第15幕 10
ヴノとカリディアと共に街を行くカトリーヌは、どこかソワソワしている。
「すみません。本当はお兄様と一緒がよかったですよね?」
申し訳なさそうにカリディアが言った。
「いいえ……なんか慣れないし…でも今は大変なことが起きるかもしれないっていう緊張からです」
それはヴノたちに気を使わせまいという、カトリーヌの遠慮から出た言葉であることはヴノもカリディアも理解している。
「気を楽に…なんて言っても無理かもしれないけど、あとで疲れちゃうから…本当に気楽にやりましょう」
ヴノが人懐っこい笑みを見せる。
「……はい」
カトリーヌは、ヴノの笑みにひとまず安心した様子で微笑んだ。
「それよりヴノさんは、この島の方なんですか?」
「あー。なんと言っていいか……」
ヴノの日焼けした肌や、その雰囲気から、カトリーヌはそう判断したのだろう。
ヴノとしてはどう説明しようかと困っていると、隣でカリディアがくすくす笑っている。
「笑ってるな…この野郎……」
「す、すみません。だってヴノさん、そう聞かれること多いから……」
「…今日ははぐれそうでも手を繋いでやんないぞ」
「エェっ!!それは嫌ですっ!!」
「じゃぁ、笑うな」
「……はい」
渋々ヴノに従うカリディア。カトリーヌは1人、「私、お邪魔じゃないかしら?」
と思ってしまった。
クレイ、エペ、カメリアの3人は、島の西側を担当区域としていた。
「もしクレイが『カタフ』の残党だとしたら、どういう作戦を取る?」
エペがそう訊いた。
「……その数次第なんだけど……この祭りを隠れ蓑に、重要施設を襲う…。
でもそれではあまり効果的な方法じゃないな。
彼らが追い詰められているという条件を考えると……無差別テロを考えるかもしれない。
あとはこの祭りの見物客を人質に、僕らの命を要求するとか……」
クレイの口からぽんぽんと物騒な言葉が飛び出していく。
「クレイ…クレイ」
考えることに集中していたクレイは、エペに急に声をかけられ、後ろを振り向いた。
そこには顔面蒼白になったカメリアがいた。
「ご…ごめん、カメリアっ!!これは…その可能性の話で……」
「…私たち…急いだ方がいいんですね」
「そっ…そうだね。でも、敵の出方がわからない以上、僕らが焦っても仕方がないよ」
「そうですか…でも私、頑張りますっ」
めっちゃ力んでない?
両手をギュッと握り、カメリアはクレイに力説した。
アーラに来ることを認めてもらったことで、「頑張らないと」と考えすぎているようだ。
アーラが今朝、悩んでいたことがよくわかる。
「カメリア…さっきクレイも言ったでしょ?焦っても仕方ないって。普通でいいの」
「普通…ですね。はい」
エペのアドバイスを受けて、ふぅと息を吐いて、肩から力を抜くカメリア。
それはいつのもエペだった。
一体昨日はどうしたというのだろう?なんか1人、変にはしゃいでいたような。
そりゃ――想い人と一緒ならはしゃぎもするか……。
クレイはそんなことを考えてしまっていた。
「クレイ?」
気がつくと、エペの顔がすぐ傍にあり、クレイは1歩後ずさった。
「なによ?」
「こんなに近くに顔があったら、普通驚くでしょ?」
クレイが反論すると、エペはじっと睨み
「昨日部屋に送ってくれた仲でしょっ?!」
「あ…あれはっ」
ここで2人がはっと気がつくと、カメリアが2人をじ――っと見ていた。
「昨日…部屋でなんかあったんですか?!」
そう言って小首をかしげるカメリアに、クレイとエペは必死に全力で否定した。
「そ、そういう意味じゃないのっ。違うのよ、カメリア」
「ほっ、本当だよ。ただ、酔ったエペを部屋に送ったってだけの話だからっ」
「……そうなんですか。面白くないな」
ぼそっと呟く。固まるクレイとエペを尻目に、カメリアは涼しい顔ですたすたと2人の前を歩いて行った。
「か…カメリア――っ!?」
クレイとエペの声は綺麗にハモっている。
カメリアはペロリと舌を出し、肩を竦めてみせた。
「やりすぎかな?」
「ふぅ――っ」
カリディアが大きく息を吐き出した。
むやみに歩いても埓があかないと、カリディアが『カタフ』の気配を探ると言い出し、人の気配があまりない路地裏で実行したのだが――。
「…どうだ?」
「…すみません。やはり、人が多すぎます……」
ヴノの問いに、カリディアは首を小さく左右に降った。
「今日は2日目で一番祭りが盛り上がる日でしたよね。人も特に多い日なんでしょうね」
カトリーヌがカリディアをフォローするように言った。
「ありがとうございます、カトリーヌさん。でももう一回頑張ってみます」
「無理しないで…」
カトリーヌは心配そうに、疲れ気味のカリディアを見た。
「私の兄……シエルなら、相手が特定出来れば、それを見つけることが出来る能力を持っているのですが……」
残念そうにカトリーヌが呟いた。
「確か…シエルさんの能力って……」
ヴノが言った。
◆◆◆
この日特に人が多い、中央広場に、クーゼ、ケリーエ、パイクの3人がいた。
「お前ならどうする…ケリー?」
クーゼがすれ違うことも大変なほどにごった返す人並みを、中央広場にある――ニキティスの屋敷の一つ――そのバルコニーから見ていた。
「キートが言うには、あと10~20人程度の『カタフ』が残っているかもしれないと言っていましたから…。その程度の輩が出来ることとすれば、無差別に何かを起こすか、祭りに集まる人たちを人質として……何かを要求してくるのか……」
「ケリー兄さんならどちらをする?」
パイクがそう訊いてケリーエを見た。
「私なら……前者。無差別テロをとりますね。
人質を取るといっても、リスクが大きいし、大きい成果が望めない。
どうせ駄目なら、何か派手で、人々へ効果的に報復出来る方法が、それだと思いますから。それに彼ら特有の刹那的な考え方からみても、あまり建設的なことは考えないでしょう。よほど優秀な将がついていないかぎり……」
「だよな。俺も…そう考えていたんだが……シエルくんの能力なら、ある程度相手がわかれば、それを見ることが出来るって言ってたな……。
都合よくアーラのところに『カタフ』が現れてくれればなぁ……」
ふぅとため息をつきながら、クーゼはそう言った。




