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この兄をどうにかしてください!!  作者: 杮かきこ
第3章  『この祭りをどうにかしてください!!』
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第15幕  17

長らくお待たせいたしました。ようやく再開いたします。

「うわぁっ!!」

 男が路地裏に逃げ込もうとして――現れたケリーエに驚き、反対側の路地に逃げ込もうと――それも背後に立つパイクに阻まれた。

 パイクに気を取られている間に、ケリーエが男の背中に右手を突っ込んだ。

「なんだっ!?」

 男は痛みを訴えない。血も――出ない。

「発動」

 ケリーエが一言呟いて。男の姿がケリーエの握る『神杯(ネクトル)』の中に吸い込まれていった。



「……呆気ないな」

 パイクがそんな感想を漏らした。

「…この『カタフ』からは、『火属性の神杯』の反応がない…。

 囮を掴まされたんだろうな……」

 そう口にするケリーエの表情は暗い。



(ケリーエさん、パイクさんっ!!)

 突然2人の頭の中に、シエルの声が直接響いた。

「シエルさん…ですか?」

(はい。お2人の位置から南側の通りに向けて、1人の『カタフ』が移動しています)

「ありがとうございます。すぐ追います」

 ケリーエがシエルから齎された情報に礼を述べ、すぐに返事をした。

(お願いしますっ!!)

「それとシエルさんっ!!」

(はい?なんでしょう?)

 ケリーエから声をかけられ、シエルは驚いた様子で反応した。

「けして無理はしないでください。私たちはあなたが頼りなんです」

(……はい。ありがとうございます)

 シエルは落ち着いた声で、ケリーエに答えた。



「ケリー兄さん…心配するのはいいけど、あまりあの人にプレッシャーをかけるような言葉をかけない方がいいんじゃないのか?」

 パイクの質問に、ケリーエは小さく息を吐き出した。

「それでも…言いたかったんだ。あの人の頑張りは本物だからね」

「…そうだけど……」

 それ以上はパイクもケリーエに言うことはせず、2人の姿は路地裏から消えた。



◆◆◆



「ここからだと、ケリー兄さんたちの方が『カタフ』に近い…かな」

「だろうな……俺たちはシエルさんのフォローに……」

 ここでジンの言葉が不自然に――途切れた。

「……ジン?」

 アーラがそんなジンを心配して顔を向けたが、ジンは藍色の双眸を大きく見開いて、一点をただ――見つめていた。



 そこは「レユアン街」というレユアン王国からやって来た商人たちが作った、東洋の文化を感じさせる店などが並ぶ通りになっていた。

 建物も木造のものが多く、エリュシオンの街並みに慣れ親しんだ者たちからは、一種の異世界に迷い込んだような独特の雰囲気が溢れ、祭りの人ごみを相まって、そこは摩訶不思議な空間と化していた。



 そこに女性が1人。2人ほどの体格のいい男性を伴い、路地を出たところからジンを見つめていた。

 アーラも見たことのない――東の民の美しさを全て独り占めした――妖艶な美女。

 艷やかな長い黒髪がふわりと揺れ、女性はジンへと歩み始めた。

「…探したわ…ジン」

「…リシ様……」

 ジンの呟きにアーラが反応する。



 リシ・チンティン――レユアン王国、先の女王ディエの長女の名前。

 現王シバンの姪に当たる人物だったはず――。

 レユアン王国でもその美貌に狂わされた男は数知れないという――それほどの美しさをもつ女性と聞いていたが――。

 目の前のこの女性ならば、それも頷ける。



「…隣の子…綺麗な子ね」

 リシという女性は、ジンへと向かっていた歩みを、2歩手前でアーラへと向けた。

 ジンは容赦なくその女性を睨みつけると、アーラを自分の背後に隠した。

 突然の出来事にアーラは成すすべがなく、今はジンの背中だけがアーラの目の前に広がっている。

(またこいつ…背が大きくなったのかな?)

 と、関係ないことまで考えてしまったが。



「どうして?取って食べたりしないわよ」

 美しく綺麗な声音だった。心地よい鈴の音が響いているような――。

 それでもジンはその声音に酔いしれることなく、殺気を込めてリシを睨み続けた。

「俺だけで十分でしょう?それにもう何も関係はないはずだ」

「酷いのね…あんなに愛し合ったのに……簡単に私に飽きてしまうのね。

 私の体には、まだあなたが消えずに残っているのよ?」

 


 美しい声がら繰り出される、意味深な言葉の数々。

 アーラの体がぶるっと震える。一体どういう意味なんだ――と。



「今はその子に夢中なの?」

「元からこいつだけですよ、公主様」

 元から?アーラからジンの顔を見ることは叶わない。

 今こいつはどんな顔してリシと話をしているのだろう?

 ただ「公主様」とジンが言ったことで、この女性がリシ・チンティンであることは特定出来たのだが――。



「1年もあなたを探し続けたのに…こんなに簡単に私を振った男はあなたが初めてよ。

 その子の嫉妬してしまうわ」

 笑みは絶やさないが、リシの言葉には刺が含まれている。

「私はしばらくこのピサ島にいるわ…いつでも訪ねてきてね、ジン。その子も一緒だともっと嬉しいけど……」

「これ以上あなたに関わるつもりはないですよ。諦めてください」

 ジンはリシに否定し続ける。一体この2人の間に何があったんだ?

 アーラの頭の中で、「不安」が急速に支配を広げた。

「公主様。これ以上は次のご予定に差し支えます。今はこれぐらいで…」

 リシの背後に控えていた男の1人がリシの耳元で囁いた。

「あら…とても残念だわ。それではね…ジン、また会いましょう」

 その存在感とは逆に、呆気なくジンとアーラの前からリシは去っていく。

 リシを促した男とは違う――もう1人の男がリシを見つめるジンに歩み寄った。

「まったくお前は1年前と変わらないよ…リシ様でさえ拒絶するとはね。

 でもこのままでは済まないと思えよ」

「何をしているのティタオ?行くわよ」

「はい、リシ様」

 ティタオという男は、ジンに挑発的な視線を向け――その余韻を残したままジンの前から去っていった。



「……ジンっ!!」

 リシたちが見えなくなると、呆然としているジンを――不安げに見上げた。

 そんなアーラをジンはようやく見返すと、何を考えたか、人が1人通れるかという店と店の狭い隙間にアーラを連れ込んだ――ほとんど衝動的に。



「……あ…はぁ…はぁ…」

 強引なキスのあと、アーラが空気を求めて大きく肩を上下させながら呼吸した。

 ジンもアーラと同じように、荒い呼吸を繰り返した。

「…なんだよ……なんなんだよ…あれ」

「…あとで話す…必ず…。でも今は…訊かないでくれ」

 アーラはジンの胸に頭を預け、ジンはそんなアーラを抱きしめた。

「わかった……今は『カタフ』を探そう……」

「……あぁ」



(ジンさん、アーラさんっ、どうしましたっ!?)

 突如シエルの声が頭に響き、反射的にジンとアーラは体を離した。

「いや…な…なんでもっ!!」

 珍しくジンが動揺している。

(突然お2人の気配は感じなくなったものですから…何かありましたかっ!?)

 何かあったんだけど――答えるわけにいかない。

「何もないです。すみませんでしたっ」

(なら良かったですっ!!「視界」の情報を送りますから、僕らのフォローをお願いしていいですか?)

「はい、お願いしますっ!!」

 シエルとのやり取りの間、ジンが必死に取り繕っているのがわかっていたので、アーラはジンの後ろで笑いをこらえて肩を揺らしていた。

 ジンはそれがわかっていたので――シエルの声が聞こえなくなったとたん、アーラを羽交い絞めにして振り回した。

「ごめん、ごめんっ!!」

「行くぞっ!!」

 愉快そうなアーラの手を強引に掴むと、ジンは屋根へと飛び上がった。

 


 アーラからは見えなかったが――このとき、ジンの口元には微かな笑みが浮かんでいた。






 



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