〇三〇 白馬の戦い
~~~易京の要塞~~~
「どくッス! 道を空けるッス!
公孫瓚先輩! 話を聞いてください!」
「趙雲! 門を突破してまで何用だ!
さては俺の首を奪い、袁紹に寝返るつもりだな!」
「そんなことはしないッス!
前線に置き去りにされたことも恨んでないッス!
自分はただ、ただ」
「黙れ裏切り者め! お前ら、断じてここの門は開けるなよ!」
「自分はただ、先輩に一言お礼を言いたくて……」
「射殺せよ!」
「くたばれ趙雲!」
「みなさんCM中も裏切り者を逃がさないでくださいよ!」
「先輩……。今までお世話になりました……」
~~~青州~~~
「フン、やっと易京の要塞が落ちたか」
「はい。地下から穴を掘り
ようやく城内へ忍び込むことができました。
公孫瓚とその一族、さらに主だった将の首は残らず挙げました」
「公孫瓚ごときにここまで手こずらされるとはな」
「誰かさんがもう少しマシな策を立てれば
こんなに苦戦はしなかったのだがのう」
「なんだと」
「やめられよ。逢紀殿は別に審配殿のことだとは言っていない。
それより今は戦勝を祝おうではないか」
「デュフフwww 公孫瓚の一族の公孫度、
それに烏丸族も拙者たちに降伏したしおすし。
もはや北方は拙者たちのものですなwww コポォwww」
「いやいや、名族の勢いは北方だけに留まるものではない。
かくなる上は――」
「かくなる上は?」
「南方、すなわち逆賊・曹操を討伐し献帝陛下を奪回する!
そしてこの名族の威光があまねく天下を照らすのだ!!」
「袁紹様バンザーイ! 名族バンザーイ!」
「………………」
「………………」
「ん? わしなんか、おかしなこと言ったかのう?」
~~~許昌の新都~~~
「そうか、ついに袁紹君が動いたか。
優柔不断な男だが、決断するとさすがに早いね。
全軍を挙げて南下してるって?」
「はい。東の北海方面から徐州へ長男の袁譚が、
西の并州からは長安へ次男の袁煕が、
そして袁紹自身は中央から白馬を目指しています」
「名族と名乗るにふさわしい正攻法の作戦だね。
正面から僕らを押しつぶす自信があるのだろう。
それじゃあ僕らも兵を割り振ろうか。まずは荀彧君」
「はいはい」
「君には都の守りと僕が留守の間の政治を任せたよ」
「わかりました。でも私だけでは間に合いません。
殿も二月に一度くらいは戻ってきていただけると助かります」
「ああ、そうするつもりだ」
「お、おい。
指揮官のお前がそんなに頻繁に前線から抜けるつもりか?」
「そりゃあそうさ。
袁紹君との戦いより、政治のほうが大変だからね。
それとも夏侯惇君は僕がいないと怖くて戦えないのかい?」
「お前なんかいらねえよ!
見てろよ、お前が留守の間に袁紹の首を挙げてやる!」
「それが一番助かる。ぜひよろしく頼むよ。
……つづいて徐州方面だね。そっちは曹純君と臧覇君に任せよう」
「袁紹のドラ息子は引き受けました。殿は安心して戦ってください」
「大役を預かったな弟よ! 殿の期待に応えろよ!」
「ガッハッハッ! 俺もいるから大船に乗ったつもりでいろ!」
「徐州にはまた僕に降ってくれた陳登君もいる。
彼は徐州と自分の身を守るためならなんでもするから、
頼りにするといいよ。
西のほうは、長安に詰めている鍾繇君に任せればいいだろう」
「わかりました。鍾繇様に伝えておきます」
「兵站はいつもどおり韓浩君に委ねるとして、
他に何か打っておくべき手はあるかな?」
「揚州」
「ふむ。がら空きの揚州に孫策君が手を出さないとは限らないね。
袁術君の残党も暴れているそうだし、なにか布石をしておくべきか。
それじゃあ、劉馥君」
「へい」
「君は袁術君のもとにいたから、土地勘があるだろう。
揚州に入り、地盤を固めてくれ」
「わかりやした」
(降伏したばかりの無名なこの男をそんな大役に抜擢じゃと……。
あいかわらず殿はとんでもないことを考えおるわ)
「悪いんだけど兵はあんまり回せないんだが……」
「なあに、兵は300人も貸してくれれば十分でさあ」
「たったの300人だと?」
「何か腹案があるみたいだね。君の好きなようにしたまえ。
兵は貸せない代わりに、副官には
若手なら誰でも連れていってくれていいよ」
「じゃあ温恢を貸してくだせえ」
「温恢? そんな奴いたか?」
「父の遺産を捨てて無一文で官吏になった彼か。
いいよ、連れていきたまえ」
「貧乏暮らしが長く続きそうなこの任務にゃあ、
うってつけでやしょう?」
「もっともだ。それじゃあ頼んだよ。
名前を挙げなかった諸君は、
本隊として僕とともに白馬に向かってくれ。
袁紹君の兵は……そうだね、僕らの十倍はいるだろうから、
一人あたま十人を相手にするつもりでいてくれたまえ」
「十倍か……! 面白えー。望むところだ!」
「そうそう孔融君、何か意見はあるかな?」
「孔子曰く『袁紹は逆賊』と申す。この戦に反対はせぬ」
「孔融君のお墨付きももらった。
大義は僕らにありというわけだね。
それじゃあ出発しようか」
「おう! 先に行っているぞ!」
~~~白馬~~~
「チッ……曹操のヤロー、
俺たちをこんな最前線に飛ばしやがって。
誰のおかげで呂布を殺せたと思ってるんだ」
「当てが外れちまったな」
「恩賞はもらったが、それだけで一生暮らせはしない。
軍人を続けるのはしかたないが、
よりによって白馬への駐屯を命じられるとは……」
「若僧の張遼や山賊の臧覇が呂布軍の残党を率いてるってのに、
なんで古参の俺たちがこんな扱いなんだよ!」
「まあ逆に言えば大手柄を立てる好機でもある。
聞けば袁紹軍の先鋒は、顔良と劉備だそうだ。
どちらも名の知れた将だ。どちらかの首を取れれば……」
「私にいい考えがある。
劉備はかつて呂布に徐州を奪われた。
呂布を殺すきっかけを作った我々は、
いわば劉備のために徐州を取り戻してやった恩人だ」
「その徐州はあっさり曹操に奪われてるけどな」
「だが劉備は望んで袁紹陣営についたわけではない。
あの男は非常に単純な人間だという。
曹操に許してもらえるよう我々が取りなしてやると言えば、
誘いに乗るのではないか」
「そううまく行くか?
だいいち俺たちが取りなしなんかできるのかよ」
「ただの方便だ。そのまま捕らえて曹操に突き出してやればいい。
もし誘いに乗らなければ、その場で殺すだけだ」
「二段構えの策というわけか。
どちらに転んでも俺たちにとってはおいしい話だな」
「おっ。早速おいでなすったようだぜ」
「よし、出陣だ! 劉備を狙うぞ!」
~~~白馬 北部~~~
「ぐおおおおっ!」
「うぎゃあああああっ!」
「く、クソが! 退け! 退けーーい!」
「……なんだったのかしらアイツら」
「全くけしからん連中じゃ! 袁さんを裏切れだと?
わしと袁さんの友情をなんだと思っておる!」
「……ちょっと親切にされただけで
すっかり袁紹に心酔しちゃってるわね」
「呂布に騙され、曹操に追われ、
人間不信になってもおかしくないアルからな」
「こいつはそんな繊細な人間じゃないわよ。単細胞なだけ」
「さすがは名にし負う劉備殿! 曹操めの誘惑をはねつけ、
間者を即座に斬り捨てるとはお見事!」
「魏続を斬ったのはアタイだけどね」
「顔良さんこそ、宋憲とやらを
一刀両断にした腕前、惚れ惚れしたぞ」
「後ろから不意打ちだったけどね」
「劉備殿と張飛殿がおられれば、曹操など恐れるに足らん!
この勢いをかって我々だけで曹操軍を壊滅させてやろうぞ!」
「おうよ! 袁紹様バンザーーイ!」
「………………」
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かくして前哨戦は侯成らの失策により、袁紹軍の大勝となった。
はたして袁紹軍はこの勢いのまま、曹操軍を圧倒するのか?
だが劉備の前には数奇な運命の罠が待ち構えていた。
次回 〇三一 劉備 VS 関羽




