始まりの殺人
「はぁ……はぁ……。」
走る、走る、走る。
焼けるような空気と木が焼ける匂いを感じながら、山を下っていく。
まずい……まずいまずいまずい!勇者たちと闘えば人数的にも戦力的にも劣るカーバンクルたちは負けてしまう。
犠牲は出るかもしれないけど、最小限の犠牲にしなければ……!
「ッ!!」
人の気配を察知して近くの木の影に隠れ、静かに前を見る。
前には革の鎧を着た男が二人ほどいた。どちらも、ニブルヘルト王国の兵士か……さらに言えば、あの基地の兵士だろう。
あそこの兵士はそこまで強いわけではない。強いのは団長や教官くらいだし、殺せるか……?
「ふうっ……。」
呼吸を整え、猿のように木の上に登り、弓に矢をつがえる。
殺すことには抵抗はない。何せ、俺はこの村で多くの獣を狩っていたのだから今さら人間を殺すなんて……躊躇う必要はない。ないが―――――――
(くそっ、何で手がぶれる……!)
不思議と、手が震える。まるで、本能が人殺しをするのを躊躇っているかのように。
くそっ!止まれ、止まれ止まれ!ここで殺さないと友達が死んでしまうんだ!
『――――何かに怯えてしまったらこの言葉を唱えろ。『ここは、狩人の領域だ』ってね。』
ふと、頭をよぎるのはリーグの言葉だった。
今日聞いたから、と言うこともあるけど……何で、この言葉が思い浮かんだんだ?
でも、使ってみるか。
「……『ここは、狩人の領域だ』。」
おまじないの言葉を唱えた瞬間、手の震えは止まり、昂っていた心は凪のように静寂となった。
……自己暗示の一つだろうか……?でも、これで手振れの心配はない。何時でも……射てる。
「ふう……っ!」
「がっ!?」
つがえていた矢を離す。
矢は一直線に飛び、兵士の首の付け根に突き刺さり、絶命する。
「なっ!?」
「ふう……っ!」
突然倒れた兵士に驚いている兵士を脇目にすぐさま矢筒から矢を抜き取り、つがえて狙いをつけて離す。
今度は矢が脚の関節の部分に突き刺さり、兵士は倒れる。
……ここまでお膳立てがすめば……自分の手で殺せるか。
「お前は……まさか、人間なのか!?何で人間が魔族の味方をする!?」
「生憎だが……死ぬことが確定している奴に何を言っても意味がないだろ?」
「かひっ!」
ゆっくりと歩いてくる俺に驚いた兵士は剣を取りだそうとするが、俺の投げたナイフが首の付け根に突き刺さり、兵士は絶命する。
……やっぱり、人を殺しても何の感傷もない。罪悪感は……兵士たちは殺される覚悟があるから来たのだから、全くない。
いや、俺の心が既にイカれているのかもしれないな。
取り敢えず、速く村に行かない―――――ッ!?
「何だ……ありゃ……。」
山の影に日は隠れた。なのに、村の真上に真昼のような光を放つ柱が現れた。
まさか……魔法か!?それに、あの膨大な熱エネルギー……地面に直撃したら村は……!
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあおおおおおおおおお!」
俺の悲痛な祈りを嘲笑うかのように天の塔は落ち、村を越え、山にまで響く程の熱と爆風が肌を焼く。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
狂ったような絶叫と共に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ、気絶した。
――――――この日、カーバンクルの一つの村が……消滅した。




