第七十話 招集と準備、そして出発 二
食料の選別を終えた私は武器庫へやってきました。
今回の旅の目的は視察ですが、ダンジョン攻略を行う可能性もあります。
いえ、絶対にやります!
よってその武器の準備というわけです。
「クリスタ様、いつもの魔杖だけではいけないのですか? 」
そういい私にダメージを与えるのは、先ほど別れたメアリーです。
人選を間違えたようです。
ロバルトにしておくべきでした。
「何があるか分からないので、護身用に持っておこうかと」
左様ですか、と答え黙々と私が探しているのを見守っています。
一つ上で仕事ぶりもほぼ完璧なのですが、何故でしょう?
どこか……そう、どこか私と似た雰囲気を感じます。
探していると目的の物を見つけました。
「ありました! これです! この短剣! 」
見た目は普通の短剣です。
しかし、この短剣には少し仕掛けがあるので、今回はもしもの時の為に持っていきましょう。
武器庫を出た私は自室へ向かいます。
しかし……
「クリスタ様、聞きました! 我々も是非連れて行ってください! 」
「クリスタ様のお世話をしなえればなりません! だから私を、私を連れて行ってください! 」
「もう、クリスタ様一人に行かせません! 」
などと屋敷のメイドや執事が行ってきました。
確かに普通の視察なら連れて行くところなのですが、今回はそうは行きません。
「皆さん、お気持ちは嬉しいのですが今回は連れて行くことが出来ません」
「「「何故ですか?! 」」」
「王城からの手紙によると三名までとなっているのです」
「「「そんなぁ」」」
と、落胆の声が上がる中、メイド長ケリー・ミッチェルと執事長エドワード・サッチがやってきます。
「君達、クリスタ様を困らせてはいけません」
「それに、貴方達は自身の仕事があるでしょう? 単に旅行に行きたいだけではないのですか? 」
そういわれ、言葉に詰まる使用人達。
嬉しさが半減です……。
彼ら彼女らは執事長とメイド長に引きつられながら、仕事に戻るのでした。
自室へ行き服を選びます。
姿見の隣に置いてあるクローゼットを開けますが、さてどれがいいでしょうか?
「正装の赤のローブは必須ですね。立ち寄る領主と会うために必要なので。後は旅服、着替え……」
等々持っていく物を決め、明日に備え今日は休むのでした。
★
翌日。
カウフマン公爵邸の前には大きな、そして煌びやかな馬車が止まっていました。
我が家の馬車です。
誰ですか……
この馬車を選んだのは。
恨むように使用人達がいる方向を見ると、エリー姉さんが目をそらしました。
エリー姉さんですか……。
家の格式を知らしめることは貴族として正しいのかもしれませんが、私はどうにもこのような光る馬車は苦手です。
「……コホン、では皆さん。これより私達は視察へ向かいます。屋敷を、そしてカウフマン公爵領を頼みましたよ」
「「「行ってらっしゃいませ、クリスタ様!!! 」」」
全員総出で送り迎えられる中、私達は最初の地であるミッドナイト子爵領へ向かいました。
★
ある貴族の屋敷にて。
「どういうことだ!!! 何故このタイミングで視察官が派遣される?! 」
「お、落ち着いてください、旦那様! 」
「これが落ち着いていられるか!!! 」
筋肉質な男が燕尾服を着た男性に怒鳴り散らしていた。
手に持つ手紙を叩き落とし、ふぅふぅふぅと息をあげながらもソファーに座り直す。
頭を抱えてながら今後の事を考える。
「くそっ! 打つ手はないか! 」
「旦那様、あえて進言させていただいてもいいでしょうか? 」
「構わん、何か案があるならば言え! 」
怒りながらも、執事の意見を耳を傾けようとする貴族。
「では、失礼して。幾つか案がございます。最もいいのは今回の『貿易』を中止することでしょう」
「ならん! このタイミングが最もいいのだ! 」
怒鳴り散らす主人に特に怯える感じもなく、話を続ける。
「なので、時期を早めては如何でしょうか? 輸送など準備が前倒しになるので費用はかさみます。しかし全てを失うよりかはましかと」
そういわれ、冷静になる。
そしてその案を採用することにした。
「ふぅ……分かった。その案で行こう。早急に手配しろ! 」
かしこまりました、と言い部屋を出る執事。
それを見守りながら、机に着き必要な書類を揃えることにしたがある事に気が付いた。
「そういえば、誰が派遣されるんだ? 」
★
「まさかこうなるとは……」
クリスタは当初、普通の馬車で行こうと考えていた。
しかし先んじて馬車を用意された為、豪華で高性能な馬車に乗ることとなってしまった。
普通の人ならば喜ぶであろうがクリスタは素直に喜べない。
何故なら何かと理由を付けて帰宅時間を遅らせることが出来なくなったからだ。
まるでエリー姉さんが「早く帰ってきなさい」と言っているようです。
あぁ……目の前にエリー姉さんが見えます。
この馬車は幻術付きなのでしょうか……。
クリスタのその憂鬱でどんよりとした顔を見てアレックスが心配して声を掛ける。
「クリスタ様、如何されましたか? 顔色がよろしくないようですが……」
「いえ、特に問題はありません。体調も大丈夫ですよ」
今はメアリーが御者をしています。
私の言葉や表情でロバルトが察した様子で苦笑いをしていますが、笑えません。
何故ならもうすぐ元小国家連合に所属していた国の一つで、現在はミッドナイト子爵が治めている領地に着くのですから。
「……この馬車に乗ると思うのですが、スピードがおかしくありませんか? 」
それを聞きアレックスが四角い眼鏡をくいっとあげ言いました。
「この馬車は現存する金属の中で最も軽いアルタイト製でございます。アルタイトにミスリルを加え魔力伝導率をあげ、アダマンタイトで高度を上昇させております。それに加え先代カウフマン公とアーノルド候の合作により実現した魔力タンクの設置、そして超軽量化、超硬度上昇等々が施されております」
知っていますとも、知っていますが説明になっていません!
それではこの移動距離が説明できないのですよ。
「それに加え、大量の食料を運ぶために時空間魔法を応用し四次元収納が設備され、そして馬達には体力自動回復や移動速度上昇が施されています」
なるほど、それでこの距離を無理やり移動できるわけですね。
納得は出来ませんが、理解はしました。
クリスタがそう思っている間にもミッドナイト子爵領へ入るのであった。
朝にでて夜には三日以上はかかる距離を移動したのだ。
クリスタが異常というのも頷ける。
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