〇〇二 北門の鬼
~~~洛陽の都~~~
「何進大将軍! 官軍を代表する精鋭である我々を集めるとは、
ご用件はやはり……?」
「うむ。諸君、本日集まってもらったのは他でもない。
ちまたを騒がせている黄巾賊のことだ」
「あの黄色い布を頭に巻いた趣味の悪ィ連中だろ?
オレの地元でも大騒ぎしてるぜ」
「黄巾賊の乱暴狼藉に皇帝陛下は心を痛めていらっしゃる。
そこで陛下は官軍を総動員し、黄巾賊を殲滅せよとおっしゃったのだ」
「はっ、お任せあれ。
すぐさま逆賊を平らげ、陛下と民の心を安んじましょう」
「皇甫嵩よ、残念ながら貴殿の出番はない。
なぜならこの名族があっっっという間に黄巾賊を討ち果たし、
天下にその名を轟かせるのだからな!」
任せたぞ、官軍の精鋭たちよ。黄巾賊に目にもの見せてやるのだ!」
(……………………だりィ)
~~~洛陽の都 郊外~~~
「聞いたわよ、馬元義。
黄巾賊の頭目が二人もやられちゃったそうね」
「程遠志と鄧茂は黄巾軍の中でも最弱の二人だ。
ヤツらがやられてもどうってことはねえよ」
「あらそう、余裕なのね」
「それにいくら戦で負けても屁でもねえ。
なんせ宦官のお前と俺様が組んでれば、
いつでも洛陽を火の海にすることも、
皇帝を人質にすることもできるんだからな」
「うふふ……本当にその通りだわ。
官軍の連中も、十常侍の連中も夢にも思ってないでしょうね。
お膝元にあたしたちのような存在がいるなんて」
「それにしてもあんたも悪いヤツだな。
十常侍ってえ偉い宦官に対抗するため、
俺たち黄巾軍と裏で手を結ぶなんてよ」
「官軍が勝ってもよし、黄巾賊が勝ってもよし。最後に笑うのはあたしよ」
「怖い怖い。まあ、俺たちとしては、洛陽に内通者がいれば大助かりだ。
そろそろ教祖様から合図が来るはずだから、準備をしておいてくれよ。
じゃあな、また来るぜ」
「あら、もうそんな時間?
そうそう、帰るんなら、北門を通るのはやめておいた方がいいわよ」
「北門を? どうしてだ?」
「…………鬼が出るからよ」
~~~洛陽の都 北門~~~
「蹇碩も妙なことを言うな。
この洛陽の都に鬼が出るだあ? 本当に出るなら見てみてえもんだ」
「そこの君、止まりたまえ」
「あん? 何だお前は」
「北門の守備隊長をしている曹操だ。
夜間の門の出入りは禁止されている。明日また出直したまえ」
「門番ふぜいがいい度胸だな。俺が蹇碩様の甥だと知っての狼藉か?
死にたくなかったらそこをどけ!」
「…………戯志才君、都の無断外出に与えられる罪状を教えてくれないか」
「棒打ち二十回だ。
さらに門兵脅迫の罪を加えて棒打ち三十回が妥当ではないか」
「なんだとコラァっ!? どけったらどけよ!」
「おやおや。どうやら門兵暴行も加わったようだ。
曹洪君、もう遠慮はいらない。彼を捕らえたまえ」
「ああ。おとなしくしろ!」
「こ、こいつ、何をする! やめろ!
俺に手を出したら蹇碩様が黙ってないぞ!
どうなるかわかっているのか!?」
「どうなるのか興味深いね。試してみよう。棒打ちを始めてくれ」
「ギャアアアアーーーーッ!!!!!」
~~~黄巾党 本部~~~
「な、なに! 馬元義が殺されただと!?」
「は、はい! なんでも夜間外出の罪で捕らえられ、殴り殺されたとか……。
さらに洛陽からは大規模な官軍が出撃したとの情報も入っています」
『兄者、ここは俺たちに任せろ!
官軍なんて俺たちのコンビネーションで撃退してやる!』
「いや、お二方が出るまでもありませんや。
ここは俺がいっちょ片付けましょう」
「ええい、焦るな者ども!
黄巾の世は目の前に迫っている!
かくなる上は我が自ら愚かなる官軍に奇蹟を見せてくれるわ!」
~~~~~~~~~
かくして官軍、黄巾賊ともに大軍を出撃させ、
全面対決に乗り出すのであった。
はたして天下の覇権を握るのは、黄巾か。それとも……。
次回 〇〇三 潁川の戦い




