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バレた!

 「ねぇ、君って高坂君だよね」

 いきなり後ろから声をかけられた。その瞬間身体中の穴という穴からいやな汗が出るのを感じた。誰だ?入るときにはちゃんと周囲を確認したのに。しかもよりによって女子に声をかけられるなんて。どうしよ、どうしよ、どうしよ。ばれた以上開き直るか、いや、このまま黙って去るか。

 「ねぇってば」

 と肩をたたかれる。思わずびくっとしてしまった。俺は恐る恐る後ろを振り返ると、俺の通う私立宇治高校の制服を着た女子がいた。ネクタイの色から察するに俺と同じ学年だった。最悪だ。よりによって同学年の女子とは。俺は少しずつ目線をあげていき、そして、そいつと目が合った。その顔にはマスクを着けていたが、切れ長で力強い瞳に俺は目をそらすことができなかった。

 「やっぱり、高坂君だった」

 と言ってそいつは曖昧に笑いながらマスクを外した。その瞬間、そいつが誰かを理解した。今日の席替えで隣の席になった高山美穂だ。正直、俺はこいつが苦手だ。常に眉間にしわを寄せていて、話しかけても「そう。」としか返ってこない無愛想な女だからだ。

 「ああ、高山さんか。奇遇だね、いきなりどうしたの」

 なるべくいつも通りの感じで話しかけた。

 「それはこっちのセリフ。高坂君こそこんなところで何やってるの?」

 最悪だ。いや、ここで話しかけられた以上避けては通れないことではあったか。だが、こういうのは見かけてもそっとしておくのがマナーだろ。それを平然と破りやがって。だから、お前みたいな無愛想で何考えてるやつは嫌いなんだ。

 高山への怒りがふつふつを湧き上がっている。が、それをなるべき顔に出さないようにしつつ言葉を返した。

 「いや、まぁ、俺の兄貴がさ、こういうの大好きで。でも兄貴いま高3で、受験で忙しいから、代わりに買ってきてくれないかって頼まれたんだよね」

 あぶねー。アドリブだが、いい感じにごまかせたんじゃないだろうか。兄貴には悪いが俺の貴重な学生生活に関わるんだ。男子ならまだしも女子にこんなのを買って、読んでるなんてばれた暁には俺の学生生活は終わりだ。

 「ふーん、じゃあ君はこういうのあんま読まないんだね?」

 高山はいぶかしみながら問う。

 「あ、当たり前だろ!」

 「そっか、そっか。じゃあさ、なんでかに丸先生の新作単行本をそんな大事そうに抱えてるの?」

 しまった!!俺はすぐに持っていた本を離した。つつーと背中をいやな汗が通るのを感じる。が、すぐに俺は自分の行動を後悔した。

ここは普通に「兄貴がこれ読みたいって言ってた」の一言で済んだじゃないか。何でわざわざあわてて本を離しちまったんだ。心なしか高山の目もなんか冷たくなったように感じるし。

頭の中で一人反省会をしていると高山が口を開いた。

 「ね、その本の作者ってかなり人気な人だよね。女の子を書くのが抜群にうまいって。私も今一番好きな作家さん。で、今日4年ぶりの新刊が出るって聞いたから来てみたんだけど。まさか、こんなところで高坂君と会うなんてね」

 「は?」

 こいつが何を言っているのかさっぱり理解できなかった。いや、理解はできている。その事実を受け止められていないだけだ。かに丸先生を知っている…?てか、こういうのを読んでる?

 「お、お前はこういう本読んでんだ。てか、そういうことあんま人に言うもんじゃねーだろ」

 「そうだね。それで、高坂君は本当に読んでないの?」

 「読んでねーよ。さっきも言ったように俺は兄貴のお使いでここに来たんだよ」

 「ふーん。まぁ、別にどっちでもいいけどね、読んでようがいまいが、知識さえあれば。ねぇ、高坂君てさ結構詳しいでしょ、こういうの。」

 こいつさっきからマジで何言ってんだ。話がまるで見えてこない。

 「いや、本当に読まないし、知識もないから。てかもういいだろ。」

 これ以上こいつと話しても事態が好転することはなさそうだった。俺は足早にその場を立ち去ろうと一歩踏みだしたとき、こいつは、この高山美穂はとんでもないことを言い出しやがった。

 「もう行っちゃうの?そっかそっか。じゃあ、高坂君がこういうの読んでたってあることないこと言いふらしちゃおっかな」

 「お、え、マジで言ってる?」

 俺は思わず聞き返してしまった。マジで何なんだこいつは。急に自分語りをしたと思ったら次は脅しかよ。さっきから発言に脈絡がなさすぎる。

 「うん」

 高山は平然と言い放った。そして、少ししおらしそうな顔をしながら言った。

 「だからさ、ちょっとお願い事聞いてくれるかな?」

 「お願い?」

 どうせろくなお願いじゃあないだろうに。それでもお願いを聞かなければいけないような雰囲気がそこにはあった。

 「そう。高坂君に私の漫画を見てほしいの」

 「漫画?」

 「そう。私さっきこういうの読んでるって言ったでしょ。それで最近自分でも書いてみたりしてるんだけど、自分が上達してるかどうか全然わかんないんだよね。こんなこと他の人には相談できないし。それで、どうしようか考えてた矢先に君と会ったってわけ。」

 ふむ。大体状況が見えてきた。つまりこいつはこう言いたいわけだ。「自分の漫画づくりに協力しろ。そうじゃないと、ここでのことを学校で言いふらす」と。

なんてひどい野郎なんだ。そんなもん今時ツイッターとかピクシブで感想をもらえばいいものを。わざわざ人を脅してまでやることか。

「だからさ、お願い聞いてもらっていい?」

高山は依然として俺から目線をそらそうとしない。こいつは断ったらマジでやるな。なんかわからんが、そういう凄みがこいつにはある。

「あーもう。わかったよ。漫画を見てやりゃいいんだろ。そうしないとお前、あることないこと言いふらしちまいそうだしな。」

高山は面食らったような顔でこちらを見つめた。

「本当にいいの?」

「そうだよ!さっき言ったとおりだ。それに、お前のさっきの推測も当たってるよ。俺はこういうの結構読むし、それなりに詳しいさ」

 もうここまで来たらやけくそだ。全部正直に話しちまおう。それに俺だってこいつの弱みを握ってるわけだしな。いや、むしろこいつが女子ということを考えれば俺よりきついか。

 なんにせよ俺はこの勢いのまま高山に色々聞こうと思った。

 が、それより先に高山は安堵したように少し笑って言った。

 「じゃあ、明日からよろしくね、高坂君。」

 高山はそう言ってどこかに行ってしまった。

 俺はその場に立ち尽くしていた。そして、何分経ったかわからないが、高山が確実に店からいなくなったであろう後、俺はかに丸先生の新刊を手に持ちエロ漫画コーナーを後にした。


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