第二十六話 カウフマン公爵家 三 クリスタとルドルフ 二
「成程、ところで陛下。私が勇者パーティーへ加入する際に出した条件、勿論実行できますよね? 」
ルドルフは「……まずい」と思った。
今、多くの貴族家の横槍によりその件について会議すらできない状態なのだ。
クリスタがルドルフに勇者パーティーに入るための条件は「クリスタが勇者パーティーを離脱、もしくは旅の途中で死亡した場合、魔法王国による勇者支援金の中断」であった。しかし故意に勇者パーティーを離脱してはいけない為、離脱に関しては「勇者パーティーからの一方的な離脱を宣言された場合」とした。
これは十五歳の少女が思いついた、自身を勇者パーティーに送り込んだ外務省への嫌がらせであった。
「う、うむ……その件だが、実はまだ会議すらできていないのだ……」
「あら? それはどうしてでしょうか? 」
クリスタの声に威圧感がこもっているのを感じるルドルフ。
手に汗を握りながらその問いに慎重に答える。
「実は外務省の者達……いやドルケン公爵の取り巻きが横槍を入れてきてな。会議が進まんのだ……」
「ドルケン公爵、ですか。ならば吹き飛ばしましょう、物理的に」
その言葉に焦り止める。
「いやいや待て、まだ罪状もないのに吹き飛ばすのはまずい」
「冗談ですよ」
前例があるため『冗談』に聞こえないのが恐ろしいのだが、ルドルフは口を閉じる。
「それにしても、『まだ』ですか。やはり何かあるのですか? 」
「あぁ……。現在『影』にドルケン公爵周辺を調べさせている。直に罪状が出るだろう……。怪しくは思っているのだ。通常、外務卿とは言えど俺や議会に相談もなしに最高戦力を投入する条約を結んでくるなど正気ではないのでな……」
動いているということで少しばかし留飲が下がり、状況の確認ができたクリスタは話題を変える。
「そう言えば戻ってくる途中、セシリーに会いましたよ? 」
「あぁ……会ったのか。議会を通さず王権を持って派遣させた。今回の一件で外務省の状態が思うより悪い。よって反発はあったものの強行したわけだ。最も、クリスタの生存報告がされていたら派遣する必要もなかったのだが……」
「あら、私のせいですか? むしろ感謝して欲しいものです。魔法王国の膿を出すチャンスではないですか」
うぐっ! とダメージを負うルドルフ。
少しばかし反撃しようと思ったが逆にカウンターを喰らってしまった。
「フォード卿はもうすでに帰っている。時を見て会いに行くがいい。寂しがっているだろう」
分かりました、と言い会話を続ける。
「それにしてもフォード卿もやらかしてくれたものだ……」
「どうかしたのですか? 」
「……大体察するだろう? 騎士王国の王城で大暴れしたのだ」
トホホ……と嘆くが嘆くふりだけで、今にも笑いそうなルドルフ。
セシリーは「魔法王国と騎士王国の戦力の違いをはっきりさせてきた」と言い自身満々に報告に戻ってきた。
それに戦慄したのはルドルフと外務省であった。
本来ならば交渉事には順序というものがある。
事前に打ち合わせを行い、手続きを踏みテーブルを介しての交渉となる。
それを丸々ひっくり返したのがセシリーだった。
王命ということで騎士王国も無碍に扱うわけにもいかず、謁見の間に通したのが悪かった。
そして切りかかってきた騎士王国も悪かった。
結果、王城は氷漬けである。
しかもセシリーが使う技の中でも最悪の部類である遅延魔法が付与された状態で氷漬けである。
よって日を追うごとに仕掛けられた吹雪が解放される。
早く騎士王国が魔法王国へ頭を下げ交渉しないと王城は文字通り氷の城へと変貌するであろう。
因みに副次的な作用としてこの一件が広まり周辺各国ではセシリーは新しく恐怖の対象となっている。
「さて、私の事なのですが、私の生存をまだ隠しておいていただけませんでしょうか? 」
「この時間を指定したのはそれか……」
「えぇ、まだ領内の掃除が済んでいませんので」
結局いくつか貴族家が吹き飛ぶではないか! と心の中で突っ込むルドルフ。
しかし外務省の者に加え吹き飛ぶ貴族家の数が増えることを考え「確かあそこの家の人員が余ってたよな? 」と半ば現状逃避気味に考え始めた。
「ふむ、わかった。まだ生存の報告はされていない、ということにしておこう」
「ありがとうございます、ルドルフ陛下」
そう言いクルリと周り窓の方を向く。
「今宵は貴重なお時間を頂きありがとうございます」
「もう行くのか? 」
「えぇ、陛下を独占していては奥様に怒られてしまいますし……」
そしてなにより……
より少し威圧を込めて――
「勇者パーティーに参加したおかげで婚約者が軒並み吹き飛びましたので、お礼参りをしないといけないので」
と伝え、姿を消した。
「……俺のせいじゃ無いんだが……」
そう呟いた声は誰にも聞こえなかったようだ。
★
翌日。
「「「おはようございます! クリスタ様! 」」」
「えぇ、おはよう」
皆さん朝から元気ですね。
三階から降りてきたクリスタはそう思いつつ一階の食堂へ向かう。
「じょうちゃ……クリスタ様、おはようございます、今日の朝食はメタからやってきたベーコンエッグにオルト産の野菜の盛り付け、そして我が屋敷特製のパンでさぁ! 」
そう自信満々に言うのは髪を丸々剃った料理長です。
しかし『様づけ』は違和感がありますね。
「公でなかったら昔のように『嬢ちゃん』でいいですよ」
そう言うも料理長は引かない。
「それはいけねぇ。クリスタ様は公爵家の当主、年齢は関係ねぇ。いざと言う時に『嬢ちゃん』が出てしまったらいけねぇし、それに加え分別ってのはクリスタ様が思っているよりも重要ですぜぇ」
「その口調が残っている料理長が言いますか? 」
クスクス笑いながら指摘すると「おっとこりゃ、いけない」と直そうとする料理長。
かなり強面ですがこれでも一流の料理人、しかもスイーツが得意というのですから驚きです。
そんな彼は屋敷のムードメーカー、色々な言葉で皆を笑わせてくれます。
明るい朝を迎えた私は朝食を取り、次は騎士と魔法使い達が訓練をしている所へ向かいます。
定期的な訓練の視察の様なものです。
「おや? クリスタ様、視察でございますか? 」
そう言い美しい金髪を靡かせやってくる女性魔法使いはカウフマン公爵家治安部隊の三番隊隊長のメアリー・ローズ女士爵です。
「はい、その通りです。まだじっくりと皆さんと会っていないので三年ほどでどのくらい変わったのか確かめに」
「お、それならばクリスタ様も変わられたので? 」
そう奥の方から声を掛けてくるのは茶色い髪で長身の屈強な男性騎士、ロバルト・ドーズ士爵です。
もう五十近いはずなのですが、三年前と比べてよりマッチョになっている気がしますね。
「そ、それは……どうでしょう」
ロバルトの言葉に少し戸惑います。
変わったといえば変わったのでしょうが……。
「ハハハ、もう許可もなく竜狩りや巨大ゴーレム狩りに行こうとしないよな! 」
うぅぅ……。そう言われると弱いです。
こっそり抜け出して追い駆けまわしていた日々を思い出します。
そしてその後に見つかり怒られる毎日……。
うぅぅ~
私は苦悶の表情を浮かべながらもまだまだ家の視察は続くのでした。




