第十二話 アローズ子爵領への旅路 三
森魔狼の群れが戦わずして逃げてしまいました。
「じょ、嬢ちゃん……。その……なんだ……。すげぇな……」
何でしょう、納得がいきませんね。
「まぁ何も被害なしで済んだんだ! これ以上の戦果なんてないだろ? なぁ皆! 」
「あぁそうだな」
「流石だぜ」
「……ちょっかいを出すのを止そう……」
私に気を使ってなのか、とりまとめのような方が全員に声を掛けると全員が同意しました。
確かに、確かにそうなのですが……。
何故でしょう、この不完全燃焼さは!
「ハハハ、今さっきのはすごかったですね、お嬢さん」
そう言ってくるのは先ほど高位修復で車輪を治していたお爺さんです。
「それほどでもないですよ」
「いやいや、魔力だけで森魔狼を追い返すとは! わしも気もが冷えたわい! 」
「そうですか? 」
「嗜む程度に魔法を覚えているんじゃが、お嬢ちゃんの桁外れな魔力を感じたらわしも森へ帰りそうになったわい。いや、わしの場合は土かの? ハハハ!!! 」
御冗談がお好きなこと。
しかし高位修復を使うだけあって魔力感知が並外れているのでしょう。
それに影響されてしまったと思うと罪悪感が込み上げてきます。
「差し詰めどこかの地で武勇を誇った方とお受けするが? おおっと、私の自己紹介はまだでしたね」
そう言い暗闇の中、焚火を背に優雅に自己紹介をする。
「わしは修理屋――ロイコットという者です。お嬢さんのお名前をお聞きしても? 」
「私は旅の魔法使い、クリラッサと言います」
こちらも一礼してロイコットさんの挨拶に答えます。
周囲が食事をしている中2人はお互いに探るような眼で見る。
クリスタは高位修復が使える人物の中にロイコットなる人物を知らないために、ロイコットはクリラッサという高位魔法使いを知らないために。
他国のスパイの可能性も視野に入れないといけませんね……。
そして一瞬の静寂の後ロイコットがそれを破った。
「ホホホ、左様ですか。ここまで雄名が轟いていない事を考えると他国から来られた方かでしょう」
引いてくれましたか……。
追及されなくてよかったです。
「それではわしも食事へ行くとしましょう。彼らの騒動に少し巻き込まれましてな、まだ食事をとっていないので、ホホホ」
そう言いロイコットは自分の馬車の方へ向かった。
「ふぅ行きましたか、さて私も戻りましょう」
こうして再度食事へ戻り床に就くのであった。
★
青臭い匂いと温かい日差しに起こされたクリスタはすでに起きているマリン達に挨拶をする。
睡眠中も魔法を継続して起動しておくわけにはいかないのでマリンを除く四名で交代しながら見張りを行った。
当初、傭兵三人組がクリスタはしなくてもいいといっていたが流石に同乗させてもらっている分そう言うわけにはいかない。
何とかごり押しで説き伏せ見張りに着いたのだ。
「皆さんおはようございます」
他の商人や傭兵達に声を掛ける。
朝から異性に――しかも美人に挨拶をされて満更でもないようだ。
何やら顔が赤いですね。
おはよう、と他の者達が挨拶を返す。
「かぁ~、こんな美人さんに朝から挨拶されるなんて俺達はついている」
「今日は運気が上がりそうですぞ」
「先に行った奴らが不憫でならねぇ、ハハハ」
さて、マリンの馬車は……あそこですね。
「マリン、おはようございます」
「おはようございます、お姉様! 」
「……おはよう」
「あら、ナルもいたのですか? おはようございます」
そう挨拶をしてくると後ろから燃やしていた火を消していたアマンダやマーラがやってきた。
「おう、皆揃ってるな」
「行こう」
その言葉を合図に私達はマリンの馬車へ乗り込みアローズ子爵領へと向かいました。
★
魔法王国王城の会議室
「何故! 外務卿を派遣しなかったのですか!!! 」
そう顔を赤くして叫ぶのはこの国の貴族の一人――ドルケン公爵であった。
「今回の一件はそもそもの話、外務卿が勝手に騎士王国と話をつけてきたのが原因だろ? 」
「しかし! 」
「その元凶をまた送り込んで我が国の戦力を落とすわけにもいかん。それとも何か? ドルケン、貴様騎士王国の手の者か? 」
そのようなことは御座いませんが! と叫び散らすドルケンに答えるのはルドルフ三世であった。
勿論、王や議会の承認を得ずに三雄の一人であるクリスタ・カウフマン女公爵を送ると条約を結んだ外務卿はルドルフ王により貴族位を剥奪、更迭され今はどこで何をしているのかわからない状態である。
魔王、そして勇者が確認された場合各国が資金・人材を提供しそれに対処することは以前より決まっていることであった。
しかしそこに最高戦力を投入しなければならない、という決まり事はない。
一般的に魔王に対する有効手段の筆頭が『勇者の派遣』である。
それは神より与えられた『力』が関係しているのだが、それを知っているのは教会と各国の代表のみである。
よってその勇者に魔王を討伐する為の支援を行うことは合理的である。
本来、魔法王国の方針としては三雄ではなく他の上位実力者を投入するつもりであった。
しかし元外務卿の独断により三雄を派遣することになり、しかもその一角を失ってしまった。
今回の一件により国王と議会から外務省は大きな不信感を抱かれているのである。
そしてその外務省の大半を占める派閥の一角がこのドルケン公爵が率いる血統主義派閥、ということなのだ。
「ドルケン……貴様、何故止めなかった? 」
三雄最後の一人『雷轟』ルドルフ三世がドルケン公爵を睨み問い詰める。
「そ、それは! その方針が合理的である、と考えたからです! 」
ドルケンは最早蛇ににらまれたカエルである。
ドルケン自体も魔法使いとしては上位に当たるが相手が悪い。
実力が離れすぎている。
「で? 現外務卿を派遣することが? 最善の手だと? 」
「そ、その通りです! 」
赤い顔から一転、冷や汗をかきながら少し青い顔でルドルフに肯定を示す。
「俺が若輩者だと侮っているのか? 」
「……何をおしゃりたいのですか? 」
軽く睨んだ後、「フッ!」と笑い会議の終了を告げる。
「まぁいい。今回の件はすでに決定事項。派遣も済ませている。これ以上の問答は無用だ。これにて閉会! 」
その言葉と同時に他の閣僚が去っていく。
ドルケン公爵は少しルドルフを睨みながらも立ち去り完全に会議は終わったのであった。
閣僚がいなくなった会議室、そこにはルドルフと宰相グラハムが残っていた。
「全く不愉快だ……」
「時には怒りを表に出さないことも必要ですぞ」
そうルドルフはグラハムに諭されるが「俺とお前しかいないんだからいいだろう」と言い返す。
「差し詰め自分の手駒を送って口裏でも合わせるつもりだったのだろう」
「可能性は高いかと」
「後はフォード卿の結果待ちだな……」
「報告、ではなくですか? 」
「……俺達三雄は爵位は違えど、それなりに交流があった……。カウフマン卿死亡の原因を作った騎士王国の事を考えると……」
そう言うとルドルフはぶるっと体を震わせた。
それなら違う者に行かせればよろしかったのでは? と言いかけるグラハムであったがその言葉を飲み込み騎士王国で何も起こらない事を祈るばかりであった。
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