〇〇九 曹操の初陣
~~~洛陽の都 宮廷~~~
「何ィ? 曹操のヤツめ、しばらく姿を見ないと思ったら、
この洛陽に向けて進軍しているだと?」
「だが曹操の手勢は少ないし、
反乱軍から合流する兵もごくわずかだそうだ」
「ならば吾輩が動くまでもない。四天王に曹操を襲わせろ!」
「兄貴、呂布の守る虎牢関には援軍を送るか?」
「フン、反乱軍に負けるとは見損なったが、
それでも虎牢関くらいは守れるだろう。その必要はない」
~~~洛陽の都 西方 曹操軍~~~
「曹操、思い切った策に出たな。
まさかこの程度の兵力で都を攻めるとは思わなかったぞ」
「策も何もないよ。玉砕は覚悟の上さ。
この戦で曹操の名を天下に知らしめることだけが目的だ。
……それにしても戯志才君、
僕をたきつけておいて、まるで他人事のように言うんだね」
「責任転嫁はよくないぞ。私はお前の行く道に従うだけさ。
……おっと、無駄話はここまでのようだな。
早速、董卓軍のお出ましだ」
「そんな小勢で都を攻めようとは、見くびられたものだな。
この徐栄がここから先は通さぬ」
「どうする曹操?
敵は徐栄だけではなく、我々を包囲しつつあるようだ」
「迷うことはない。突撃して道をこじ開けるんだ!」
「かかれッ!!」
「しゃにむに突撃するだけとはなんと愚かな。
李傕、郭汜よ! 曹操軍を包囲殲滅せよ!」
「おうよ!!」
「やれやれ、兵が少ないというのは悲しいものだな。
この私の智謀をもってしてもどうしようもない」
「曹操様! もはや持ちこたえられんぞ! 早く逃げるんだ!」
「もう十分、董卓軍に痛手は与えた。
我々の奮戦ぶりは各地に伝えられることだろう。
さあ曹操、時間を稼いでやるからお前はさっさと逃げろ」
「…………」
「また迷っているな?
いいか曹操、お前はこの戦を機に飛躍するだろう。
そうすれば私程度の人材など、掃いて捨てるほど手に入るのだ。
迷うことなど無い。私を見捨てて逃げろ」
「戯志才君……」
「曹洪、この軟弱者を連れていってくれ」
「おう。……すまんな、戯志才」
「待て曹操! 四天王筆頭・李傕がお前の首を頂く!」
「そうはいかない。この私がお相手しよう。
……とは言え、弱い私に稼げるのは十秒がいいところだろうな」
「邪魔するヤツは死ねえええッ!!」
「曹操、死ぬ前の十秒に私を思い出せ。
その十秒は、戯志才がくれた十秒だとな……」
~~~曹操軍~~~
「曹操、到着が遅れて済まぬ!」
「敗残兵は我が軍が収容した。
俺たちの戦力では董卓軍に勝てない。早く逃げ出すぞ」
「……ああ、恩に着るよ」
「なんの、お主の戦いぶりに我々も奮い立った!
今は我々だけだが、心ある者が続々と駆けつけてくれるだろう」
「曹操様、いったん故郷の譙に帰ろう。
曹仁の兄貴や、夏侯兄弟が兵を集めて待っている」
「ああ、戯志才の心を無駄にしないためにも、今は耐え忍ぼう。
そしていつか戻ってくるんだ、この洛陽の都に……」
~~~洛陽の都 西方 董卓軍~~~
「ククク……逃がすものか。曹操軍に追撃をかけよ!
魔王様にあだなす者を皆殺しにするのだ!」
「ぐ、軍師! 反乱軍の背後に残した樊稠から急報だ!
敗走したはずの孫堅軍が都に奇襲をかけたそうだ!」
「なんだと!? 孫堅め、やってくれたな……。
不本意だが都に戻るぞ!」
「おっと、情報が正確じゃねェようだな。
都を攻めたのは程普と韓当だけだぜ!
孫堅はここだ!」
「げえっ! 孫堅が現れたぞ!!」
「軍師殿、ここはお逃げ下さい!」
「てめェ、祖茂を殺したヤツだな!
ちょうどいい、仇討ちしてやるぜ!」
「ぐああッッ!!!」
~~~洛陽の都 宮廷~~~
「どういうことだ!
孫堅のヤツは李儒が倒したのではなかったのか!?」
「孫堅にいっぱい食わされたようだ。
曹操も鮑信、王匡と合流して再攻撃してくるかもしれん。
どうする兄貴?」
「吾輩が守る洛陽は鉄壁だ!
孫堅や曹操が束になってかかってきても――」
「長安から急報です!
馬騰、韓遂の騎馬軍団が襲撃してきたとのこと!」
「…………。弟よ、たしか長安には孫娘の董白がおったな」
「あ、ああ。
長安なら董白の父親の牛輔が守ってるから心配はいらな――」
「吾輩は急に董白の顔が見たくなった!
吾輩は長安に帰るぞ!」
「え、あ、兄貴。じゃあ洛陽はどうするんだ?」
「フハハハハハ! もはや洛陽などに未練はない!
長安に遷都だ! 献帝をつれて長安に移るぞ!
洛陽など焼き払って反乱軍にくれてやれいッ!!」
~~~虎牢関~~~
「sdl;;aki123456789」
「大変ですみなさん。
ミスター董卓は移動しました。洛陽を捨て、長安へと。
私たちに連絡はありません。ですが早く逃げたいと思います。
孤立をする前にです」
「つまり魔王様はオレらを見捨てたっつーことか?」
「fgsdjlsdasdak;987654321」
「そうではありません。少し連絡が遅れているだけでしょう。
洛陽を捨てるのならば、もう虎牢関も必要ないです。
だから逃げるのです。それだけのことですよ」
「大将は気が良いからそう取るんだろーけどよ。
これは間違いなく見捨てられたんだと思うぜ?」
「やめろ張遼。魔王様の意思は関係ない。
我々は呂布様に従うだけだ」
「…………」
~~~洛陽の都~~~
「ああ、偉大なる先帝たちよ……。
朕が不甲斐ないばかりに、都を捨てることをお許し下さい……。
朕は必ずや、必ずやいつの日か、この都に戻って参ります……」
「フハハハハハ! 陛下、何をそんなに嘆かれるのだ。
長安には吾輩の孫娘がいる。
陛下と年齢も近いし、良い遊び相手になってくれるだろう!」
(董卓め、いつまでも貴様の天下が続くと思うなよ……)
~~~~~~~~~
かくして董卓は洛陽を捨て、長安へと強引に遷都した。
はたして孫堅、袁紹ら董卓追討軍は焼け野原となったかつての都に何を見るのか?
そして董卓の栄華はいつまで続くのか?
次回 〇一〇 西涼の鉄騎兵




