〇一二 界橋の戦い
~~~平原~~~
「お前はまだ自分のやってることがわからんのか!」
「…………ッ!」
「ヒイ! ヒイ!」
「ち、ちょっと何やってんのよアンタら!!」
「見ればわかるじゃろ。
関さんと一緒に董卓の手先を懲らしめてるんじゃ」
「そ、そいつは董卓の手先じゃないわ!
皇帝陛下の勅使よ!」
「こいつが? 陛下の? わしの親戚の?」
「アンタの親戚かどうかはともかく、
陛下のもとから視察に来たんじゃないの!
それを鞭打つなんて何考えてんのよ……」
「はっはっはっ。張さん、そりゃ何かの間違いじゃ。
だってこいつはワイロを要求したんじゃぞ。
陛下の使者がそんなことをするわけなかろう」
「わ、私は、陛下の、勅使、です……」
「まだ言うかこいつめ。やってやれ関さん!」
「…………ッ!」
「ヒイィィィィッ!!」
「あーあ、気絶しちゃったわ……。
関羽の馬鹿力で殴ったら当然よ。
いい劉備? 陛下の勅使と言ってもね、いろんな人種がいるのよ。
こいつみたいなワイロを要求するロクデナシもいるし、
董卓に尻尾を振るヤツだっているわ。
でも勅使なのよ! だから鞭打ったりしちゃ絶対ダメ!!
……ああ、何でアタイ、こんな当たり前なことを
説明しなきゃいけないんだろ。もうサイテー」
「おーい劉ちゃん。お客さんが来たぞ」
「おお簡ちゃん。誰だいお客さんって」
「なんでも隣国の孔融って人が、
黄巾賊の残党に城を攻められてて、援軍が欲しいんだと」
「ほおう。面倒くさいから断っといてくれ、簡ちゃん」
「ダメよ! 絶対ダメ! 受けなさい!」
「ど、どうしたんじゃ張さん」
「孔融といえば、あの孔子の子孫で
ものすっごい名声の高い人なのよ!
孔融に取りなしてもらえば、もしかしたら督郵を
フルボッコにしたことも許してもらえるかもしれないわ!
援軍を出して孔融に恩を売るのよ!」
「ええー面倒くさいのう」
「つべこべ言わない! あと簡雍!!」
「んん?」
「劉備の幼なじみだかなんだか知らないけどね、
気安く劉ちゃんなんて呼ぶんじゃないの!
このスカポンタンはね、これでもいちおう
名目上は県令サマなのよ。部下に示しが付かないでしょ!」
「んー。でも劉ちゃんは劉ちゃんだしなあ。
それに張飛も劉ちゃんを呼び捨てだし、
今もスカポンタンとかなんとか」
「アタイはいいのよ!
アタイがどんだけこの甲斐性なしの世話を焼いてることか。
呼び方くらい好きにさせなさいよ!
とにかくさっさと出陣の準備をしなさい!!」
~~~界橋 袁紹軍~~~
「思惑通り、平原を守る劉備は孔融の救出に向かいました。
我々は労せずして平原を通過できます」
「さすがは田豊である!
黄巾賊の残党を動かすとは考えたものだ。
……だが劉備ごときにそんな策を講じる必要はあったのか?
踏みつぶしてしまえばよかったろうに」
「劉備はともかく義弟の関羽、張飛、
それに公孫瓚のもとにいる趙雲は三人がかりながら、
あの呂布と互角に戦いました。
兵は少ないとはいえ用心するに越したことはありません」
「ふうむ、そういうものか。まあ、名族の倉に有り余っている金を
少し使っただけで済んだのだ。良しとしよう。
では公孫瓚との戦いはどうするのだ?」
「戦略のことは私に、戦術のことは沮授にお尋ね下さい」
「…………」
「どうした沮授?
韓馥には献策できても名族にはできぬと言うのか?」
「いえ、少し考えをまとめていただけです。
公孫瓚は異民族との戦いで培った屈強な騎馬軍団を擁しています。
しかし問題はありません。
こちらにも異民族との戦いに明け暮れた人材がいます」
「ひとつ俺に任せてもらいやしょう。
なあに騎馬軍団など強弩部隊で足止めすれば、ただの大きな的です」
「おお、頼もしい言葉である。
公孫瓚めに名族の力を思う存分見せつけてやるのだ!」
~~~界橋 公孫瓚軍~~~
「惨敗……ッスね先輩」
「見ればわかる。わざわざ言うな」
「サーセン。……でも劉備先輩がいれば、
なんとかなったかもしれないッス」
「それも言うな。劉備は俺の配下ではない。
あいつがどう動こうと文句は言えん。
そもそもあいつのような勝手放題の風来坊を頼みにするのが間違いだ」
「劉備先輩は昔っからああだったんスか?」
「いや。昔よりもっと酷くなった。
あいつはまるで糸の切れた凧だ。
風まかせにどこに飛んで行くかわからん。
今も孔融を助けに行っているが、
このまま帰ってこないかもしれんな……」
「………………」
「そんなことより国に戻るぞ。なあに心配はいらん。
騎馬軍団は失ったが、易京の要塞が完成すれば、
袁紹など恐るるに足らん」
「そのとおり!
易京には十年を悠に過ごせる兵糧を貯えてありますからね奥さん。
天下の趨勢を眺めながらね、のんびりと機を窺いましょうよ!」
~~~青州~~~
「諸君! 恐れることはない!
黄巾賊など、教祖を失ったただの暴徒だ!
彼らにこの偉大なる文化の聖地である
青州を侵すことなどできないのだ!」
「命まで取るとは言わん! おとなしく出てこい!」
「はっはっはっ。聞いたか諸君、
教養なき愚者の脅し文句などこの程度なのだよ。
我が青州があのような文化の「ぶ」の字も知らないような
徒輩に破れるはずがない!」
「截天夜叉・何曼いざ参上!
無駄な抵抗はやめよ!」
「おお、なんと醜悪な仮面であろうか!
そのような物で表面を取り繕うとも、
無学さを隠すことなどでき――ぶふぉっっ!?」
「……さっきから何をくっちゃべってたんだこいつは?
流れ矢に当たって勝手に死んじまったけどよ」
「たしか青州刺史であるはずだ。
なんでも武装を放棄して、文化で州を治めていたとか」
「けっ。文化で飯が食えるかっての。
食えてるのはこの役所にいる人間だけで、
民衆は飢えに苦しんでたじゃねえか」
「おかげでたやすく青州を落とせたのだ。そう悪しざまに言うな。
それより、早く指導者様を迎えに行こう」
「ああ、俺たちの戦いはここから始まるんだ。
青州刺史のナントカさんよ、
アンタの文化とやらは俺たちが飯の種に使わせてもらうよ」
~~~東郡~~~
「こ、黄巾軍がなぜ俺の東郡を襲うのだ!?
お前らの目的はなんだ!?」
「知れたことを。
お前もかつて東郡太守だった橋瑁に言ったそうではないか。
弱肉強食は世の習いだとな」
「な、なぜ俺の言葉をお前たちが知っている……!?」
「我々、青州黄巾軍30万の情報網を
甘く見てもらっては困るのだよ」
「や、やめろ!
お、俺を、天下に名の知られた名士の俺を殺したらどうなるか――。
ギャアアアアアアアア!!」
「やれやれ、この男、
嫌っていた名士そっくりになっているではないか」
~~~長安の新都~~~
「おお、呂布。いい所で会ったな。
お前と話がしたかったんだ」
「fgkksa;klflllk.co.jp」
「いつもの通訳はいないのか。
でもたしか、話せないだけでこっちの言葉はわかるんだよな?」
「rbhklld;;afdjトテモ、スコシ」
「少しか。まあ聞いてくれ。お前は虎牢関を失い、
また三対一とはいえ一騎打ちにも敗れたことで、
魔王様から信頼を失ったようだ。
だがお前の実力は俺たちがよく知っている。
魔王様も心の底では認めているだろう。
気を落とすことなく、これからも魔王様に仕えてくれ」
「……dgfjka;;l;dsoアリガト」
「礼はいらん。
ちょっと心配になったから声をかけただけだ。じゃあな」
(……あの男、顔に似合わず気が利くようだな。
やはり、早めに始末しておかなければなるまい)
~~~~~~~~~
かくして袁紹は公孫瓚を破り、北方の覇権を握らんとしていた。
また各地で黄巾賊の残党は蠢動し、魔王・董卓の意気も軒昂だった。
しかし乱世はさらなる大乱を巻き起こさんと、一陣の不穏な風を吹かせようとしていた。
次回 〇一三 魔王の最期




