〇二〇 曹操の帰還
~~~徐州~~~
「わしは反対じゃな!」
「…………」
「だって考えてもみい。
呂布はこれまで丁原、董卓、袁紹、張超と
主君を変え、その誰もが死んどるんじゃ」
「いや、袁紹は無事だ」
「董卓にいたっては自ら斬り殺してるんじゃぞ。
そんな危ない奴を信用できるもんか!」
「……fhjasaslasjfl7jl98kxz」
「ミスター劉備が疑うのも当然です。
私の主人は多くが命を落としました。
しかしそれは偶然です。ミスター董卓は別ですが、
それは彼が紳士ではなかったから殺したのです。
あなたが紳士であれば、私は決して裏切ることはないでしょう」
「しかしじゃのう」
「お黙り劉備。判断するのは徐・州・刺・史であるアタイよ。
だいたい呂布の目の前でべらべら本人の悪口言うなんて
どんな神経してるのかしら」
「…………」
「まあ、劉備の意見にはアタイもだいたい賛成よ。
呂布、アンタのことは信用できないわ。
でも……」
「うっ」
「ひっ」
「んぐっ」
「ほら、アタイっておせっかいな性格でしょ。
困ってる人は見過ごせないのよねえ。
いいわ、受け入れてあげる。まとめて面倒みてあげるわよ」
「ち、張さん。何かいま目が妖しく光っとったぞ」
「何のことかしら? さあさ、歓迎の宴会を開くわよ。
んふふ。今夜は寝かせないからね」
「…………」
~~~洛陽城外~~~
「ええい、あんな焼け残りの都をなぜ落とせぬのだ!
かかれ! かかれ!」
「焼け落ちたとはいえ、かつての都の防備を甘く見られては困る。
迎え撃てい!」
「ヘイカ、マモル、オレ、クニニ、カエル!」
「野郎ども適当にかかれー」
「見よ! これぞ武人の奥義なり!」
「ま、また徐晃が命令を無視して暴れてやがる。
退け! 俺が怪我したってことにして退け!」
「楊奉殿はまた撤退したか。しかし陛下は私が守る。
我が君がさみしい時はあと少し付き合うのだからな」
「くそっ。張楊め、あいかわらず言ってることは
わからんが見事な奮戦ぶりだ」
「このままではラチが開かぬ。かくなる上は……。
今だ、誰も見ていない。死ね、士孫瑞!」
「ぐわっ!!」
「中心的人物のお前を討てば、張楊らの結束にヒビが入るはずだ」
「董承……ついに本性を現したな。ずっとお前を警戒していたぞ」
「だがもう手遅れだ。誰も私の裏切りには気づいていない。
城門を開き、李傕らを招き入れてやる」
「あれを見よ……手遅れなのはお前たちの方だ」
「な!? あ、あれは……」
「これが乾坤一擲の戦いだよ。
全軍突撃だ! 逆賊を討ち陛下を救い出すんだ!」
「おうっ!!」
「行くぞ!」
「うおおおおおおっ!!」
「い、いつの間に曹操軍を呼び寄せたのだ。
私は聞いておらんぞ!?」
「だから言ったろう、お前を警戒していたと。
そんな重要なことを話すものか。
曹操さえ来ればお前たちの野望はおしまいだ。
へ、陛下……どうかご無事で……ぐふっ」
「謀ったな士孫瑞! こうなったら陛下を人質にとって……」
「董承殿、陛下に何用だ」
「じ、徐晃。なぜお前がここにいる?
そこをどけ、陛下に急用なのだ」
「武人の勘が告げている。お主は信用できんと。
通りたくば力ずくで押し通れ!」
「董承! もうこれ以上は無理だ。
あんたとの陰謀がバレる前に俺はずらかるぜ。じゃあな!」
「な、なんてことだ……」
「董承」
「へ、陛下……!」
「お前には聞きたいことがたくさんある」
「…………」
~~~洛陽の都~~~
「戯志才……帰ってきたぞ。この洛陽に」
「殿、こちらにいらっしゃいましたか。
李傕、郭汜らは長安へと退却しました。
また彼らと内通していた楊奉も逃げ出したとのことです」
「わかった。
夏侯惇君、夏侯淵君、程昱君を長安へ進撃させてくれ。
陛下には僕から報告しよう。まずはご挨拶に伺わないとね」
「わかりました」
「それと……すまないな荀彧君。
いろいろと気苦労をかけてしまった。
もう大丈夫だよ。戯志才との約束は果たしたんだ。
彼のことはもう考えない。
僕には君という新しい戯志才、いや張子房がいるんだからね」
「あはは。私のような者を伝説の軍師・張子房に
なぞらえてくれるなんて身に余ります」
~~~長安~~~
「はあ、はあ、長安はもう目の前だ。なんとか逃げ切れたな」
「曹操め、この恨みは必ず晴らすぞ」
「あれー? 長安の前に軍隊がいるけど、誰かなー?」
「おやおや、逆賊どもがのこのこと姿を現したようじゃのう」
「しかし長安はもう我々が占拠しました。
あなた方に帰る場所はありませんよ」
「な、何者だ!」
「元・長安の官吏。
今はさしずめ通りすがりの正義の味方ってヤツだ。
お前たちの首を手土産に陛下と曹操のもとへ向かおう」
「こ、こいついつの間に背後へ――ぎゃあああああ!!」
「ば、バカな。董白様! 急いで董白様を逃がすんだ!
お、俺様がこんな所で死ぬはずがああああああッ!?」
~~~洛陽の都~~~
「お前が曹操……であるか」
「はい陛下。お会いできて光栄です」
「朕は董卓、そして李傕らによってお飾り同然にされてきた。
だから正直に言って、お前がすぐには信用できない。
曹操、お前は私をどうするつもりなのだ?」
「どうするつもりもありません。
逆に聞きましょう。陛下、あなたはどうしたいのですか?」
「え……?」
「あなたは皇帝陛下なのです。
この国で最高位に在るお方なのです。
僕たちは、あなたの思うままに動くだけだ」
「ち、朕は……これまで、何一つとして思うままに動けなかった。
なあ曹操、教えてくれ。朕はどうすればよいのだ?」
「そうですね。まずは外に出てみるのはいかがでしょうか。
これまで陛下は洛陽と長安を行き来してきただけでしょう。
僕らがいる限り洛陽にはいつでも戻れます。
この曹操がお供しますから、もっといろいろな所へ
足を向けてはみませんか」
「そ、それはいい! 曹操、朕を連れていってくれるか」
「それではまずは僕の故郷の譙へご案内しましょう」
~~~長安 郊外~~~
「えーん。えーん。また負けたー。
おじい様もパパも李傕もみんな負けちゃったー」
「むむ? 息子よあれを見ろ。
こんな所で少女が一人で泣いておるぞ」
「物騒だね父ちゃん。保護してあげないと。
――ねえ君、お名前は? お父さんお母さんはどうしたの?」
「ぐすん。あたしは董白だよー。
パパもママもおじい様も部下の人もみんな死んじゃったんだよー」
「なんてことだ……ッ! もう心配いらないよ。
この馬超が君のことを守ってみせる!」
「本当にー? じゃあおじい様たちの仇も討ってくれる?
呂布や曹操を殺してくれるー?」
「!? 呂布や曹操がこんないたいけな少女の家族を……」
「父ちゃん! 馬超はいま怒りに燃えているよ!
この子のために今すぐ呂布と曹操を討ち果たしに行こう!」
「おう! よくぞ言った息子よ!」
「殿、若殿、お待ちあれ。
いくらなんでも吾らだけで攻め上がるのは無謀というものだ。
ご覧の通り今は偵察に出てきた吾ら4人しかおりませぬ」
「ならば国に戻り兵を集めるぞ!」
「呂布はともかく曹操は皇帝陛下を擁している。
表立って歯向かうことはできない。
戦うならば、まず陛下を曹操から切り離すべきだ。
……それよりも先に、この娘を保護すべきだろう。
見れば疲れ果てているようだ」
「ぬうう。確かにそうだな。
よし、国に帰り陛下を曹操のもとからお救いする計画を立てるぞ!」
「……龐徳、いつもすまんなあ。
お前がいなけりゃわてら4人だけで
曹操と戦わされるところだったで」
「いいえ、殿や若殿の真っ正直さは尊重すべきものです。
時と場合により歯止めを掛けること、それが吾の役割だと考えます」
「あいかわらず堅っ苦しいなあ。
ま、お前がいてくれてわては感謝してるんやで。
それだけは覚えとってな」
「ありがたきお言葉に存じます」
「……ほんまに堅っ苦しいな」
~~~~~~~~~
かくして曹操は都に入り、覇権への足掛かりを手に入れた。
逆賊・李傕らは討たれ、曹操の覇道を脅かすものはないかに見えた。
その一方、南では超新星が輝きだそうとしていた。
次回 〇二一 孫策の逆襲




