第十一話 アローズ子爵領への旅路 二
中々動きませんね……。
「流石に遅すぎます。ちょっと前に行ってもう一回様子を見てきます」
「あ、マリンさん。俺もついて行きます。何かあったらいけないので」
そう言いアマンダとマリンは前でトラブルを起こしている馬車の方へ行きました。
「こう言うことはよくあるのですか? マーラ」
「ん~稀にあるくらいですかね。基本的に新人の時は誰かの下について見習いをするんで馬車がトラブルを起こした時の対処方法とかを学ぶんだが……。こりゃ何も考えずに一念発起したパターンの様ですね」
ここまで長いのは始めてですよ、と肩を窄めていうマーラに続いてナルが更に口を開く。
「多分魔法王国に夢見た少年が何も考えずに行商をしてしまったのかもしれない。その証拠に……」
そう言いナルは前を指さしました。
それにつられ前を見ると何台か詰まっている馬車の先に例の馬車が立ち往生しています。
「……荷物の量がとても少ない。それだけ仕入れが出来なかった、と見るべき」
なるほど、と頷いていると見ている方向からマリンとアマンダが戻ってきました。
「こりゃぁまいったぜ。馬車に換えの車輪がないのもそうだが、壊れ方がまずい」
「私も簡単な物なら治せるのですがあれは無理ですね……」
「後続の方に誰か車輪を譲ってもらえないか聞いてみてはいかがですか? 」
「そりゃ無理だろう。もし進んだ先で自分達も同じ目にあうといけねぇし、何よりあの馬車の車輪に合う物を持っているかどうかわからねぇ」
「恐らく誰かからのおさがりなのでしょう。馬車自体が一世代、二世代前のものです。そのタイプの車輪を持っている商人はあまりいないかと……」
これは本格的に参りましたね……。
私達を含め多くの商人やその護衛が困っている所「これはどうした?」と声を掛けてくる者がいました。
全員が振り向くと奥の方から小柄な老齢の男性がやってきた。
「馬車の故障だ……」
誰かが苛立ちを隠さずにそう言います。
「馬車の故障? なら君達も治せるんじゃないか? 」
「っち! そういうなら爺さんがやってみろよ」
また別の所から声が聞こえました。
その男性が「ふむ」と頷き修理の道具を持ってトラブルを起こしている馬車へ寄る。
「君が故障した馬車の持ち主かね? 」
「は、はぃぃ~」
「この馬車は……あぁ~成程。それで治せないのか……。他の方々が言うのも仕方ないというものだ。中古か何かかな? 」
「はい、そうなんです。商人になるために買いました……。正直あまりお金がなかったので中古を……」
「ふむ……。これはもう治せる人は限られているんじゃないかな……」
そう言うと持っている道具を取り出し車輪の修理を始める。
慣れた手つきで車輪を治し始める。
壊れた接合部分を修復しているように見えるが……。
あれは……修復ですか?
いえ、違いますね。
まるで巻き戻っているように感じます。
修復よりももっと高位の魔法でしょう。
クリスタは更に観察をする。
高位修復? でしょうか? しかしもうすでに高位修復を使える職人は限られているはず……。このような場所に現れるとは思えませんが……。
「すげぇ……。なんだあの爺さん……」
周りから感嘆の声が漏れます。
傍から見ると簡単に修理しているように見えるのですが、あの方は高位修復と持ち前の技術の両方を駆使して修理していますね。
流れるようなその動きは一種の芸術のように感じます。
「ふぅこれで終わりだ」
「あ、ありがとうございます! 」
「うむ、だがこの馬車は今回の旅でお役御免にした方がいいと思うぞ。一旦応急処置をしたが、これは一時的なものだ。またすぐに壊れる」
そう言い残し一人自分の馬車へと帰って行きました。
「治ってよかったが……」
「これは野営ですね……」
辺りを見るともうすでに夕日がかかろうとしていました。
イレギュラー発生の為、私達は野営を余儀なくされました。
★
クリスタ達は女性のみのグループということもあってすぐに注目の的にされてしまった。話しかけてくるだけならまだよかったのだが、商人や傭兵というのは主に男性が多い職業だ。
そのこともあってかこちらにいかがわしい目的で近づこうとする者が出てきた。
仕方なく静寂、存在隠蔽、消臭、そして念のため結界を駆使して身を守ることにしました。
もし順調にアローズ子爵領についていたらこのような心配もなかったのですが、仕方ありません。
私達に近付こうとしていた男性陣は完全に私達を見失い去っていきます。
「流石クリラッサさんだな……」
「それほどでもないですよ」
褒められて悪い気はないですね。
「……いつもなら交代で男どもを蹴散らす……」
何気に物騒な話ですね。
「こうして安全に飯を食えるだけでも私達は運がいい! 」
そう言い馬車の方を見ます。
静寂のせいで声は聞こえませんが物凄く新人商人は怒鳴られているようですね。
顔を赤くして口を開く商人達が見えます。
しかし……。いいのでしょうか?
モンスターの出現頻度が低いとはいえここは街ではありません。
動物やモンスターが出ないとは限らないのです。
だから大きな声を出して引き寄せてしまうといけないような気がするのですが……。
「うぅ……。準備の大切さをよく知りました……」
マリンはあそこで怒鳴られアザを作っている新人商人を見て自分と置き換えたのでしょう。
準備は大切です。
今回の件で彼女がそれを学んでくれると嬉しいのですが……。
そう思っていると商人の護衛が何かに気が付いたようですね。
その様子に商人と傭兵達に緊張が見えました。
その様子に違和感を感じたので私は静寂等を解きます。
「何が起こっているのか分からないので、情報操作系の魔法を全て解きました。事情を聴きに行きましょう」
と、言い私達は「どうされました?」と他の傭兵達に聞きに行きます。
「お、おう、嬢ちゃん達……。今までどこに行ってたんだ? いや、それはもういい。俺達の食事の匂いのせいか何やら森の方から気配を感じたんだ」
いえ、貴方達の声のせいだと思いますよ?
「来るぞ! 」
誰かがそう言うと森魔狼の群れが現れました。
「っ!!! 森魔狼の群れか……」
「被害なしで抑えるのは難しいか? 」
「何か食いもん放り投げて注意をそらすか」
たかが森魔狼の群れくらいで何を弱気になっているのですか、この人達は? 確かに魔狼系統は群れを成すことでその脅威度が上がります。
しかし……。
『誰に喧嘩を売っているのか分からせてあげましょう!!! 』
クリスタがそう言い魔力を放出すると森魔狼達が「キャイン!!! 」と叫び、急に森の方へ戻っていった。
「あれ??? 」




