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清濁の青  作者: 白都アロ
4/10

愚考相思

今日はお家にお客さんが来た。

お客さんは2人、いつもご飯を食べるテーブルでお話をしている。

お父さんと、お母さんと、男の人と、女の人と。

黒くにごった苦い、苦い飲み物を飲みながら。

僕らは二階でその声を聴く。

なんて言っているのかな。

聞こえるのは声だけで。

何をお話しているかはわからない。

それでも、分かることはある。

お父さんとお母さんは怒っているんだって事。

なぜって?

なぜ分かるんだって?

だって、お父さんは。

だって、お母さんは。

普段お外の人に、僕らに話しかけるような話し方をしないから。

どうして今日はするんだろ。

いつだって。

お父さんは。

お母さんは。

お外の人にはいつも笑ってお話をしていたのに。[newpage]



よっ、と

市内の高校の屋上に降り立ちます。近所の廃ビルの屋上から。極力、音を立てないようにしてですが。

・・・酷い惨状です。最初に浮かんだ感想はそれです。そこにあるのは大小色々なサイズのクレーター。そして学校から屋上への入り口も、必要以上の大きさの孔が空いています。ここで何かが起こったのは明白です。それに、何もなかったら私はここを訪れません。

 そんな思考と共に、スカート下よりナイフを抜き、構えます。そして、ナイフを投擲します。床に、私に背を向ける形でしゃがんでクレーターを見ている怪しい黒コートに向かって。きっと、コイツは異端でしょう。異端者だろうが異端物だろうが、きっと話は通じないはずです。こんな時間にかんな場所で黒コート着てる奴なんて、大体そうでしょう。

刺さることはあまり期待していませんが、当れば必殺の位置に向かって投げたナイフ。そのナイフはただ空気だけを裂き、孔に消えてしまう。

------やっぱりですか。

不意に、嫌な予感がし、振り向きながら横に飛びます。私の後ろから飛んでくる数十本の細い何か。避けるのは、難しいです。かといって全部を切り捨てるのもなかなか至難の業です。ですので、致命的なダメージにつながるものだけ切り捨てます。

----------あ、ぐっ

致命的な奴は全部切り飛ばしたはずなのに、何故か一本が左足にぶっ刺さります。痛みで集中が途切れたと同時に地面すれすれに、私の足を刈り取るように這ってきた足で、足を払われ地面に無様に尻餅をついてしまいます。

また、後ろですか-------

黒コートが、先ほど切り飛ばしたモノ、どうやらボールペンらしきものの上に転倒した私を上から見下ろすように立っています。その男は、眼帯をした、隻眼。眼帯のない、残ったその眼には、何の感情も感じられない。

咄嗟に体を旋回させ逆に足を払い取ってやる、つもりでしたがそれをバックステップでかわされてしまいます。かわされるだけならまだしも、いつの間に拾ったのか、先ほど私が失ったナイフが顔面めがけて飛んできます。せっかくボールペンの刺さったままの痛い足で頑張ったのに、酷すぎです。

「くっ!」

片手で逆立ちをし、そのまま跳躍する事で、辛くもナイフはかわせました。地面に着地し、さて、反撃はどうしますか。

しかし、よけたはずのナイフが本来ありえない軌道で曲がり、飛んできます。私は、それを無視して後ろを振り返り、スカートの中から抜き放った本命のナイフで一閃します。

何かを、弾く音。予想道理後ろから飛来してきた二本のキヤップ無しの、抜き身のボールペンを叩き落とします。ナイフの方は私を素通りし、再び孔に吸い込まれていく。

やっぱり、ですか。・・・こんな、戦い方をする隻眼の男を、私は一人、知っています。いえ、一人しか知りません。

「ロクっ!」

その、私の発言で攻撃が終わる

「あぁ、なんだ。真巫、か」

さして驚いた様子もなく呟いた黒コートは、一時でしたけど、私のパートナーだった男、ロクでした。しかし、最後に見たときよりも、彼はとても年老いて見えます。もっとも、それが実際にそうなのかどうかは視ているだけわかりません。

「こんな所で、何をやっているのですかっ!?」

驚きと、自分でも判別のつかない感情を混ぜて叫ぶように、質問をします。ですが、その質問には

「お前には、関係ないよ。」

それだけの、冷たい回答しかもらえません。それだけ言い残して、彼は屋上から飛び降り、闇に消えてしまいます。

「ま、まってくださいっ!」

私は、呼び止めます。訊きたい事が幾つかありますから。それから、伝えたいことも。でも、もう、届いていない呼び声。そして、また、届かなかった叫び声。私は彼を追いません、否、追えません。ペンの刺さった足が痛いのは当然。でもそれは、そこまで終えない理由にはならないです。追えない本当の理由は、さっきの彼の声に、私に対しての明らかな拒絶しか感じられなかったから-----[newpage]


目が、覚めます。今、何時ですかね・・・わからないです・・・。外は、曇天ですか・・・。余計に時間がわからないですね・・・。

多少躊躇しつつ、もそもそと、旅館の布団から這い出ます。そこから、立とうとして苦痛が足に走ります。数日前にボールペンが刺さった足、その痛みです。ついでに彼のことを思い出して、複雑な気分になります。

彼は、こんなところで何をしているのでしょうか・・・。数年前の「緑の地」と「赤き砂」の二つの派閥の大戦の最終局面で姿を消した、彼。その姿を消す際に2つの組織が争っていた原因である「モノ」を持ち去り、今は双方に追われています。

何を奪い合っていたかも知らない、別に組織の上のほうにいるわけでもない私が何故ここまで知っているかといいますと、ただ単にその大戦時に彼と参戦していたからです。彼の、パートナーとして。

しかし問題の局面で私は彼の傍にいなかったので彼が何を盗んだかも知らない私は特段「緑の地」の方の組織からはお咎めはありませんでした。

 まぁ、でも大戦でしたので、当然「赤き砂」の方々を何人も痛めつけたわけで。そちらのほうの意味だと「赤き砂」で目の敵にされているらしいです。実際大戦後にも「赤き砂」の連中と幾度も戦闘になりましたし・・・。

-----------つっ!

頭も、痛いです。これは、ただ、昨夜飲みすぎただけ、です。そして、もう慣れた痛みです。まぁ、痛いっちゃ痛いのですが。飲みすぎた罰でしょう、しかたないです。

さて、今日はどうしますか。まずは今何時か知らなければ・・・。

どこからか響く、味気のない、コール音。私の、ケータイの。荷物の散乱している部屋の中で少々コールの元をさがします。

「はい。」

何とか探し出し、受話します。「緑の地」本部からでした。頼まれた資料を用意したから受け取るように、と。場所は駅のコインロッカーの中。鍵はこの宿の受付にじきに届く、とのことです。受付に鍵を送ってくれるならそのまま資料も送ってくれればいいのに、と心から思います。まぁでも組織の規則は規則ですか。でしたら仕方ないです。法の類は守れるものは、なるべく守りたいものですし。

ケータイを切ります。そしてその画面に表示されたのは

10時25分

今の時間でした。

3月というのに肌寒いです。本気で寒いです。雪が中途半端に溶けて歩きにくいことこの上ないです。何事も中途半端が一番迷惑ですね。駅までは、そう遠くないですが、寒くて歩きにくいので苦痛でしかないです。

少し歩き、駅前に着きます。あとは、この横断歩道を渡るだけですか。

だから、信号を、待ちます。赤から青に変わるまで。車はきていないです。だから、後ろから歩いてきた中年男性は信号の変化を待たないで横断歩道を渡ります。信号が、青に、変わります。少し待てば信号は変わったのに、なのに、なんで待てないのでしょうか。それほど急いでいるようにはみえないのですが。それでも彼には、急いで行くべき所か急いで帰るべき所があるのでしょうか。どちらもない私にはよくわかりません。どちらでもいいから、手に入れることができたなら私も信号を守らないようになるのでしょうか。

そんなことを思いつつ横断歩道を私もわたりはじめます。あぁ、それにしても寒い春です。

間もなくして駅に着き、自動ドアをくぐります。駅お決まりの気の抜けた電子音が聞こえてきます。平日の昼間だけあって駅員とキオスクの店員以外誰もいないです。二つの職種の現在の共通点は退屈そうなところです。それ以外は私には分かりません。そんな彼等はおいといて。

私は迷うことなくコインロッカーの前まで行き、教えられた番号を探し、もらった鍵でドアを開けます。

・・・厚いですね。

とりあえず、感想でした。そこには分厚い封筒が、二つ。

なんでこんなに・・・。

でも、頼んだのは、私でしたっけ。ならばしょうがないですか・・・。

・・・あ、酒でも買って、帰りますか。[newpage]


コタツのスイッチを入れ、もぐりこみます。あったかいです。さすが人類の英知の結晶ですよ。もうこれがなきゃ私は冬を越せないでしょう。知らなかった頃にはもう戻れません。

さて、と。お酒----------はまだですか?まだですね。残念ながら資料の方に先目を通さなくてはなりません。

がさごそと、紙の封筒から資料を出します。

とりあえず、目次です。

月原 夜久雨について

フリーランスの能力者 ロクについて

5つの厄災について

赤き砂の「猟犬」について

十年前の事件について

以上ですね。

・・・へぇ、この子、月原 夜久雨って言うんですか。

この子を調べてもらった理由は、私がいろいろ調査した結果、この子がここら一帯の事件に大体関与しているからです。名前も顔も知らなかったですが、大体の聞いた特徴を教えるだけで調べ上げてくるうちの諜報部もなかなかのものです。

-----っと、写真まで。

あれ、この子いつかの--------。まぁいいです、なになに・・・・・。

十五分ほどかけて三十枚ほどある資料を読み終えます。とりあえずプロフィールをまとめますか。

月原 夜久雨 18歳。

父母は十年前に死亡。

双子の兄の夜久斗がいたが十年前に行方不明。

十年前に「赤き砂」に保護されそこで育つ。

去年「赤き砂」をぬけ、今は表向き普通の便利屋で仕事をして生計を立てるが、便利屋の仕事は大体まっとうな便利屋の仕事ではない。

ちなみに間の九年間、組織で何をしていたか不明。

恐らく異端者であるが、その詳細不明、物体の強化をする異端的能力だと想像できる。

武器は鉄パイプ。

わかっているだけでも大きい事件としては去年の八月の霊園破壊、十月の電車破壊、十一月の歩道橋事件、そしてこないだの高校屋上爆砕事件に関与していると。

その他も色々な小規模な事件に関与している可能性がある、と。

その結果がこの書類の枚数です。

・・・トラブルメーカーですね。本来トラブルブレイカーになるべきな仕事のはずなんですがねぇ、彼女。ほんと、隠れているくせにめだっている子です。

個人的に共感できるところはありますが、疑問もあります。便利屋ってこの子一人で、ですか?組織を抜けたばかりの子が一人でここまで依頼を集められるものなのでしょうか?かなりひっかかりますが次ぎにいきましょう。お酒がまってますので。私のことを。

この子は色々力を使いすぎてますが、もうこういったものを処分するのは命令がなければ私の仕事じゃないですし。とりあえずほっときましょう。

・・・で、ロクについて、ですか。・・・資料は・・・一枚きり・・・。まぁそんなに調べられるとは期待してなかったですが・・・

ロク。

偽名。

年齢不明。

性別男。

本名不明。

異端的能力 幻覚。

5つの厄災の一つである赤き砂と緑の地の「大戦」の際に「緑の地」に雇われたフリーランスの能力者の一人。

武器はボールペン。

大戦時に両組織が奪い合っていた「モノ」を奪い逃走。

以来両組織からも追われ賞金首に。

以上。

・・・これだけですか。私が知ってる情報と同じ程度・・・。改めて、彼は私に自分のことを何も教えてくれなかったことを知ります。それと、私の組織的な位置を。

でも、仕方ないです。彼にとって見れば私はただの一時の、仕事の、パートナーです。私がどう思っていようが、それは関係しないのです。

・・・お酒、飲みましょうか。私が、酒に逃げるようになったのは彼のせいです。彼が、かつての私を変えてしまったから。その結果、飲まなきゃ自分の過ちが私を苛むから。それでも、私は彼に感謝しています。生きている実感が、得られたから。

なのに、私はお礼の一つも言えてません。次に会ったら、伝えたいです。感謝の言葉と、恨み言の言葉を、一つずつ。[newpage]



----目が、醒めます。そして目覚めと同時に来たのは、鈍い、頭痛です。かなり、酷い痛みです。胃もムカついています。

・・・あのままコタツで寝てしまったみたいです。しかも、また飲みすぎました。どうやら私は振り返りはしますが反省は出来ないようです。

コタツの上の水差しから、こぽこぽとコップに水を注ぎます。それから、薬、薬・・・。乱雑なコタツの机上からピルケースを探し出します。そこから白い錠剤三粒を取り出し、水とともに飲み下します。これで、暫くしたらよくなるでしょう。よくなって欲しいです。よくなってください。頼みますから。

・・・さて、今、何時でしょうか。今回はあっさりケータイを開き、時刻を確認します。

午後、10時。

・・・仕事の続きをしましょうか。めんどうですが。

畳に散乱している紙の中から、厚い封筒を探り出します。さらに封筒の中から、残りの書類を取り出します。

残りは、二つの事柄を記した資料。

「赤き砂」の猟犬「赤狐」と月原 夜久雨の所で出てきた十年前の事件について。一通り流し読みをします。

まず、猟犬のほうです。

異端を用いた営利団体「赤き砂」の猟犬とは組織の全ての「殺し」を専門にする。

大体は十代になるかならないか付近の女の子の姿をしている。

皆、頭に獣の耳を持ち、聴覚が非常に強い。

どこからその人材を手に入れてきているのかは一切不明。

養成所なるところでとても厳しい訓練を受け、その中で生き残った者だけが猟犬になれるらしい。

猟犬には各々先生となる人間が一人付き、その人が指令を受け命令、仲介、サポートなどをし、暗殺業をする。

現時点の「赤き砂」の猟犬で最強なのが「赤狐」と呼ばれる猟犬。

異常な回復力、戦闘力を持ち合わせ、ターゲットを殺害するためにはどんな傷を負うことも厭わない。

異端的能力は回復力のみで武器は主に銃器を使用。

ただ、あらゆる銃器を使いこなし、その回復力を武器にとにかく攻撃的な戦い方をし、まともにやりあって生き残れたものは数少ない。

そもそも暗殺がメインのはずなのに正面きって襲ってくるらしい。

最早暗殺者と言わないのではないでしょう。

「赤狐」の由来は彼女がまとった血のように赤い服からきている。

これも暗殺者には向いてない服ですね。

それから、ターゲット殺害を邪魔する者、異端に関わってしまった者も容赦なく殺害する。

・・・恐ろしいですね。「赤い少女」の噂を小耳に挟んだので調べてもらいましたがまさかこんな資料が来るとは。

この街に来ていなきゃいいのですが・・・。痛む頭で胡乱にそう思います。しかし、この街にロクがいる以上いつ「赤狐」だけでなくほかの猟犬が派遣されててもおかしくないです・・・。うーむ、ロクを追う以上いつか戦う羽目になりそうで非常に嫌です。

・・・少し、頭痛薬が効いてきましたか。次、いきましょう。

十年前の事件についてです。

月原 夜久雨の家で起こった殺人事件。

なんの変哲もない普通の家庭である夏の晩に父母が殺され、長男は行方不明。

父親は腕を砕かれそのまま首ももがれ殺害される。

母親は四肢を引き裂かれその上で頭を潰され殺害。

行方不明の長男もおそらく生きていないと予想される。

夜久雨自身は激しい暴行を受けた痕はあるものの、生存。

発見時は血溜まりの中で意識不明でいた。

その後意識レベル向上せず昏睡し、そのまま「赤き砂」で引き取られる。

公には強盗による金銭目当ての殺人事件として処理されている。尤も、実際には金銭など取られておらず、犯人の動機は不明で、いまだに犯人の特定すら出来ずにいるらしい。

・・・これまた壮絶ですね。それにしても、何故ここで「赤き砂」が保護したのでしょうか。普通警察でしょう、こういったものは。

って、ことは、間違いなくこの事件には能力者が関与していたのでしょう。しかも恐らく異端に関与しているのに保護とは・・・。

こんなのが、成長して便利屋に・・・。・・・まじめにどのような子なのか会ってみますか。これ以上酷い騒動をこの子に起こされたらそっちで猟犬が来ても嫌ですし。たしか最初の資料に住所が載っていたはず・・・。

明日にでも行ってみようか・・・。そういえば、頭痛は完全に治まっていました。[newpage]


うー、寒いです。宿から数キロはあったでしょう。夜だから格段に寒いです。

しかし、本日も寝過ごしてしまいこの時間、23時です。で、私は今、便利屋の前にいます。いえ、多分いるでしょう。こっちも自信ないです。

して、どうしてこんなに曖昧な表現になってしまったのかというと。目の前にあるのは明らかに廃墟のホテル。それもいかがわしい類の。

・・・こんなところで女の子が一人で便利屋とは。組織で暮らしていたからと言って常識が破綻していませんか?とりあえず、こんなところで立ち尽くしていてもしょうがないので中に入る事にしましょう。

私に反応し、開く自動ドア。一応まだ使われている証拠です。目の前にはド派手な赤いじゅうたん。しかし色は大分くすんでしまっています。

さらに暗い照明と奥の枯れた観葉植物が相まって廃墟感をだしています。そして、フロントがその先にあります。

「こんばんは。」

そこに座っている十代そこらの青い服を着た男の子は言います。やはり、一人ではありませんでした。

「こんばんはです。」

「宿泊ですか?」

「誰がこんなところに女一人で泊まりますか。」

「まぁ見るからにおね-さんと泊まってくれそうな人はいないですもんね。」

「そういうことは言ってませんから!大体私にだってそれぐらい、」

「いないでしょ。」

言い切られます。

「・・・はい。」

思わず認めてしまいます。

「まぁ冗談は置いといて。こんばんは、いらっしゃいませ。」

仕切りなおして男の子は話をはじめます。

「ここは便利屋です。なにか依頼があるからここに来たのでしょう、貴女は。」

「ええ、まぁ。」

 とりあえず、うそをついてみます。

「尤も、電話でしか本来依頼は受けてないんですがねー。よく見つけたものですよ、おねーさん。」

「まぁ、つてですよ、つて。」

「して、依頼はなんですか?」

「月原夜久雨にあわせてください。」

「できないよ。」

「どうしてですか。」

「いまはここにいないから。」

「そう。じゃぁ今ここにいるほかの人に会わせてください。」

「いる前提かい。」

「いるのでしょう?」

「その心は。」

「見るからに十代の子がこんなところで一人でフロントしているわけがないですから。いいから店主に会わせてください。」

「ならそれはもう成し遂げられています。店主は僕です。」

「ふーん、そう。十年前に行方不明の人がどうしてこんなところで便利屋しているんですか?警察、よびます?行方不明の未成年、ここに発見、とか。「白き夜」でもいいですけど。」

「嘘じゃないのになぁ、一応。しょーがない、案内しますよ。「白」の連中を相手になんてしたくも無いですし。」

「ありがとう。」

「そのエレベーターで三階の32号室だよ。」

「案内するんじゃないのですか?」

「いかがわしいホテルの一室に男が案内って嫌でしょ?」

「下品ですね。私は一応お客様ですよ?」

「でも便利屋のまっとうな、でも、ホテルの客でもないでしょ。」

「あーいえばこう言いますね。」

「それが会話だよ。」

けらけらと笑う男の子。

「もう、いいです。」

それきり会話を打ち切りエレベーターに乗り込みます。でも、どうしてでしょうか。あの下らない会話が、ひどく懐かしく感じました。

エレベーターの中には鏡がひとつ。振り返ると閉まるドア。意味もなく鏡を見ます。そこには仕事のときに着ると決めた服が映ってます。服は、白と緑で構成されています。赤い色は交じっていません。もう、赤い色はそこにはありません。

まもなく軽快な音と、それより一拍あいて再度開くドア。着きましたか。えっと、32号室でしたっけ。エレベーターを出て、私はあるきだします。

いくつか並ぶドアの中から32号室をみつけます。32号室のドアを、3回ノックします。返事はないです。

「開けますよ。」

だから宣言します。それから、私はドアをあけます。鍵が、かかっていない。

中に入ろうとしたと同時に後ろから急に蹴られ転んでしまいます。すぐさま立とうとするも、何者かに後ろから馬乗りにされてしまい動けません。

・・・反抗はよくないですか。私としたことが、油断しました。

「オーナーさん、ですか?」

「・・・女の子が一人でこんな時間にこんな場所に来るもんじゃないぞ、真巫。」

懐かしい、声。

私が、求めていた、声。

「・・・っ!ロク!どうして貴方が!」

「だって店主だし。便利屋の。」

そのまま、ふぅ、と息を吐くロク。そこにはこの間の冷たさはありません。きっと、煙草でも吸っているのでしょう。私は、訊きたい事が多すぎて、彼に何から訊いたらいいかわかりません。

「僕に何か用かい?」

「こんなとこで、なにをしているのですか?」

「君は、そればかりだな。まぁいい。見ての通り、便利屋の店主。」

「そうじゃなくて!」

「そうじゃなくて、なに?」

「・・・。」

言葉に詰まります。彼の声は、既に冷たさを帯びています。明らかに敵意を感じます。。

「君こそ何しに来たんだい。この街に。」

「任務です。」

「内容。どうせ異端具の回収じゃないんだろう?」

「いえません。」

「そうか。夜久雨に用事かい?」

「・・・いえません。」

隠す必要はないですが意地です。それに、仕事は仕事です。

「そうかい。僕に何か用事かい?」

「いえないです。」

「そうかい。他には誰か派遣されているのかい?」

「いえないです。」

「最初に戻ろう。何しに来た。」

「ですから、いえないと-------っ!」

右手に走る熱刺激。熱いです。苦痛です。

「こたえろ。」

 肉が、焼ける音がします。においがします。

「あっう!」

私の手の肉が、焼けています。彼は多分吸っていた煙草をおしつけたのでしょう。こんなこと、彼にされる理由なんて、ないはずなのに。どうして、こんなんことを。

「・・・、い、いえない。」

「そうかい。夜久雨に用事か?」

「他にも人はいるのか?」

質問に答えないため、計四度、根性焼きされます。まだ、手の痛みには耐えられます。でも、目から、涙がこぼれます。痛いです。何が、というのはもう、分かりませんが。

「や、やめてくださ」

い、迄言わせてもらえず今度は長く、押し付けられます。動こうにもうつ伏せでさらに馬乗りにされては動けません。私に出来るのはただ足をばたつかせもがくだけです。右手がどうなっているのかもわかりません。彼がどんな表情をしているか見えません。見えなくて、良かったと思ってしまいます。

「--------っ、お願いです、やめてくださ」

「この街に何しに来た。」

「やめ」

また、私の言葉が、痛みで遮られます。右手の甲になにかが、刺さり、床に縫い付けられます。熱さでよじれば、さらに手が痛む仕組みです。

今度は右手の薬指の付け根が、焼けます。先ほどから彼が長い間、あつい煙草を押し付けてきます。手の痛みは、もうとっくに耐えられません。

「-------っ、あっ、わっ、わかり、ました!こたえます、こたえますから!や、やめてくださいッ!」

叫ぶことしか出来ない。叫ぶことしかしたくない。

「この街には、今まで起こった異端事件の真相を暴くこと、異端事件が起こった際に介入し解決すること、命令で、きましたっ!」

「それだけか?」

「あ、とは、これから起こる大災害を、未然に防ぐ、こと、です。」

「・・・それは、だれからだ?そして、どうやってだ!!」

「し、しらないですっ!ただ、上から」

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

あついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい

もがけばもがくほど痛む手。しかし、焼かれる手が熱くて動かさない事も耐えられません。

「は、ほんとうですって、だから、やめ、てぇっ!あついですっ!本当にぃぃいいぃっぃい!」

「夜久雨には何の用事だ。」

淡々と、続ける彼。

「なにもっ、ないっ」

「僕らを本部に報告するのかい?」

「しないっ、しないですっ!」

「そうか、ありがとう。」

幾度目か、また、焼かれる私の手背部。手の感覚が無くなればいいのに、なくなりません。そして、彼は、この拷問をやめてくれません。

「たすかるよ。ここが、僕たちの居場所だから。」

「っえ?」

 髪の毛が掴まれます。そして、無理やり、体をそらされます。今度は、喉を狙うのでしょうか。

 しかし、予想が、外れます。彼が、私の口に、自分の口を重ねてきます。意味が、理由が、分かりません。歯の間を割って、入ってくる、舌。

同時に、液体が流れ込んできて、味が、します。苦い、苦い味が。私は、この味を知っている。以前訓練で・・・。なんでしたっけ・・・。

程なくして、私の口は自由になります。が、今度は、手首に、痛みが。

しかし、それほど苦痛に思う暇もなく、私の意識は消えてしまったのでした。


                   -了-


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