〇〇六 名族、起つ
~~~洛陽の都~~~
「ち、朕が新たに即位したりゅうきょ……献帝である。
と、董卓から辞令を言い渡す」
「フハハハハハハ! 恐れ多くも陛下からの辞令だ。心して聞くがいい!
袁紹は北へ、孫堅は南へ、
皇甫嵩は西へ、朱儁は東へ飛べ!」
「……か、かしこまった」
「どうした返事が小さいぞ!?」
「「「ははっ!」」」
「ははあ(超だりィことになっちまったな……)」
~~~洛陽の都 王允邸~~~
「董卓め、皇帝陛下と大将軍の仇討ちをしたなどと白々しいことを。
放っておけばあやつこそ陛下や将軍を亡き者にしただろうに。
飾り物にされた幼い陛下がおかわいそうだ……」
「しかし今や董卓には誰も逆らえぬ。
主だった将軍も皆、地方へ飛ばされてしまった。
ましてや文官の我々では……」
「いや、一人だけ心当たりがあるぞ。
曹操ならば、董卓と戦えるやもしれぬ」
「曹操というと……あの宦官と黄巾賊の癒着を暴いた門番か。
その功績で出世し宮廷にいるそうだな。
なかなか気骨のある男だとは聞いているが。
よし、ここでお前とうだうだ話していてもしかたない。
ひとつ連絡を取ってみよう」
~~~洛陽の都 曹操邸~~~
「曹操よ! せっかく出世して名族に並んだばかりなのに気の毒だな!
名族は南皮に赴任することとなった!
またお前に先んじてしまったわ!」
「やれやれ、左遷を栄転だと誤解するとは、
あいかわらずおめでたいね袁紹君は」
「何か言ったか?」
「なんでもないよ。それより、お祝い代わりにこの手紙をあげよう。
いや、今は読まないでくれ。
もし誰かに追われて命の危険を感じたら、追っ手にそれを見せるといい」
「?? あいかわらず貴様は訳のわからないことを言うな。
しかし名族はもらえる物はなんでももらうぞ!
――おお、そろそろ南皮へ出発する時間だ。さらばだ曹操!」
「……さて、お待たせしてしまったね。
士孫瑞君、だったかな」
「曹操よ、もはや都にはお主をおいて頼むべき人物は見当たらない。
どうか、この国と陛下のために董卓を――」
「おっと、それ以上は言わなくていい。
言われなくても話に察しはつくし、
誰が聞いているかもわからないからね。
なに、心配はいらないさ。もう手は打った。
あとは彼がどうにかしてくれるよ」
「彼?」
~~~洛陽の都 近郊 間道~~~
「なぜだ! なぜこの名族が追われなければならぬのだ!?」
「待て袁紹! 陛下の勅命によりお前はここで死ぬのだ!
その首、董卓四天王の俺様がもらったああ!!」
「冗談ではない! な、何かないか何かないか。
そ、そうだ。曹操がくれた手紙が……。
ええい、追っ手よ、これを読めい!」
「何だこの紙切れは? なになに……
『袁紹は董卓追討軍を結成して立ち上がる。
まずは宮廷を焼き払ってやる。首を洗って待っていろ』だと!?
魔王様が危ない! 引き上げるぞ!」
「と、董卓追討軍だと!?
なんだそれは!? どういうことだ曹操!?
し、しかしここは奴の言うとおりにするしかあるまい……。
やむをえん。故郷の冀州に逃れ、
名族の名のもとに兵を集めるぞ!」
~~~洛陽の都 董卓軍 陣営~~~
「フハハハハハ! 吾輩を追討するだと?
袁紹め、早くもしっぽを出しおったな!」
「これは好機です。奴めに魔王様に歯向かう愚か者を集めさせ、
一網打尽にしてしまいましょう」
「おお! 目にもの見せてくれるわ!」
「御意のままに!」
「我ら董卓四天王の力を教えてやろう!」
「魔王様! なにも四天王の手をわずらわせるまでもない。
この俺に先陣を命じてくれ!
北の大地で鍛えられた我らの恐ろしさを味わわせてくれる!」
「おお、よくぞ言った華雄! ならばお前に2万の兵を預ける。
烏合の衆を蹴散らしてやれ!」
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かくして袁紹は成り行きのまま、董卓追討軍を結成することとなった。
はたしてそれは魔王・董卓に対抗しうる勢力になるのか?
そして裏で糸を引く曹操はどう動くのか?
次回 〇〇七 董卓追討軍