第12幕 『スィコ』
それからさらに2日後。
ナルの姿は、王都イオ。ニキティス本家の居城『スィメア城』にあった。
小さなテーブルを挟んで、旧知の仲である本家当主スィコと対峙していた。
スィコは息子たちが、なかなかピサ島から戻ってこないことが不満だった。
早く愛しい娘の様子を聞きたくて仕方なかったのだ。
フォスの心配ではちきれそうな父親の姿に、話をしているナルも終始苦笑が崩せなかった。
「今日はフォスの話をしに来たわけじゃないんですがね……」
「わかってる。それでも俺は全然フォスに会いに行けないんだぞ」
駄々っ子のように拗ねるスィコに、ナルは何度目かのため息をついた。
◆◆◆
「で…敵の正体は掴めたのか?」
「えぇ。オルディネの記憶からなんとか。敵の将の名は『デウス・エクス・マキナ』」
「…『機械仕掛けの神』か…ふざけた名前を……」
ナルから報告を受けたスィコが、不機嫌そうに吐き捨てた。
「まぁ、あなたも予想している通りの敵でした。今更とは思いましたがね……」
ナルの呟きのような言葉に、スィコの答えはない。
が、その険しい表情を見るだけで、ナルには理解できていた。
「それとピサ島に、『カタフ』がそうとう入り込んでいますね。
恐らくデウスという名のもとに集まった『カタフ』の半数程がピサ島にいるようです。
オルディネの記憶から当たれる『カタフ』は潰しますが…『タルタロス浄化』に関わると思われる『アトスポロス』は、無条件で命を狙われるでしょう。
ピサ島の『カコ』と、イディアの『タルタロス』は敵の策の…要のようですから。
あと、ロイド王国に…奴らは何か仕掛けてますね。
『大きい花火を打ち上げる』とオルディネの記憶は語ってきました。
これをどうとるか…我等次第でしょうが」
スィコは嘆息し、ナルの顔を見た。
胡散臭い笑顔以外、感情を表に出さない事務的な顔などを見せることが多く、表情に乏しいナルだが、スィコは長年の付き合いで、その考えていることは読み取れるようになっていた。
「ロイドの件は、隣国のテバイで何か遣らかしていると考えるべきかもしれんな。
どちらにせよ、奴らの関与は明らかになったんだ。
ナルはピサ島の守護に全力してくれ。それと女王がナギと進めてる『騎士団』のことは、結成を急いだ方がいいだろう。
ピサ島の治安の意識が上がれば、奴らもそれなりに活動がしづらくなるかもしれんしな。
それも合わせて連絡のやり取りを頼む」
「…御意」
「その言い方はやめろと言ってるだろう?俺とお前の間柄じゃないか」
「じゃぁ、わかりました。かな?」
「それでいい」
再び拗ねるスィコに、ナルはどうしても苦笑を崩せずにいた。
「でも…フォスも茨の道を選ぶ子だね……」
ふいに、ナルの口調が砕けたものとなる。
スィコの顔がどこか穏やかなものへと変化した。
「それでも。その茨の道に、あれの『半身』がいた。そしてようやく会えたのだからな」
「…でもあの子はガイアの申し子だ。その『半身』もね。ガイアが護ってくれるよ。
もちろん私も護るさ。お前との約束だ」
ここでスィコが一息ついた。
「…あいつ…来るかな?」
ぽつりと漏れたスィコの呟きに、ナルは目を瞬いたが、すぐ落ち着きを取り戻した。
「来るだろうな…会いに」
「…そうか。だろうな……」
それ以上スィコはそのことには触れなかった。
ナルも触れることを避けた。
時間は流れてる。留まることなく、ただひたすら、全ての思いを引き連れて――。
第2章 了。
第3章『この祭りをどうにかしてください!!』につづく。




