第二十五話 カウフマン公爵家 三 クリスタとルドルフ 一
魔法王国王城執務室。
書類に塗れた机に項垂れる国王ルドルフ三世、そしてそれを不安げに見る宰相グラハム。
手に持つ物を読んでから王の様子がおかしいのでグラハムは嫌な予感がしながらもその内容を聞く。
「……」
「へ、陛下……どのような事が書かれていたのですか? 」
本来家臣と言えど自国の王に渡された手紙の内容を聞くのはよろしくない。
しかし今のルドルフの姿と行動……余程異常事態である事が分かる。
★
事の発端は手紙を読んだその日の出来事。
いつものように執務室で書類にサインをし、次の議会の案を練っていた時に文官から一通の手紙が来たことに端を欲する。
封筒に書かれていた送り主はハリー・エバンス公爵家代理代行、現在の公爵家の代行者である。
もしかしたら次の公爵家を預かる者の選定が終わったのかと思い、確認し吟味するため宰相のグラハムを呼び、読むことにした。
そして封筒の中には更に封筒が入っていた。
これは普通ではない。
通常、魔法王国貴族が王城へ手紙や報告書など書類を送る時は封筒に魔法で他人が開けれないようにしている。
これは勿論、中身を見られないようにするためだ。
よって物理的に二つ封筒を重ねること自体が尋常ではないことを示しているのだが更に厄介だったのは封筒に書けられていた魔法の解除であった。
ルドルフはこれでも魔法王国最高戦力の一人であり、文武両道である。
封筒にかかった魔法を解除することなど容易いと思っていたのだが困難を極めた。
中々に開かない。
定型キーワード、文字、魔法文字に数字の順序などを駆使しても開かない。
それをハラハラと見守るグラハム。
開かない封筒を見ながらふとルドルフは思い出した。
それはその昔三雄が決めた合言葉。
当時の事を思い出しながら「まさか」と思いながらその言葉を使い、解除を行う。
『我らは友である』
言葉を紡ぐと一気に封筒に書けられた魔法が解け開封されて中身が出てくる。
「へ、陛下! 先ほどのは一体?! 」
そう驚くグラハムに「いや、何でもない」と誤魔化した。
宰相も深くは追及せず、手紙を手に取り読む王の邪魔をしないよう後ろに下がる。
手紙を手に取ったルドルフは「手の込んだ事をしてくれる」と思いながらも「やはり生きていたか」と予想が当たっていたことを素直に喜び手紙を読む。
そして冒頭に戻る……。
ルドルフはその内容を読み顔に手を当て天を仰いでいた。
「あーーー……」
「へ、陛下?! 」
言葉にならない声を上げながらどうしたものか、と頭を悩ませる。
長い定型文を除くと手紙の内容は以下のとおりであった。
――—――—――—――—――—――—――—――—
闇夜に紛れ、玉座の間にて待つ!
クリスタ・カウフマン女公爵
―――――—――—――—――—――—――—――—
わざとらしく殴り書きの様に書かれたその文字は「私、これでも怒っているのですよ? 」と主張していた。
「はぁぁぁぁ……。グラハム、カウフマン公爵家へ手紙を送る」
手の込みようと玉座の間という場所を考えると密会を希望か……。
さて……俺も準備をせねばな……。
★
クリスタが公爵家の人に演説をした後、数日間クリスタは三年間の書類を目に通していた。
流石エリー姉さんですね。
帳簿がしっかりしている上、違反者に対する処罰もしっかりしてます。
山のように重なる書類をめくり次々と目を通す。
あら、中には貴族も紛れていますね。
『横領』、『違法奴隷売買』……。
中々やらかしていますね。
三年分の書類は膨大である。
よってまだまだ書類が残っているのだが「コンコンコン」とノックがした。
「どうぞ」と返事を行い入室の許可をだすと中に入って来たのは執事長エドワードであった。
「閣下、王城から手紙が来ております」
「分かりました」
そう言い黄色い封筒を受け取るとエドワードは退出し、中身を見る。
「解放」
すると封筒が開きその中から封筒が出てきた。
あら、仕返しでしょうか?
「『我らは友である』」
その言葉と同時に二つ目の封筒も開封され手紙が出てくる。
「さて、内容はどうでしょう」
持っている手紙に書かれていた内容はいたってシンプル――
「待っている」
だけであった。
「私も準備をしましょうか」
そう呟き魔法使いのマントを手に取り準備を始めるのであった。
★
魔法王国王城玉座の間。
夜も遅く、城でまだ仕事をしているのはメイドなどの使用人、巡回の騎士や魔法使い、執務をする文官や大臣くらいだろうか。
魔法王国国王ルドルフ三世は玉座の間で玉座に一人鎮座していた。
しかしその表情はどことなく緊張している。
現在この部屋は暗い。
夜の暗さもあるが、この密会がバレぬよう灯りを消している。
『常闇に紛れて』の文面から灯りが付いていると来ない可能性を考えての事だ。
ルドルフが玉座の間について少しすると窓から風が吹いた。
それと同時に魔法使いのローブを着た一人の女性――クリスタ・カウフマン女公爵が姿を現した。
「お久しぶりです、ルドルフ陛下」
「うむ……久しぶりで何よりだ。クリスタ・カウフマン女公爵」
緊張のあまりかルドルフはいつもの――普通の貴族と会話するかのような口調で話してしまった。
本当はもっとフランクに挨拶をするつもりだったのだがもう遅い。
「クリスタ、死亡したと教会……そして後程から騎士王国から聞かされたのだが、これは一体? 」
分かりきった内容を聞くルドルフ。
それに形式上の報告は必要なので伝えるクリスタ。
「その件に関し、まず皆様にご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
そう言いながらペコリと頭を下げる。
「それと、本件に関しご報告をいたします」
懐に入れていた記憶の宝珠を取り出し、起動させながら詳細な説明をする。
「以上になります。勇者が私を率先してパーティーから外しそれを死亡として教会と騎士王国へ報告した、これが事の顛末にてございます」
「なるほど、しかし何故すぐに生存を報告しなかった。それこそ各街にいる密偵を通じて俺に連絡をするくらい良いのではないか? 」
「ごもっともでございますが、私を送り込んだ際に何やら不穏な動きを感じましたので、この私の死を利用しただけでございます。もう出てきているでしょう? 公爵領を乗っ取ろうとしている不穏分子が」
もう察知しているのか、と心の中で称賛しながらルドルフが手に入れた情報を伝える。
「確かにそうだ。血統主義派閥筆頭のドルケン公爵に動きがあった。どうやらいつでも尻尾を切れるように派閥内の貴族家を動かしているようだが、『影』には丸見えだ」
「成程、ところで陛下。私が勇者パーティーへ加入する際に出した条件をいつから発動しますか? 」
十八歳には見えない黒い微笑みを見せてクリスタはそう口を聞いた。




