第二十話 カウフマン公爵領リタ 二
「おや、聞いたことのあるお声だと思えばクリラッサさんではありませんか」
声の聞こえた方を見るとそこには丸っこい顔をした中年の男性、騎士王国の国境の街で出会ったルーカス・ジェフリーがいた。
「誰だ? このおっさん? 」
アマンダが警戒しますがそれをマリンが止めました。
「ア、アマンダさん! この人、ジェフリー商会の人ですよ! 」
その言葉を聞いて彼は意外そうな顔をしました。
「おや、私を知っておいでで?! いやはや私もまだまだ捨てたものではないですな、ハハハ」
「ジェ、ジェフリー商会の会長さんじゃないですか! クリラッサさん、お知り合いなのですか? 」
知り合い、というほどの人ではないのですが……。
「騎士王国側の国境の街で出会ったのです」
マリンにとってはこの旅は修業のようなものです。
ルーカスの『塩』については黙っていた方がよろしいですね。
「ホホホ、してこちらの方々をご紹介していただいてもよろしいでしょうか? 失礼、私から自己紹介すべきですね」
そう言い一礼して口を開きます。
「私、ジェフリー商会会長『ルーカス・ジェフリー』と申します。以後よろしくお願いします」
慌ててマリンやアマンダ達が立ち上がります。
相手が余程の大物だと気が付いたのでしょう、アマンダ達も挨拶を始めました。
「私は行商人のマリンと申します。今後ともよろしくお願いいたします」
「お……私はアマンダ、と言います」
「……ナル」
「マーラです」
緊張のあまりか自己紹介が短くなっていますよ。
せっかくの売り込みタイミングなのに……。
「ホホホ、皆様今後ともよろしくお願いいたします」
一通り挨拶を済ませると私達は料金を払い店を出てジェフリー商会へ行きました。
マリンもアマンダ達もたじたじです。
それもそうでしょう、ジェフリー商会の外観からして普通の商会ではない事が分かるのですから。
真っ白い建物に少しばかしのアクセントの装飾。
これが支店だというのですからジェフリー商会の財力が物凄い事が分かります。
中へ入ると、従業員に「お帰りなさいませ、会長」と頭を下げられ「お客人だ、応接室にお茶を」と指示を出し私達を建物の応接室へと誘導しました。
★
「いやはや驚かせてしまいましたかな? 」
恐らく場を和ませようとしているのでしょうが、彼女達の緊張は解けないようですね。
「ルーカスさんは何故行商のようなことを? 」
場が固まって動かないので私が気になったことを聞きました。
これだけの財力を持つのです、行商の真似などせずとも各店舗の運営をしているだけでかなりの儲けが出るはずなのに何故……。
「単純な話です。現地に行かないと分からない事が多いからです。なので店を従業員に任せ私は行商をしていたわけです」
「盗賊やモンスターに襲われる事を考えると、旅をするリスクの方が大きいような気がしますが? 」
「確かにそうですが、貴方達のように素晴らしい人の出会いも考えると、あながち損ばかりではないのですよ」
ホホホ、と言いながら固まっているマリンの方を向きました。
どうしたのでしょう? まじまじと見て? まさか幼女趣味?! それはいけません!
「ふむ……。やはり似ていますね……」
その言葉を聞いて固まっていたマリンが顔を上げました。
「ど、どういうことでしょう? 」
「ん~、間違っていたら申し訳ないのですが、マリンさんはルッチさんのお子さんではないでしょうか? 」
「!!! 確かに私の父の名はルッチですが! 」
「なるほど、なるほど……そう言うことですか」
どういうことでしょう?
「いえ、他国へ出向いている時にルッチさんという方とお知り合いになりまして。その際に「娘に販路を譲った、俺は今! 第二の人生を謳歌中じゃー!」と言ってまして、その時に娘さんの特徴を細かに教えていただいたので……」
その言葉を聞いて「お、お父さんは! もう! 」と顔を真っ赤にしていました。
「マリンさんはこの後どちらへ? 」
「私はこの後オルトへ野菜を補充に行きます……。アローズ子爵領でかなり消費したので……」
「アローズ子爵領? しかしあそこは鉱山をモンスターに占領されて売り物を売ろうにも売れない状態だったはずですが……」
「鉱山は解放されました。中のモンスターは討伐され今は活気に溢れてます」
「なんと?! 誠ですか! 商機を逃してしまいましたな……」
「しかしそこで食材を多く売ったので……」
「あぁ~そう言うことですか。確かにオルトで直売してもらう方がいいでしょう」
ルーカスとマリンの話を聞いていると突如私にルーカスが話を振ってきました。
「クリラッサさんもオルトへ向かわれるのですかな? 」
「いえ、私はこの足で領都へ向かおうと思います」
ルーカスは「ふむ……」と、少し考え提案してきました。
「ならば私の馬車に乗りませんかな? 」
「それはありがたいのですが、その……大丈夫なのですか? これからのご用事などは……」
「それなら大丈夫ですよ。ちょうど本店のある領都カウフマンへ行くところでしたので」
「では申し訳ないのですが、ご一緒させてください」
ご厚意に甘えましょう。
私とルーカスは明日の事を話し合いそれぞれ別れます。
明日降ろしてもらう場所も決めたので、その場所に来るように魔道具で連絡をします。
諸々の準備をして、私はルーカスと共に領都へ向かうのでした。
★
騎士王国王城謁見の間
「教会より魔法王国所属クリスタ・カウフマン女公爵が死亡したとの報告があった。貴国はこの事を御存じだと思うのだが? 」
そう不遜な態度で玉座に座る目の前の男に問いただすのはセシリー・フォード女子爵であった。
「貴様! 不敬であるぞ! 幾ら魔法王国の者とは言え、王であるわしに向かいその口調! その態度! あまりにも不敬! 」
「質問に答えろ……。私は魔法王国『外交官』としてきていると同時にこの国で『武力行使』をしてもよい、とルドルフ陛下より命が下っている」
うぐっ! と声を上げる騎士王……。
本来ならこの王の言う通りセシリーの口調・発言は不敬で処罰されてもいいわけが出来ないものである。
しかしながら相手は大国魔法王国の三雄の一人。しかも武力行使を許可される状況である。暴れられて甚大な被害を出すのはどちらなのかは一目瞭然である。
「っち! 勇者イーサムより『ダンジョン内にて死亡』の報告がされ、それを受諾している」
「成程。我が国の『爆炎の魔女』が負けるほどのモンスターが発生したわけだ……。どうも貴国は対処していないようだが……これほどに強大なモンスターが発生したのだ。対応に関してお聞きしても? 」
クソ! と心の中で毒づきながらも「検討中だ」と答える騎士王。
しかしこの場からの撤退は許されない。
「『爆炎の魔女』が負ける程だ……。さぞ強大なモンスターと思えるがその種類は確認されているのか? 」
「お前には関係ないだろう! 」
「あるさ、強大なモンスターが発生したのならば我が国にも被害が来るやもしれん。支援金を出している以上最低限の情報提供をしてもらわないといけないな……」
「……勇者イーサムからはモンスターの情報は一切されていない……。これから調査隊を派遣するとともに情報が出次第貴国へ提供する……」
杜撰だな……。そんなのいるはずがないのに……。
そう思っていると端にいる騎士が痺れを切らしたのか「へ、へ、陛下に向かって何たる不敬! このアマ! 切り刻んでやる! 」と切りかかってきた。
しかしながらその騎士がセシリー達を切りつけることはなかった。
すぐさま纏: 雷を発動させたドッペルが電光石火でその者を鎮圧しセシリー達自身も冷気を放出し辺り一面を氷漬けにしたからだ。
「お、お前……なんてことを……」
寒さ故かその力の強大さ故か震えながらセシリー達に騎士王が呟いた。
「我々にたてつくということはこういうことだ。もし勇者がもたらした情報が誤情報だとどうなるか……わかるよな? 」
そう言うと首を縦に振る騎士王の姿と騎士の氷像を背にセシリー達は騎士王国の王城を後にしたのであった。




