〇二八 偽帝の末路
~~~揚州 寿春の都~~~
「劉備と曹操の連合軍が迫ってきてるザンスって!?」
「はい! その数およそ5万!」
「5万ザンスか……。
呂布に負ける前だったら屁でもなかったザンスが、
今のミーの兵力では微妙ザンスよね、周瑜? ……周瑜?」
「周瑜だったら、陛下の指示で視察に出てるぜ」
「ミーの指示で? そんな指示出したザンスかね?
まあそれならすぐに帰ってくるザンスね。
周瑜が帰るまでは打って出てはダメザンス。
それと孫策や袁紹を援軍に来させるザンス!」
~~~揚州 北部 劉備軍~~~
「まったくどうなってんのよ?
国境線どころか、前線を簡単に突破できちゃったわ。
袁術軍は閉じこもってばかりで
ろくに応戦してこないみたいじゃない」
「さてはわしが怖くて出てこられないんじゃな!」
「仮に怖がってるとしてもそれはアンタじゃなくて
アタイや関羽だと思うわよ」
「ヒッヒッヒッ。抵抗しないならば好都合だ。
思うままに蹂躙してやろう。
もし抵抗するならば殲滅するだけだがな」
「……どうせそれをやるのはアタイたちなんでしょ」
「ここまで袁術軍が無抵抗ならば我々が力を貸すまでもない」
「たいした援軍だのう」
「おや、偵察に出ていた弟が帰ってきましたよ」
「報告アル。前方に袁術軍の主力が集結しているようアルが……」
「アルが? 何かあったんか」
「あるアル。
袁術軍は何者かにすでに襲撃され、大混乱に陥ってるアル」
「好機だ! 混乱に乗じて袁術軍を殺戮せよ!」
「……アタイたちが殺戮すんのよね?」
「無論だ。混乱している相手など我々が助力するまでもあるまい」
「はいはい。なるべく兵を消耗したくないのよね曹操サマは」
「…………ッ!」
「ほれほれ、関さんはニンジンを見つけた馬みたいに
飛びかかって行ったぞ。張さんも早く行かんか!」
「まったくアンタらは! アンタらと来たら!!」
~~~揚州 北部 袁術軍~~~
「ヒャッホー! 略奪だぜえっ!」
「昨日の友は今日の敵ってな!
悪いが飯の種を奪わせてもらうぜ!」
「おのれ陳蘭に雷薄め!
呂布との戦いで軍を捨てて逃げ帰っただけではなく、
我らを襲撃するとはな!」
「李豊将軍! 劉備軍も攻めかかってきやすぜ!」
「これでは勝負にならん! 退け! 退けーい!」
「…………ッ!!」
「お前が関羽か!
袁術陛下の秘密兵器こと紀霊様がここは通さんぞ!」
「ッッ!!」
「ぐわあっ!!」
「おーっと逃がさねえぜ」
「てめえらの退路なんてお見通しだ!!」
「うぎゃあああああっ!!」
「口ほどにもないわねアンタら!」
「退けい! 退けーい!!」
~~~揚州 寿春~~~
「周瑜はまだ帰らないザンスか!?
袁紹は!? 孫策の援軍は!?」
「袁紹殿のもとに向かわせた使者は、
すべて旧呂布軍によって捕らえられたようです。
奴らはさらに北上して、袁紹殿の軍とにらみ合っており、
援軍が来るのは望み薄かと……」
「それなら孫策は何をしてるザンスか!?」
「孫策はかつてお借りした兵を
十倍にしてお返ししたいと申し出てきましたが……」
「やったザンス!
3千を貸したから3万になって返ってくるザンスよ!」
「そ、それが3万の兵は我々に向けて槍や矢を向けたまま動かず、
どうやら返すというのは名ばかりで、
攻撃こそしてこないものの我々に協力する気はないようです」
「…………し、周瑜は?」
「その3万の兵を率いているのが周瑜です」
「なんなんザンスかその三段落ちは!?
許さないザンス!
周瑜も孫策も曹操も劉備もみんな殺してやるザンス!!」
「そ、そうしたいのはやまやまですが、
我々にはもうそれほどの兵力は……」
「ぬぬぬぬぬぬぬ」
「なあ陛下、こうなったら覚悟を決めましょうや」
「な、なんの覚悟ザンスか?」
「曹操に降伏するんですよ。
玉璽を差し出せば、命までは取らないでしょうや」
「ぎ、ぎ、玉璽を!? ふ、ふざけるなザンス!!」
「ハンコと命を引き換えにするんですかい?」
「玉璽はミーの魂ザンス! 誰にも渡さないザンス!」
「そうですかい。
あっしの首と玉璽で、陛下の助命を頼もうと思ったんですがね。
じゃあ残念だが、もうあっしにできることはありやせん。
ここでお別れしますわ。今までお世話になりやした」
「ユーの顔なんて見たくないザンス! さっさと消えるザンス!
あ! ま、待つザンス!
今までくれてやった褒美は全部置いていくザンス!」
「言われなくてももう、あっしの家に全部まとめてありやすよ。
それじゃあどちらもお元気で……」
「ち、ち、張勲! 塩をまくザンス!
あと周瑜と孫策と曹操と劉備の首を持ってくるザンス!」
「それができたら世話はない……」
~~~揚州 北部 劉備軍~~~
「袁術は財宝だけ持ってとんずらこいたみたいね」
「主だった将はほとんど討たれたからな。
抵抗する力なんて無いんだろうよ」
「ククククク……。偽帝め、逃がしはせぬぞ。
昼夜を分かたず追い詰め、追い込み、追い打ちするのだ!
袁術にこの世の地獄を見せてやれ!」
「それをわしらの軍がやるんじゃな?」
「無論だ。兵糧と武器は供出してやる。
褒美は思いのままだ。行け」
「褒美は曹操が出すんだろうな」
「この男、自分では何もしないのね」
「私は人を使うことにかけては天才的だからな。さあ、行け」
「…………」
~~~揚州 南部 袁術軍~~~
「…………」
「昼も夜も劉備や曹操、陳蘭らに追い回され、
部下はみな逃げ散ってしまった。
せっかく持ち出した財宝も残らず奪い去られた……」
「…………」
「そのくせ玉璽だけは肌身離さず持っておられる。
金銭的な価値はほとんど無いだろうに。見上げた根性だ……」
「……ハチミツ舐めたい」
「はいはい。水なら少しはありますよ」
「やだ。ハチミツ」
「ありません。
陛下は全てを失い幼児退行してしまったようだ……」
「ぐすん。ハチミツ舐めたい」
「うるせえ! 無えつってんだろ!!」
「ハチミツハチミツハチミツハチミツハチミツハチミツ……」
「ハ・チ・ミ・ツ~~~~!!!!!」
「……これが皇帝にまでなった男の断末魔とはな。
やれやれ。だがこれで玉璽は俺の物となった。
これさえあれば、命をつなぐこともできるだろう」
「ほう、それが玉璽か」
「だ、誰だ!?」
「貴様にはもったいない代物だ。余が預かってやろう」
「ガキが! 俺をなめるなよ!」
「黙れ脇役。死ね」
「はいです。殺すです」
「ぐわああああッ!!」
「……あっさり殺しすぎだ貴様」
「死ねと仰せでしたので殺しただけです」
「違う。余をガキ呼ばわりした者を、
何故もっと苦しませてから殺さぬ?」
「申し訳ありませんです。
御主人様は実際にガキだから悪口とは気づかなかったです」
「貴様も死ね」
「嫌です」
「余の命令には絶対服従ではなかったのか」
「嫌です」
「……使えぬ従者だ」
~~~許昌の新都~~~
「あれだけの勢力を誇った袁術も、あっさり敗れ去ったか」
「しかも自分では手を下さず、
戦はもっぱら劉備殿の軍に任せたそうだ」
「曹操の権力も軍事力も日増しに強くなっている。
これではいつ陛下の地位も脅かされることか……」
「おやおや、陛下を害しようとした人間の言葉とは思えないね」
「だからこそ言っているのだ。
私は陛下の温情により生き永らえているだけだ。
謀叛人の私を許して下さった陛下を守り、
御恩に報いなければならない」
「殊勝な心がけだね」
「私の謀叛未遂は曹操も知っている。
陛下の地位が曹操に脅かされることになれば、
それはすなわち私の身の危険にもつながる」
「……前言を撤回しよう」
「王子服、お前にとっても他人事ではないのだぞ。
曹操が実権を握れば、お前のような家柄の良さだけで
禄を食んでいる人間に居場所はなくなるのだ」
「それはご親切にどうも。
……要するに君は、僕を何かの計画に抱き込みたいのかな?」
「ああ。曹操を暗殺する」
「大きく出たね。勝算はあるのかい?」
「もちろんだ。手伝ってくれるな王子服よ」
「聞いてしまったからには、断れば僕を殺すつもりだろう?
君に殺されるくらいなら、失敗して曹操に殺されたほうがマシだ。
駄目もとで手伝うよ」
「案ずるな。私の計画は完璧だ……」
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かくして偽帝・袁術は無惨な最期を迎えた。
覇権をめぐる趨勢はいよいよ定まりつつあったが、
曹操の背後には董承の陰謀が迫っていた。
次回 〇二九 曹操暗殺計画




