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この兄をどうにかしてください!!  作者: 杮かきこ
第3章  『この祭りをどうにかしてください!!』
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第15幕  12

「まちなさーいっ!!」

 アンジェは背中から「翼」を具現化し、飛行を可能とする。

 そこまではいいのだが、「そこでじっとしていなさい」と叫んだものだから、男に逃走の機会を与えてしまったのだ。

 男は屋根伝いに逃げている。

 アンジェはそれを空から追いかけている状態だった。



 ロウは人ごみの中にウロつくもう1人の男を追っている。

 シエルの『視野拡張』の能力で、その男の「色」だけが見えている状態だ。

 人の中に紛れようと、ロウは見失うことはない。

 そして祭りでごった返す通りの人の波を、まるでなんでもないかのように、するすると避けて通る。

 通り抜けられた人々のほとんどはロウに気がつかず、露店の賑やかな品揃えを目で追うことに夢中になっていた。

 そしてロウは思う。

「私がスリなら、ヤリ放題ですね」

 もちろんそんなことはやりはしないのだが――ちょっと思ってみたかった。



 アンジェがあるものに気づく。

 が、すぐに屋根を伝い逃げる男に集中した。



「追ってこい、追ってこい」

 わざと屋根の上を逃げながら、アンジェが自分を見失わないように、男は一定の速度を保った。

「羽の生える奴なんかいなかったと思うが、この祭りに合わせて他の地域の『アトスポロス』が応援に来ているってことか。

 まぁ、どっちにしてもこのままあいつをおびき出し、人質にして仲間を集めさせても面白いな」

 男はそんなことを呟きながら、空の上のアンジェを気にしつつ、目の前の自分の逃走経路を確認しようとした。が。

「うわぁっ!!」

 男の目の前に、1人の少年が屋根と屋根の間から飛び出した。

「受け取れ、姉ちゃんっ!!」

 そう叫ぶなり、少年――ワルドは思いっきり、男を空高く蹴り上げた。

 体をくの字に折り曲げ宙を舞った男を、アンジェはタイミングよく、空でナイスキャッチする。

「ありがとうございます、兄ちゃんっ!!」

 可愛い容姿からは似合わぬ台詞で、先ほどアンジェがワルドを見たときに、ワルドがしてみせた――同じように親指を立てて笑った。

 ワルドもアンジェのノリの良さに、にっと同じポーズを屋根の上でとっていた。



「つぅわけで捕まえてきたぜっ!!」

 アンジェとワルドの連携プレイで、見事、男は確保され、ロウも問題なく街行く男を確保していた。

 だが問題は――。

 アンジェとワルドが確保した男。逃走の恐れがある――だからとは言え――。

 見事な亀甲縛りで身動きひとず取れず、アーラたちの前に差し出されたのだ。

「時間がかかってると思えば……馬鹿か、お前はぁっ!!」

 アーラが叫ぶ。

「そうは言うけどよ。これ大変なんだぜ。でもうまいだろ、俺っ」

 自慢することか?!

 ワルドにはそう頭ごなしに怒鳴りたい。

「私、やり方覚えましたっ!!」

「覚えなくていいからっ!!」

 これはシエルの即答だった。

「えっ!?そうなんですか?」

 残念そうにアンジェは落ち込んでいる。

「ワルドさんはそういうご趣味があるのですか?」

 ミューズが何気ない質問のごとく、ワルドに聞いた。

 ちょっと待て――とアーラが思いかけると。

「?意味わかんねぇけど、これ兄貴から教わってんだぜ」

 自慢げなワルド。

 えっ?!ワルドのお兄さんって?!――アーラとシエルの脳裏には、その問いに対する答えを求める欲求が渦を巻く。

だが今は、目の前のこの男から急いで聞き出さなければならないことがある。

「とにかくこうはしてられないな」

 アーラは左耳に仕込んだ通信用の『神杯』に手をかけた。


◆◆◆



〈皆っ!!〉

 各メンバーの耳に、アーラの声が飛び込んできた。



「アーラっ!?」

 ジンとミゲが互いの顔を見合わせた。



〈『カタフ』らしき男を1人確保した。尋問するにも、ここは人の往来が激しい。

どうすればいいっ!?〉

 屋敷にいるクーゼたちの耳にも、アーラの声は届いている。

「よくやった。俺たちは今中央広場の屋敷にいる」



〈そこまで連れてこられるか?〉

 クーゼの声に、アーラはシエルと顔を見合わせた。

「問題ないよ。今から向かう。皆も一度、中央広場のニキティス家の屋敷に来てくれっ!!」

 通信はそこで途絶えた――はずだった。

〈アーラ、お前、今どこにいる?〉

「…ジンっ!?」

 アーラの頬が一気に紅潮する。

 シエルが微笑む中、そんなシエルから視線を外し、アーラは慌ててジンへと集中した。

「東の海岸通りに近い路地裏だ。シエルさんたちもそこにいる」

〈今、そこに向かう。そこで待ってろ〉

「待ってろって…大丈夫…」

〈いいから待ってろっ!!〉

 一段と大きい声が耳に響き、一旦、通信は途絶えた。

「なんだよ……」

 アーラは恥ずかしそうに、小さく文句を言った。



◆◆◆




 ほどなくジンとミゲたちが合流し、2人の男たちは中央広場にある屋敷内に運ばれた。

 そこにはキートやクラッペの他、シェーヌやフィールまでも合流していた。

 もう1人の男は『デナモス(悪霊)』が憑依された状態の人の「屍」であることがわかり、すでにその操る術が途絶えているため、元の「死体」に戻っていた。

 


 そうして『カタフ』を捕まえたワルドは――。

「俺が捕まえたんだぜぇ」

 と、自慢げな様子で自己主張の真っ最中だった。

「で…この亀甲縛りもワルドくんの仕業なんですね」

「そうですよ」

 ケリーエもそれ以上、言う言葉がない。

「……運んでくるのが恥ずかしかったな……」

 ジンがぽつりと――呟いた。

「まぁ…とにかく……」

 苦笑いが抑えられないクーゼだったが、男を見下ろしたとたん。周囲の空気が一瞬で凍えるほどの――憤怒の表情で男を見た。

 いくら『カタフ』たちが刹那的な考えや行動をするからと言って、このクーゼの表情に恐怖感を抱くのは、彼らにも感情というものがある証拠だ。

 男は水気のない――それでも唾を飲み込んでしまう。

「……何を企んでいる?」

「企む?楽しむと……」

 だんっと、クーゼは床に転がる男の顔を足で踏む。

 男の顔は床に潰され、顔の形は序々に加わる足の力で歪んでいく。

「言え」

「ひゅ…ひゅうか(い…言うか)」

「……言え」

「……ひゃはは(あはは)」

 笑ったとたん、クーゼの足が男の頬に容赦なく食い込んだ。

「そうか。ならこのまま死ね」

 冷酷な顔でクーゼは男を見た。男の頭の中で、瞬間的に死への恐怖が湧き上がる。

「……ひゃっ、ひゃて(ま、まて)」

 すっとクーゼの足の力が緩む。男はほっと息をつくが、クーゼの足が離れたわけではない。

「い、今…俺の仲間が島中に散り、『爆裂』の魔導術を仕込んだ大量の『神杯』を抱えている。これだけ言えば、馬鹿なお前らにも意味がわかるだろう」

「数は?」

 これはケリーエの質問。

「言うか馬鹿」

 男がそう強がった。

 それを聞いた再びクーゼの足の力が、男の顔面を維持する肉体の限界を一気に越えようとしたとき。

「そこまでわかれば大丈夫です。数も場所も、僕が突き止めてみせます」

 シエルがクーゼとケリーエに申し出た。

「兄さん、シエルさんの能力は半端ない。この男を見つけられたのもシエルさんのおかげだった。出来ると思うっ」

 シエルの能力を目の当たりにしたアーラだからこそ言えること。

 それが嘘ではないことは、2人の様子からもわかる。

「わかった。それでいこう…シエルくん、お願い出来るかな?」

「はいっ。任せてくださいっ!!」

 シエルがクーゼに力強く言った。



 時刻はまもなく昼を迎えようとしていた――。




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