第七十七話 ウッド子爵領 一 名も無き村での戦い 三
「これで二十……ですね」
そう言い私は小鬼邪妖精を風の小弾で打ち抜きました。
正確に人でいうところの眉間を打ち抜いたのであまり出血はしていません。
「まぁまぁ多いですな、これで二十一っと」
横を見るとロバルトが老いを感じさせない動きで一瞬で狼乗りの小鬼邪妖精に近付き長剣の二連撃で狼と小鬼邪妖精の首を撥ねます。
「領地の時とどうですか? 」
カウフマン領の治安部隊は全部で十三部隊。
それぞれが領地を巡回します。
待機組、訓練組を合わせても余りますが、余ったメンバーは要請があった場所でのモンスター狩りやダンジョン攻略を行います。
腕が鈍ってはいけませんからね。
「まだ奥へ行かないと何とも。ただ森に入ったところでこの数は少し多い気はします」
ダンジョンは例外ですがね、といいその茶色い髪をかきました。
まだ森に入って浅いところにいます。
ところどころ切り倒された木の跡もあり、恐らくこの辺りで仕事をしていたのでしょう。
ここに小鬼邪妖精の類がいたということは、今日この辺りで仕事をしていたら、モンスターと戦闘になっていたかもしれません。
今日、討伐しに来て正解でした。
「ロバルト、どうですか? 」
あたり周辺に感知魔法をかけていたロバルトに問いかけます。
戦士の恰好をした男性が魔法を使うのも違和感がありますが仕方ありません。
彼が持つ長剣は魔剣です。
ロバルトは魔剣を触媒にして魔法を使っているのです。
「……いますね、うじゃうじゃと」
そうですか、とだけ言い私とロバルトは更に奥へ行きました。
★
「風魔連弾」
「ふんぬっ!!! 」
数十の風の弾丸が周囲にいる小鬼邪妖精達を打ち抜きました。
小鬼邪妖精の魔法使いが魔法を唱えようとしていたのを察知したロバルトが距離を詰め詠唱する前に殲滅します。
その数三。
「これは、異常ですな」
「確かに多くはありますね」
更に私は魔法を、ロバルトは剣撃を放ちこの一帯の小鬼邪妖精達を殲滅するのでした。
「これで小鬼邪妖精の将軍がいれば、ほぼ王が確定なんですがね」
「確かにそうですね。将軍は王がいないと生まれませんから」
一般的に自然発生するモンスターにはどうやら規則性があるようです。
最も分かりやすいのが、王がいる場合です。
王がいると上位種族が生まれやすくなり、その隣には必ずといっていいほど将軍がいるのです。
そして王がいる場合、大体が討伐しきれずにスタンピードを引き起こすので将軍がいるか、いないかはかなり重要になってきます。
まぁ竜のような例外はいくらでもいるのですけれども。
「……どうやら開けた場所に出れるようですね」
そういわれ前を見ると不自然に木が少なくなった場所を発見しました。
「さて、どうします? 」
「火災を引き起こしてもいいのなら無慈悲なる爆裂を放つのですが……」
「それはやめてくださいよ、クリスタ様が言うと冗談じゃなくなりますんで」
「……そのくらいの分別はありますぅー! 」
全くロバルトは私をどう思っているのでしょうか!
「さて、冗談はさておき本格的にどうしましょうか? 」
そう言い目の前に広がる状況をどうするか、考える。
「そうですね、この状況を業界用語で『村を作る』っていうですが……」
二人が再度目の前を向きため息をつきながら一言——
「「村じゃなくて『国』だろ (でしょう)……」」
城のようなものはない。
しかし巡回する小鬼邪妖精の剣士、訓練する小鬼邪妖精の拳闘士……。
機能としては村というよりかは街や国が相応しいだろう。
「将軍は見当たりませんが王がいると見ていいでしょう」
「ええ、それよりもよくこれでスタンピードを起こしていませんね」
「……他の村を潰しているのならスタンピードを起こしているのでは? 」
そういわれ、頭を過るものがありました。
「そうですね……。この『ゴブリン村』以外のモンスターはスタンピードで外に出ているかもしれません。しかし、王の統率力でこの地に戻っていると考えると厄介ですね」
「ええ、相当知能が高いのと、末端まで操る能力があると見ていいでしょう」
おかしいですね。
「変な顔をしてどうしましたか? 」
「変な顔とは何ですか」
「そう、膨れないでください。で、どうしたんで? 」
「いえ、スタンピードを引き起こしたモンスターはその後どうしたのか、と」
「!!! 」
スタンピードは強力なモンスターの出現や移住などにより引き起こされる、一種のモンスター達のパニック状態です。
もしスタンピードが起こり、あの村以外のどこかの村が潰れているのでしたらパニックを脱したモンスター達はどうしたのでしょうか?
「新しい移住地を見つけた? 」
自然とその言葉が口に出ました。
それと同時に後で確認することが出てきました。
ウッド子爵には聞くことが出来ましたね。
「考えていてもいけませんね、この状況をどうにかしないと」
「頭から潰します? 」
「……戦争ではそれが常套手段ですが、今回は末端から行きましょう」
王でないにしろリーダー格を潰されパニックになったモンスターが村へ行ってはいけませんからね。
「さぁ、戦闘開始です! 」
★
「次の方、どうぞ」
少し疲れた顔でそういうのはアレックスであった。
自慢の四角い眼鏡も少し陰りを見せている。
「お、お願いします!!! 」
そう言い目の前に傷の手当を受けに来たのは少女であった。
何故、自分がこのようなことをしているのだろう。
そう思うのも無理はない。
屋敷に籠り書類を作ったりするのが彼の本来の仕事だ。
多少身が護れるという理由でこの任に着いたが、あまり乗り気ではなかった。
「では、傷口に薬を塗りますので沁みますよ」
そう言い足に出来ている、生傷に傷用の傷薬を塗る。
少女は「~っ!!! 」っと声にならない、沁みるような声を上げるが我慢していた。
しかし何故、自分の所は女性ばかり……。
そう思っていると山の方から「ドゴン!!! 」と巨大な音がした。
「何事か!」と村の者達が家から飛び出て確認するがこの音に覚えがあったアレックスは「始まりましたね」と思い、ゆらりと外に出た。
「アレックス! 」
「あー、わかっています。始まったようですね」
「あ、あのぅ。始まったって何がでしょうか? 」
患者の一人がそう聞いてくるので答えた。
「クリスタ様達が戦闘を始めたようですね、この音は」
「しかし、これほどの轟音、大物だったのか? 」
それを聞き青ざめる村人達。
本来なら自分達がその大物と闘わなければならなかったと思うと声が出ない。
「でしょう。では私達の本来の仕事を始めましょう」
そう言いアレックスとメアリーは村と森の間まで行き、構える。
耳を澄ませると森の方から「ハァハァハァ」という獣達の息遣いが聞こえてくる。それを聞きていると狼を確認できた。
出てきた瞬間、アレックスは器用に魔杖を使い、狼を下から薙ぎ払い浮いたと思うと下から風刃を浴びせ、切り刻む。
「文官の仕事ではないんですが……」
そう愚痴るアレックスの後ろで村の女性達が黄色い声をあげていた。
しかしその声は運よく巨大な爆音にかき消されアレックスには聞こえていなかった。




