

「……!」

 インターネット。

 蒼衣のその言葉で全ての合点がいった。

 僕は質問の答えを一瞬で理解した。

「ネット……」

「そ、そうだよ。言ってなかったのはごめんね。だけど……、陽太すごいじゃん! すごすぎて言いづらかったんだよ」

「そんなこと……、ないよ」

「すごいよ。ネットにいっぱい記事あったよ? 桜ヶ丘高校の二年生エース、茅野かやの陽太。長身からくり出される一四八キロの剛速球でチームを初の決勝戦に導いたプロ注目のピッチャー」

 昨年の夏。

 桜ヶ丘学園野球部は快進撃を続け、チーム初の決勝進出を果たした。高い打撃力を活かした攻撃的チームだったが、決勝戦までを一人で投げ抜いた背番号一番の二年生エース、茅野陽太もまた注目された。

「動画も写真もたくさんあったよ。陽太、めっちゃすごいじゃん」

「すごくないよ……」

「桜ヶ丘っていったら結構強豪校だし、そこで二年生でエースだったなんて、相当だよ」

「先輩が怪我したからエースだっただけ」

「でも準優勝じゃん。後一歩で甲子園だよ。すごいよ」

「昔の話しだよ。それに負けた」

「それでもすごいよ。なんかさぁ、私は昔の仲間が野球を続けてて、そこまでいったって思うと嬉しくてね、自分のこと? みたいに思うんだ」

 あの夏の決勝の日は覚えてる。

 とても暑い日だった。

「陽太……」

「……ん」

「なんで野球やめちゃったの?」

 三年生。

 野球はもうやっていない。

 テレビに映る大宮学院対秩父農業の試合は快調に進んでいる。強豪大宮学院が攻守に圧倒し、四回終了時点で十二対一でリードしている。

 グラウンドの暑さが脳裏をよぎる。

「まあ、いろいろあって」

「いろいろってなに?」

「言いたくない」

「だめ、教えて」

「だからいろいろだよ」

「そんなんじゃわかんないよ!」

 ――蒼衣は獣みたいに抱きついてきた。その勢いに押されて僕はバランスを失い、押し倒されてしまった。

「いッ……! 痛っぁ……、おい、……蒼衣ちゃん、なんのマネ……」

 背中を打って痛みを感じる。

 僕に跨がっている蒼衣に視線を向ける。

「なんで……」

「え?」

 蒼衣の瞳が潤んでいて泣いているように見えた。

 それは瑞々しい瞳のせいだろうか。

 蒼衣の体温を感じる。

「私……、知りたいんだよ。陽太ことが知りたいの」

「知りたいって、なんだよそれ」

「陽太は、変わった?」

「……? は? 変わる?」

「ねえ陽太」

「……?」

「ひ・な・た」

 耳元でささやくように言った。体がぞくっとして足下が寂しくなった。蒼衣じゃないみたいな、悲哀を持ったくすぐったい声。

「ひなた……」

「お、おい、蒼衣ちゃん」

 蒼衣は体を密着させる。垂れ下がった前髪で蒼衣の顔はよく見えない。

 甘い吐息が空間を惑わす。

「ちゅーしよっか?」

「は、はぁ?」

「ね……陽太……」

 蒼衣は大人びた声を出して僕の頬を指先でなぞる。顔を近づけて、じっと見つめたその瞳は、僕が知っている蒼衣じゃなかった。

――なーんて、ドキドキした?

 と蒼衣は僕の頬を掴んで笑った。

「わー、めっちゃ熱いー。それに赤くなってる―。かわいー」

「は、はぁ?」

「背はおっきくなったけど、陽太は変わんないね」

「い、意味わかんねえよ」

「陽太が教えてくれないからちょっとからかってあげようと思って」

「はぁ?」

「ドキドキしたぁ?」

「し、してねえから」

「あはは、陽太は嘘が下手だね」

 蒼衣はバカにするように立ちあがって笑った。

 あのころは蒼衣が考えていることはなんでもわかってたのに、今は、なんだかよくわからない。

 僕は上半身を起こす。

「よかったぁ」

「……なにが?」

「なんでも!」

「……いや、ほんと意味わかんないから」

「私さぁ、死ぬんだ」

「え?」

「病気でね、余命三ヶ月」

「……?」

「だから最後に陽太に会いたいなぁって思って、会いに来たんだよ」

 蒼衣は振り返って悲しそうに笑う。

 酷い影が部屋を覆う。

 見たことがない表情だった。

「え……、嘘、そんなことって」

「ねー、私もびっくり」

「そんな……、蒼衣ちゃん……」

「陽太にもお別れを言っておこうと思ってさ」

「いや……、まさか」

「だから泊めてよ。狭山も最後に見て回りたいの」

「お、おう! いいよ! 任せて! 色々案内するから!」

 僕がそう言って応えると、蒼衣はまた不敵に笑った。

 にっと口角があがる。

「陽太は変わらないね、ほんと」

「……?」

「純粋だなぁ」

「……どういうこと?」

「騙されやすいね」

「……え?」

「単純でさぁ、素直だからあのころはみんなによく虐められてたじゃん? そのころからなんにも変わらないね」

「……それって、どういう……」

「頭の回転が遅いのも変わらない」

「……? も、もしかして……」

「そう」

――嘘だよー!

「あ、蒼衣ちゃん!」

「あはは。死ぬとか嘘だから! 死なないから! 大丈夫。安心して!」

 蒼衣はお腹を抱えて大笑いした。子供あつかいされている気がしてイラッとした。

「蒼衣ちゃん!」

「陽太は素直だねー、変わらず」

「嘘はだめだって言ったのは蒼衣ちゃんでしょ!」

「そだよ。でも大人は嘘ついてもいいんだよ、少年よ」

「蒼衣ちゃんだって子供だろ!」

「うん……、そうだよ。でも……、私たちもうすぐ大人になっちゃうじゃない?」

 季節が移りゆく速度はどれくらいだろう。入間川を渡って、茶畑や田園風景を越えて自転車で走る。そんな毎日は、あっという間に終わる。高校三年生。こないだ入学したと思ったら、もう最終学年。すぐに卒業してしまう。今日が思い出に変わる速度はきっとすごく早い。それを青春というのなら、仕方ないけれど、でも少し寂しく感じる。

「もう高校三年生だよ。卒業したらきっとすぐ二〇歳になって、そしたらもう大人じゃん。早いよ。人生は」

「……、そうだな」

「私さぁ、なんか寂しくて」

「わかるよ、その気持ちは」

「でしょ! だからさ、青春の最後にね、またみんなで野球がやりたいって思って」

 あのころの蒼衣はスーパースターだった。

 エースで三番を打つキャプテン。美少女で人柄もよくみんなに慕われる。

 そんな蒼衣がいつも心に残っている。苦しくなった時、蒼衣のことを思い出してきた。

 夏の空で少女が走る姿。

「それで陽太だったらみんなと接点ありそうだし、とりあえず陽太に会おうと思って」

「なるほどねぇ……」

 あのころ少年野球をやっていたメンバーはみんなそれぞれの人生を歩んでいる。連絡をとっている友達もいるが、もう疎遠になってしまった人の方が多い。

 風景は変わる。僕らは瞬きする度に前進する世界に生きている。

 でも、たまにはあのころのことを思い出してみてもいいと思う。

「いいじゃん、野球」

「え? いいの? 陽太」

「うん……、まあ蒼衣ちゃんの気持ちはわからないでもないし、みんなでまた野球やるのも楽しそうだし」

「陽太―! 大好き!」

 と蒼衣は僕に抱きついて無邪気に笑う。

 黒髪から甘い匂いがする。窓から射す光。ドキンッとする。あのころのことを思い出す。抱き合うことはよくあった。蒼衣は活発でスキンシップが多かった。試合に勝った時、ファインプレーをした時、一緒に喜んだ。女の子だ、って意識することはあったけど、でも、気にならなかった。だけど今は……。

「じゃ、今日は泊まって、明日からさっそくみんなに会いにいこ!」

「明日は学校だ」

「えー、休めばいいじゃん」

「みんなだって学校だよ。ていうか蒼衣ちゃんだってそうだろ」

「私はしばらく休むってちゃんと言ってきたから大丈夫だよ」

「へー」

「それより誰に会いに行く? なーちゃん? 大ちゃん?」

――ワアアアアアアアアアアア。

 テレビから大きな歓声が聞こえた。甲高い金属音が歓声を割っていく。

「大宮学院三ランホームラン! 打ったのは三年生、藤村雄大くん!」

 アナウンサーが興奮気味に言った。

 野球場に映る白いユニフォームを着た逞しい青年。

「え? 大ちゃん?」

「ああ、雄大。あいつだよ」

 そこに映っていたのはあのころの友達、藤村雄大ふじむらゆうだいだった。


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