第十九話 カウフマン公爵領リタ 一
カウフマン公爵領は魔法王国でも随一の面積と財力を誇る領地である。
それは学園都市と呼ばれる領都カウフマンを中心に商業や農業などが発展している為だ。しかしながらカウフマン公爵家のみでこの広大な領地を治めるには問題が生じる。よって街ごとに長としていくつかの分家が派遣され統治している。
主な街はメタ、オルト、ロイド、ノルド、バル、オーガス、サンタ、リタの八つの街と領都のカウフマンでありそれぞれ貴族家が長を務めている。
また他の貴族家の間では別の理由により有名でもある。
それは代々高位魔法使いを輩出している家柄であることもあるが魔法王国三雄の一人、『爆炎の魔女』クリスタ・カウフマン女公爵が治めている領地であることが、より一層その知名度を上げている。
なので『通常時』ならばこの地に手を出すものはいない。
どのような貪欲な者でも手を出したら、自分の領地や家が色々な意味で炎上し、爆発しかねないからだ。
だがしかし突如として知らされたクリスタの訃報……
それに触発され愚か者達が暗躍し始めていた。
★
「ふぇ~、ここが有名な学園都市カウフマンですか?! 物凄い賑わいですね! 」
マリンが今まで通ってきたどの土地よりも賑わいを見せているカウフマン公爵領。
馬車を領地に入った所にある馬小屋に預け宿をとり品物の仕入れを行うため領地を散策していた。
「フフフ、正確にはここは学園都市ではありませんよ」
「「「え??? 」」」
「ここはカウフマン公爵領リタ。カウフマン公爵領とアローズ子爵領を結ぶ街で商業を主に行っている街です」
「そうですか! それでこの賑わいなのですね! 」
「それにしてもすげぇな……。あっちの広場でやってるのは大道芸か? 」
アマンダが指す方を見ると何やらピエロ姿の人がボールに乗りながらナイフを投げていました。
「そうですね、商売目的で訪れた人々や買い物客をターゲットにしてああやって芸を見せているのでしょう。しかし芸術方面はオーガスの方が有名ですね」
「はぁ~俺達には一生縁がなさそうな商売だな……」
そう言えばマリンはカウフマン公爵領で何を仕入れるのでしょう?
「そうですね、アローズ子爵領で王都で売るはずだった食料をかなり消費しました。鉱山の早い解放のおかげか賑わいもすごくすぐに食材が売れてしまって……」
売るのはいいのですが制限を付けてコントロールしないと今回のようになりますよ?
「食材ですか……。主に何を消費したのですか? 」
「……全種類です……。肉類に野菜に……」
あらあら、これは本格的に今後が心配です。
「それならばリタの隣街、オルトと更にその向こうのメタで仕入れるのがいいでしょう。オルトは農業を、メタは他の地からやってくる畜産物を扱っていたはずですから」
「ありがとうございます! お姉様! 」
「……とても詳しい」
少々しゃべり過ぎたようですね。
「この地に来る前に事前に調べておきましたから」
「なるほどな」
私達はそう言いながら進みました。
まだ朝ご飯を食べていなかったのでお腹がペコペコです。
どこかで食事をとりましょう。
「あそこで一旦食事をとりませんか? 」
そこにはフォークの看板が描かれた煉瓦造りの大衆食堂がありました。
「す、少し高そうじゃないか? 」
「そうですか? そのような感じはしませんが……」
ここに来てアマンダ達はクリラッサが一般常識から離れていることを思い出した。
旅の料理? で塩を使うほどだったのだ。
この店を普通と感じてもおかしくない。
「行ってみましょう! 」
そう言うとアマンダ達の懸念をスルーして食堂の中へ入ったのであった。
★
アマンダ達は後悔していた。
高級そうな食堂とはいえ大衆食堂、貴族が行くような食堂ではないから「そこまで高いものがでるはずがない」と思い込んでいたことを。
テーブルの上に置かれたメニューの金額を見ると上限が金貨一枚、下限が銀貨一枚である。
ぼったくりでは? と一瞬思ったが周りから漂ってくる料理の匂いがそれを否定する。
(ど、どうするこれ! )
(た、たけぇ~なんだこの金額! この街は金銭感覚がおかしいのか?! )
(……ブルブルブル……)
彼女達の恐怖も最もである。
『普通』の大衆食堂のメニューの価格は上限でも銅貨五枚、下限が銭貨五枚といったところである。
ここで食事をするくらいなら外で買って食べた方がかなり安上がりとなるだろう。
しかしそこで助け船がクリスタから出た。
「お値段に関しては気にしないでください。アローズ子爵領で臨時収入をがっぽり頂いたので皆様の分もお出ししますので」
勿論そのような物は受け取っていない。
アマンダ達に食事をとってもらうための方便である。
しかしその金額の高さからアマンダ達は注文を躊躇っていた。
その様子を見て更に付け加える。
「……恐らく今日が皆様と一緒に旅をする最後の日となるでしょう」
その言葉にマリン達は「はっ! 」と頭を上げた。
「恐らく最後の思い出、にしては些か華やかさにかけますがどうぞお召し上がりください」
『最後の思い出』という言葉に現実に戻された。
(お姉様……)
(クリラッサさんは私達を気遣って……)
(そうとは知らずに……)
(これは受けるしかないな……)
「皆さん、お言葉に甘えましょう! 」
「そうだな」
「……食べよう」
「いただこう」
そう言いウェイトレスを呼び五人とも食事を頼んだ。
少しして料理が運ばれテーブルに置かれる。
ペペロンチーノに透き通ったオニオンスープ、サラダの盛り合わせ……
一般傭兵ならば生きている間に一度食べれるかどうかの食事であった。
自分達とは縁のない物と思いながらもその美味しそうな見た目や匂いに負けそれらを口に入れる。
「美味しい~! 」
「うめぇな! これ!」
「……おいしい」
「…… (モグモグモグ)」
皆さん喜んでいただけて何よりです。
私もいただくとしましょう。
「ん~久しぶりの味です」
「前にも魔法王国に来たことがあるのですか? 」
あ、あまりに久しぶりだったので声を上げてしまいました。
「これで二度目ですね。以前は違う方と来たのですが……」
嘘である。
クリスタは幼少の頃から頻繁に家を抜け出し魔法の練習やモンスター狩り、食べ歩きをしていた。
なのでこの店、正確に言うとこの大衆食堂の領都カウフマン本店で食べたことがあるのである。
その都度親に怒られていたのは言うまでもない。
そうなんですか、とマリンが言うその後ろから「おや、お久しぶりですね」と声が聞こえてきました。




