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この兄をどうにかしてください!!  作者: 杮かきこ
第3章  『この祭りをどうにかしてください!!』
53/69

第15幕  3

 祭り前日。

 アーラはミゲやジンたちと一緒にシャシブルの港にいた。

 定期の船が着き、念入りな検査のあと、アーラが待っていた者たちがやって来た。

「アーラっ!!」

「母さんっ!!」

 真っ先にアーラに駆け寄ったのは、母のリカーナだった。

 アーラと抱き合うと、そのあとリカーナはミゲを見つけて構わず抱きしめた。

「お久しぶりです…」

「ええ。あなたも元気そうで良かったわ、ミゲ…」

 そしてミゲと離れると、すぐアーラの手をとり、心配そうに話しかけた。

「聞いたわ。体は大丈夫なの?」

「うん、もう問題ない」

「そう……」

「アーラぁっ!!」

 大荷物を抱えて、1人の大柄な男性がアーラに向かって突進してきた。

「父さんっ!!」

 アーラが埋もれてしまうほど、その男性――アーラの父、マシュドは力一杯愛しい息子を抱きしめた。

「3ヶ月ぶりだなぁぁっ!!心配したぞっ!!」

「本当にごめんなさい」

 あぁ。アーラの父親だ。

 周囲の期待を裏切らないようなアーラの父親に、周りの人間はそう納得していた。

 そしてマシュドの視線が――ジンへと向かった。

「…久しぶりだね。ジン」

「はい。お久しぶりです…スィコ様」

「ここではその名は…マシュドで頼むよ」

「はい」

 ジンは丁寧に頭を下げたが――。次の瞬間、マシュドはジンの頭をぐりぐりと撫で始めた。

「本当に大きくなりやがってぇっ!!」

「痛いっ、痛いですっ!!」

 ほとんど戯れあいだが、どこかマシュドの手つきには、嫉妬のような気が込められていたのは――アーラの勘違いではないだろう。


◆◆◆



 マシュド、リカーナの他に、クーゼとサリッサ夫婦、アシエにペル。ケリーエにパイクの全員が初めてピサ島に揃った。

 そして、そのアーラの家族だけではなく、ジンとミゲの母、レガーメまで一緒に降りてきた。

「向こうの港でばったりお会いしてね。船の中ではお世話になったのよ」

 しかし――このタイミングにこの面子とは。

 ミゲとジンと挨拶を済ませたあと、レガーメは緊張気味のアーラに歩み寄った。

「あなたね。ミゲの意中の人で、ジンの大親友っていう子は」

「アーラと言います……」

 レガーメは一頻りアーラを眺めたあと。

「リカーナさん、アーラくんをうちの婿養子にはダメですか?」

 いきなり振り返り、リカーナに話しかける。

「それは許可出来ませんわ。でも、レガーメさんの家の手伝いぐらいは覚えさせたいですわね」

 もうほとんど親同士が認めた許嫁になってるアーラとミゲ――ジンであった。

 


 そして、じーっとジンを見つめる視線がある――パイクである。

 殺気は込められていない――たぶん互いの親が居る前なので、抑えているのだろう。

 だが明らかに、いつもと違う――「貴様、アーラに何かしたんじゃあるまいな?」という非友好的な視線であった。

 ジンが堪らず、パイクに振り返った。

「あの…」

 パイクがずいっと、ジンに向けて1歩を踏み出したとき。

 どすっという鈍い音と、パチーンという乾いた音が、ほぼ同時に響いた。

「このあとどうなされますか?」

 体術の達人クラスである、母レガーメから腹に一発くらったジンが、腹を抱えて蹲っている前で、レガーメがにこやかにアーラの家族に訪ねていた。

「そうですね。どうぞ、うちの屋敷にいらしてください」

 と、マシュドの誘いに、

「まぁ、ありがとうございますぅ」とレガーメが嬉しそうにしている――マシュドの背後で、父のでかい手のひらで、顔に一発くらっていたパイクが両手で顔を抑えて――ジン同様に蹲っていた。

 そしてアーラは――頭を抱えて――ミゲに心配されていた。



「…俺はカエナがこのあとの船で来る予定だからここに残るわ」

 と、ヴノがアーラたちに言っていたとき――。

「お兄ちゃんっ!!」

 ビターンとヴノは背中を思いっきり叩かれ――今だダメージの残るジンとパイクと同じように――痛みを堪え、背中を辛うじて抑えながら、苦しそうに後ろを向いた。

「……カエナ…少しは手加減しろ…お前」

 人懐っこい――ヴノの面影がある少女、カエナが笑顔で立っていた。

「久しぶりの妹に、その挨拶ないんじゃない?第一、お兄ちゃんが、しばらく帰れないなんて、薄情な手紙をよこすからいけないんでしょ?それにあたしに気がつかないなんて、かなりひどくない?!あたし、ずっとお兄ちゃんが気がつくの待ってたのよ?そんなの当然の報いよっ」

 なんとか呻いていたヴノに、カエナは休むことなく言葉の羅列で、ヴノのダメージを蓄積させていく。

 ヴノがやけに恐れる片鱗が――なんとなく納得出来る、カエナだった。



◆◆◆



 一気に疲れが増した家族との再会のあと、マシュドはレガーメだけでなく、カエナも自分の屋敷に招待し、祭りの間、屋敷に寝泊りすることを提案した。しっかり者で現金な性格――とヴノが言うカエナは宿泊代が浮くからと素直に喜んだ。

 だがそれは、『カタフ』に狙われ続けるアーラたちに、家族まで危害が及ぶ危険性を減らすためでもあった。

 協会の職員たちによって、『カタフ狩り』も進んでいる。

 アーラたちが狙われる回数も、2週間ほど前からはぐっと減っていた。

 が、ここで何があるかわかりはしない。

 アーラたちも、一度マシュドの屋敷に同行し、また明日迎えに来ることを確認して、一度――戻ることにした。

 というより――ちょっとダメージもあることだし。一度、休みたかったのである。



 ミゲとエペ――カメリアとカリディア4人は、アーラの家に泊まり、明日は朝からアーラたちと行動を共にすることにしている。

 ミゲはアーラとずっといられることが嬉しい様子だったが、レガーメの一発をくらったジンの心配もしていた。

「お母さんはそんなにすごいのか?」

「うん。兄さんと私に剣術を教えたのもお母さんだから。さっきは兄さん、そうとう痛かったと思う」

「いや…もう大丈夫だ。が、あそこでいきなりくるとは思わなかった……」

 受身がとれなかったと、ジンはぼやいていた。

「というか、パイクもそうとう痛かったと思うけど……」

 エペの言葉に、アーラも大きく頷いた。

「父さんの平手の破壊力は半端ないですから……それを顔にくらってましたからね」

「顔…真っ赤だったものね」

 鍛え方が違うと痛がるジンを横目に、明らかに強がっていたが――パイクはそうとう痛みを我慢していたに違いない。

 腹と顔。どちらが痛いのだろう?顔のような気がするが、誰もがこの勝負は引き分けのような気がしていた。



◆◆◆



「少しは薬になっただろう?」

 クーゼが顔を濡らしたタイルで冷やしているパイクの――アエラスを見ながら苦笑してフロガが言った。

「……だからと言って、顔にいきなりはないだろう……」

 スィコの一発は重いし痛い。

 息子たちはそれを嫌というほど知っているが、顔にはそうそうやられない。

「なんかフォス。綺麗になってましたね」

 ケリーエ――ネロが呟いた。

 アエラスが悔しそうに唇を噛む。

「諦めろ。ジンを選んだのはフォスだ」

「兄貴は……フロガ兄さんは知っていたのか?」

 パイクのときのくせが出たのか、途中で言い直したアエラスにますます苦笑いが隠せず「兄貴でいいよ」

 と言ったあとに、「知ってた」と続けた。

「フォスを頼んだのも俺だからな。俺もジンのことは言えん」

「…そうねぇ。まさか出会って3ヶ月後に、この人と結婚することになるなんて、私も思わなかったし」

 紅茶を入れながら、サリッサ――ミカが言った。

「どれだけ手が早いんだ」

 アエラスは不貞腐れながら、言葉を吐き捨てていた。

「仕方ないだろ?好きだと思ったんだから。この人が俺の生涯の相手だって直感的に思ったからな」

「まぁ、お上手」

 ミカの口調は、どこかフロガをおちょくっている。

「本当のことだ」

 と、フロガはあまり堪えた様子はない。

「運命の相手ですか…アエラスはエルピスのことをどう思っているんです?」

「……アーラ…フォスが駄目ならエルピスか?そんな都合よく出来ないよ」

「エルピスは、小さい頃からアエラスに好意を持っていたようですよ」

「……知ってるけど……」

 ネロにそう言われても、アエラスの表情は沈んだままだ。

 ここでフロガが小さいため息をついた。

「最近はそうでもないらしいぞ」

「えっ!?」

 ネロとアエラスがフロガを見つめた。

「エルピス…エペというんだろうな。『アグノス』の家にまったく帰らないらしい。

 それだけじゃない。どうも、アーラたちととことん行動を共にする覚悟のようだ。

 それと…クレイに興味があるらしい……とキートが言っていた」

 アエラスは嘆息し、「そうか」と呟いただけだった。

「私たちの知らないところで、フォスやエルピスにも大きな変化は来ていたんですね」

「……そうだな」

 ネロの言葉を受けて――フロガは窓の外に広がる空を見上げた。


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