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この兄をどうにかしてください!!  作者: 杮かきこ
第3章  『この祭りをどうにかしてください!!』
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第15幕  4

 周囲の心配をよそに、ジンは腹部の痛みを我慢しながら、キッチンに立っていた。

「オレがやるって……」

「これは俺の仕事だ」

 相変わらず強情な性格のジンに、アーラは傍で小さいため息をついた。

「……う」

 大丈夫と言いながら、レガーメの一発は相当きいたらしい。

 ジンは時々痛みに顔を顰めながら、下ごしらえを進めていく。

 アーラはそれを手伝いながら、ジンの腹に視線をやった。

「…なんだよ?」

「ん。見せてみろよ」

 怪訝な表情のジンに、

「オレはそこまでひどい性格じゃない。怪我を診てやるって言ってんの」

 アーラが余計に怪我をひどくさせようとしていると、ジンが考えている――と思ったアーラはそんなことを言った。

「……ほら」

 ジンがシャツを上げる。腹筋が美しく引き締まった腹部に――拳のあとがくっきりとついていた。

 アーラは屈んでいたが、笑いが堪えられずに膝を床について腹を抱えた。

「…てめぇ」

 ジンがそんなアーラを睨んでいる。

「ごめ…んんんっ」

 顔を上げれば、ジンが構わず唇を奪う。

「お前……こんなときにまで」

「うるさい…今日は夜、ミゲと一緒のつもりだろうが」

「はぁ?嫉妬してんの?」

「…して悪いか?!」

 壁にアーラを押し付け、ジンはその体制をとる。

「馬鹿。本当に……誰か入ってきたら……」

「見せてやればいいだろ?」

「ここじゃヤダっ」

「俺がしたい」

 アーラの文句など聞いていない。ジンは黙々とことを進めていく。

「いい加減に……」

「夜はミゲにお前をやる。だが、今は俺のものだ」

 そう言われて、アーラはこれ以上の反論も出来ず――夕食の準備は半刻(30分)ほどいつもより遅れた。



◆◆◆



夕食を済ませたあとの自由時間。ジンは早々に自分の部屋に篭ってしまった。

ミゲがアーラの部屋に訪れた。

ひどく緊張して――でも何かに興奮気味で。

「そんなに緊張することか?」

 アーラは落ち着いてる自分に驚きながら、ミゲを迎えていた。

「……夜一緒にいるのは…初めてだもん」

「そうか。そう言えば、そうだな」

「そうだよ」

 ぷぅと頬を膨らますミゲの可愛さに笑みを浮かべながら、アーラはじっと見つめていた。

「ねぇ、アーラ…あの話は本当なの?」

 今度は――真剣にアーラを心配する表情に変わった。

 急なミゲの変化に、アーラは一瞬ついていくことが出来なかった。

「あの話?」

「……3年後……」

 ここで初めてアーラの顔が――辛く沈んだものへと変わる。

「スフェラ師匠に聞いたのか?」

「…うん。アーラが眠っていたときに……」

 と、言うことは皆知っているということ。アーラが深いため息をついた。

「本当だ。旧『イディア』の街――現在の『タルタロス』の結界はあと3年以内に消滅するといわれてる。

 そうなる前に『タルタロス』を浄化出来るのは、オレと兄さんたちだけなんだ。

 たぶん…生きて戻ることは出来ない……だから…その間に…」

「嫌っ!!絶対に嫌っ!!」

 ミゲの薄紅色の双眸は、すぐに涙で一杯になる。

「…もう…泣かないんじゃなかったのか?!」

 アーラは優しく、ミゲの深紅の髪に触れた。

「そんなことさせない。私はずっとアーラと一緒にいる…兄さんだってそう。

 アーラは『タルタロス』のことがわかっていながら、私を選んでくれた。

 だから……今度は私が、アーラが生き続ける未来を選ぶことに協力するっ!!」

「……ミゲ…」

「アーラは生きる。ずっと生きる…だから、『タルタロス』浄化の犠牲にはさせない。

 だから…私たちがここにいるっ!!」

「ミゲ…どういうことだ?」

 アーラがミゲの両肩を掴んだ。

「師匠が言ってた。私たちだけじゃない。今、『アカデメイア』の他に、『キュノサルゲス』や『リュケイオン』という『綺晶魔導師メイスン養成学宮』でも、有力な『アトスポロス』たちが見つかってるって。

 きっと『タルタロス』浄化に向けて、『ガイア』も、アーラたちを失うことがないよう、強力な『アトスポロス』たちを誕生させてるのだろうって。

 アーラは死なない。私が…私たちが死なせない。

 パイク…アエラスさんも、フロガさんも、ネロさんも私たちが護る。絶対護るっ!!

 だから…私たちを信じてアーラは先を見て。自分の未来を信じて。

 私はその未来をアーラとずっと一緒にいるために生まれたの。

 私たちは…そのために出会って…こうしてここにいる。

 私たちだけじゃない。兄さんも、ヴノもクレイも、カメリアも、カリディアも、エペさんもプリムラさんも……皆、皆そう信じてる。皆の未来はずっと先に続いてるって」

 アーラは何も言えず、ただミゲを抱きしめた。

「……オレがミゲを好きになった理由ってこれだったのかもしれない…。

 生きる輝きに満ちたお前にオレは惹かれた。

 大丈夫…オレもお前と別れたくない…皆とどこまでも一緒にいたい…だから、先を見て、

悲観した未来を…もう考えない。生きて皆と一緒にいる。そう信じてやっていく」

「…うんっ!!」

 ミゲはぎゅっとアーラを強く抱きしめた。

 アーラもそれに応えて、腕の力を更に込めた。



◆◆◆



「おう、俺だ、ジンっ」

 コンコンコンとせわしないノックの音の直後、ヴノの声が聞こえた。

 ジンがドアを開けると、「よっ」とヴノが笑顔で立っていた。

「…入れよ」

「悪いな……」

 ヴノはジンの部屋に入った。

「アーラは…今はミゲと一緒か?」

「まぁな。それをわざわざ俺に言いに来たのか?」

「アホ。ちゃうわ。慰めにな……」

「出て行っていいぞ」

「嘘、嘘」

 テンポよく馬鹿な会話をしたあと、急にヴノの表情が真剣になった。

「…ミゲに任せたのか。アーラの…『タルタロス浄化』の話」

 ジンは一瞬沈黙したが、嘆息し、「ああ」と短い返事を返した。

「俺さ。前にミゲから、お前が『フォス』のことをずっと好きだったっていうことを聞いたんだ。お前……前にもどこかでアーラと会っていたんだろう?」

 これにはジンは何も答えない。

「……だんまりか。でも…そのことをアーラは覚えているのか?」

「覚えてる…でもそれが「俺」だとは気がついていない」

 ヴノはふぅと大きく息を吐き出した。

「それで察しろ」というジンの答えであることを、ヴノはわかっていた。

「俺はアーラを今まで通り、「男」として接していく。だけどさ。今回のようなことがこれからも起きないとは限らない…お前はどう考えてる?」

「そうはさせない。俺がそうさせない。アーラにもそう言ってある…お前も変な気を回すな、ヴノ」

 ここでジンがようやく微笑んだ。

「わかった…それを確認しに来たんだ……邪魔して悪かったな。これで落ち着いて祭りを楽しめるよ」

 ヴノは座っていた椅子から立ち上がり、ドアに向かった。

「ヴノ」

 ジンが呼び止めた。

「なんだよ?」

「…お前とクレイとは、長い付き合いになる。今みたく、気になっていることは腹に溜めずに、話していこう……俺にはヴノは大事な親友なんだ」

 どこか照れ気味に話すジンに、ヴノは大きく目を見張った。

 いつもならここで冗談の一発でもかましたいところだが、まったく言葉が浮かばなかった。

「よろしく頼む…」

 ジンが右手を差し出した。

「…おう」

 機械的だったが――ヴノは素直に握手に応じた。

「…らしくないことをするなよ……驚くだろう?」

「大事な親友に変わらないんだ。たまにはこういうのもらしくなくていいだろう?」

 まったく。こいつは本当に素直じゃない。ヴノは苦笑した。

「先は長いからな。また話を訊いてくれ…」

「…ああ」

 ジンのはにかんだ顔が――ヴノにはこそばゆくて――とても嬉しく切なく感じていた。




 



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