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42 友達みたいな

お読みくださりありがとうございます!

「そうですね、カトリーはシンプルなものを好んでいたように思います」


 夕食を食べ終えてダニエルの部屋に集まったディオたちは各々適当な場所に座って話し合いをする。


 ダニエルの両親は家に帰ってディオたちがいたことに驚いてはいたが、快く受け入れてくれて、ダニエルが伝える前に泊まっていくといいと言ってくれた。

 ジークベルトのことも分かっているし、何よりダニエルが心許している数少ない人たちだ。


 ただでさえ最近は連絡なしで押しかけているとシドは躊躇っていたが、ダニエルが慕う人が訪れて迷惑に思う使用人たちはこの家にいない。

 シドもディオの側仕えとして過ごしているので使用人の仕事の大変さも理解しているだろう。

 急な対応というのも意外と疲れるのだ。


「買い物に行ったときもそんな感じだったね。遠慮ばっかりしてたけど」

「二人が買い込みすぎただけじゃないの」


 以前トリス、フラン、カトリーで買い物に行ったときのことを思い出してフランが言い、アルドがポツリとこぼす。


 貴族と庶民を一緒するのはどうかと思うが、アルドからすれば後日届いた荷物は度を越していた。

 必要なものと言っても、ディオに拾われたときアルドに用意されたのは大して多くなかった。

 それですらあの時のアルドにとって、引くくらいの量ではあったけどシドは最低限揃えただけだと言っていたが。


「フランもトリスも好きだからね。放っといたら一日中見ていられるんじゃない?」

「だろうな。カトリーが疲れた様子じゃなかったからいいが」


 アルドのこぼした言葉にディオが笑いながら、シドがため息をこらえながら返す。

 カトリーが疲れて帰ってきていたら二人にお説教するつもりだったようだ。

 フランが身震いをした。


「カトリーヌさんはシンプルなものが好みなんですね」

「はい。おそらくは」


 ダニエルが今出ている情報をまとめて、フランが思い出したように付け足す。


「あとは花と甘いものくらいかな」

「よく庭を散歩していたようだからな」

「その辺りのものを探してみればいいですね」


 ダニエルが言って、シドが候補の店をあげようと口を開こうとしてダニエルがそれを止める。


「あの、出来れば一緒にいければと。自分で探したいですし」


 公爵家の令息、王家に連なるとなると町に出て買い物一つするにもそれなりの護衛も必要で時間もかかる。本来、ディオのようなことは出来ないのだ。

 商人を家に呼んで買い物をするのもいいが、自分の足で探したい。


 躊躇いがちに言ったダニエルの思いを感じ取ったディオは、目を閉じたあとソファに座るシドに視線を向けた。


「ん〜、どうだったかな。シド」


 自分の予定をほぼ把握していないディオはシドに確認をするために尋ねる。

 ディオはやりたいことは言うが、それを形にして予定を組むのはシドの仕事だ。


「そう、だな。どのみちしっかり時間が取れるのは明日だけだ。それ以降だと陛下たちやクラークさんにお会いする時間を削ることになる」


 手帳も開かずシドはこれからの予定をディオに伝える。

 フランは床に座るアルドと手帳を確認する。細かな予定についてはシドのように頭に入りきっていない。


「今回は急ぎの用もあるから、あんまり時間が取れないんだよね」

「……想定外も、起きたし」


 アルドが俯いてこぼした言葉をダニエルが拾い、シドは大したことじゃないと言ったふうに話す。


「野盗に狙われただけだ。まぁ、数が多くて少々手間取ったが」

「いつものことです」


 商人の荷台が狙われるのはよく聞く話で珍しいことじゃない。

 だから、商人として活動するディオたちが狙われるのは驚くことではなく、むしろ当然と言える。むしろ驚くべきことは彼らが一切の被害なく切り抜けてきたことだろう。


 ディオがあくびをしたので、シドが用意された客間にディオを連れていく。

 フランとトリスは公爵夫妻に呼ばれ、部屋にはダニエルとアルド二人になってしまう。


「何かありましたか?」


 しばらくの沈黙の後、ダニエルがアルドに問いかける。

 グレイ伯爵家で短い間とはいえ一緒に過ごしてそれなりに仲良くはなったのだ。アルドがいつも通りにしようとしていることくらいは分かっていた。


「……ディオから聞いた」

「妖精のことですか。それでそばにいるのがつら――」


 辛くなったのかとダニエルが言葉を紡ごうとして、アルドはすぐに否定をする。

 ディオを怖がらないで欲しい、ダニエルが言った言葉の意味を理解したアルドはハッキリとそうじゃないと告げる。


「違う。ディオはディオで、別に苦手になったりはしない」


 時折の過剰なスキンシップは苦手だったりするけど、嫌じゃない。ただ、そんな世界にいなかったから苦手なだけ。

 ディオの中に妖精の力が本当に少しだけ混じっているとか、知ったところでアルドにとってどうだって良かったのだ。

 ただ――。


「あいつに庇われて、自分が傷ついてんのに平気な顔してさ、みんな平然としすぎてて、なんか……ああ、もう」


 上手く言葉に出来なくて、それがさらに自分を苛立たせる。

 そんなアルドの話を静かに聞いていたダニエルは、一度間を置いてから口を開いた。


「ディオ兄さんのこと心配してくれてありがとう、アルド。たぶん、それはディオ兄さんが唯一みんなに約束させたことだから」

「約束?」


 言ってもいいものかと躊躇いながらダニエルはアルドに伝える。


「ディオ兄さんは自分を庇って大怪我して動けなくなるくらいなら、自分のことは放置して自分たちの身を守れって。もちろん、シドさんたちは反対してたみたいだけど」

「そう、だったんだ……」


 いつの間にかそばに来ていたシドの手がアルドの頭に置かれる。

 ややあって難しい顔をしたシドが言う。


「オレは一人じゃ何も出来ないから、シドたちがいてくれなきゃ困る。この身体だからできることだけどね、と」


 怪我をしても割とすぐに治ってしまうからこそ、わざわざ身を呈してまで守るなと、そうするくらいなら自分の身を守って全員で生き延びろと言うことらしい。


「まだまだ力不足だったってことだ。行くぞアルド。ダニエル様も明日は早いんだ」


 シドはダニエルの方を見た。

 咎めるわけではないけれど、複雑そうな顔をしていた。

 ダニエルはそれをしっかりと受け止めてから、小さく笑ってハッキリとシドに向かって告げる。


「信頼できる親友であれば、問題はないですよね」

「――だな」


 ダニエルにそう言われては何も言えない。それに私情を挟むならダニエルが打ち解けられる存在としてアルドを呼んだことが嬉しい。


 アルドを連れて、ダニエルの部屋を出たシドに向かって顔を上げたアルドは廊下を歩きながら言った。


「おれも強くなれる、かな」

「さぁな」


 シドはそれ以上何も言わず、ディオが寝ている部屋の扉を開けたのだった。


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