↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この兄をどうにかしてください!!  作者: 杮かきこ
第1章  『この兄をどうにかしてください!!』
20/69

第5幕  『クレイ』

 あれから3日間が過ぎていた。

 クレイは空を眺めた。雲がゆっくりと流れる。

 


 あの戦いの後、クレイは事の顛末をナルから聞かされた。

 リンチェ王妃とエスカ王子は拘束され、現在はエリュシオンのとある場所に幽閉されているという。

 


2人の現在の様子は、エスカ王子は全てを自白したが、リンチェ王妃は今だ罪を認めておらず、狂ったように、毎日叫び続けているのだそうだ。

「無礼者っ!!ここを出せ。私はロイド王国王妃なるぞっ!!」と。



ロイド王国王ソステニトーレは、このエリュシオンで療養をしていた。

しかしこの度の不祥事により、王家による国の建て直しを諦め、来年以降、エリュシオン王国に併合することで話を進めているという。

その意向を伝えに、エリュシオンの使者がロイド王国に着いているはずだ。

アトゥー王子はそんな話を聞いて、これからどう対応していくのだろう。

自分で全てをなんとか治めるつもりなのだろうか。

それとも全てを投げ出して、どこかへ逃げてしまうつもりなのだろうか。

この自分のように。それはクレイには咎められないことだ。

いずれにしても、その際には王族全てその籍を剥奪し、エリュシオンのいち貴族として生活していくことだろう。



ソステニトーレはクレイとの謁見は拒絶したのだそうだ。

「もう関係はない。会う事もないだろう」と語って。

 だが、クレイは会いに行こうと決めた。父親に会いに行くのに、関係ないも何も、それこそ関係はない。ただし、長居することはできないだろうが。

それでも、会いに行こうと決めた。



 時間は流れてる。

 留まることなく、先へ先へとただひたすら。



「クレイっ」

 急に現実に呼び戻され、クレイは驚いて後ろを振り向いた。

 アーラ、ヴノ、ジンが心配そうにクレイを見ている。

 クラッペの案内で、今後の受講する講義を決めている最中だった。

 実際の講義開始は1週間後。

 それまでには、何を学び、将来の表向きでも道を決めたいと思っている。

 『アトスポロス』であることに変わりはないけれど。



「ごめん、今行く」

 クレイは窓際から離れ、アーラたちに合流した。



◆◆◆



「『生活水晶力学家事全般』?なんだそれ?」

 ミゲと新たにカメリアが選択した講義名のひとつである。



『アカデメイア』からの帰り。

ヴノとクレイの部屋がある寮の前。

7人で立ち話をしていたときの会話で、ミゲからそんな話をした。

「用は『神杯ネクトル』を使用した『魔導術』を、家事に役立てましょうって講義。

 料理の講習もあるんだよ。クラッペさんが教えてくれた」

 嬉しそうに話すミゲに、ジンがアーラに耳打ちする。

「別名、『花嫁花婿修業講義』と言うんだそうだ……」

 ずぅ~んと両肩に、漬物石でも数個置かれたような重みをアーラは感じた。

「……ミゲ。ずっと訊きたかったんだけどさ…オレのどこをそんなに惚れてくれたの?」

 初日から余りに慌しく、アーラは根本的な理由をようやくミゲに尋ねることができた。

「うん、全部っ」

 満面の笑顔で答えるミゲ。両肩の漬物石の重さが倍増した。

「……どこって、『顔』だと言い切っていたよな。船の中で」

 ジンの突っ込み。しかし、ミゲの笑みは崩れない。

「あのときはね。でも今は、アーラは心もすっごく素敵で優しいことがわかったから、アーラの全~部が好きっ」

「じゃぁ…カメリアは?」

 アーラはミゲとカメリアが2人ともいるときは、極力公平になるように心がける。

 そうしないと、あとでとっても面倒なことになるからだ。

「……初めて私のことをわかってくれた方なので……」

 頬を真っ赤に染めて、もじもじと顔を俯けたまま、上げることも適わない。

 ミゲとカメリア。あまりに対照的な美少女たちである。

「わかってくれたって……気のせいじゃないの?」

「そんなことありませんっ!!でも気のせいでも、私は、今はアーラさんの全部が大好きですっ!!」

「それは私の台詞でしょっ!!」

「ミゲさんは『好き』。私は『大好き』ですからっ」

「はぁー?私はアーラのことを『大・大・大・大・大好き』なのっ!!」

「そうですか。私はアーラさんを『愛して』ますからっ」

「ムカツク――っ!!」

 


 対照的な2人だが、言い争いのレベルは同じである。

 アーラを除いた3人の少年たちと、1人の少女は互いの顔を見合わせ、最後にアーラの顔を見た。

「アーラ。こんなに愛されて、彼氏冥利に尽きるよなぁ」

「……だろうな」

 ヴノに指摘されても、アーラは半眼のまま、いまいち自分のこととして自覚できないというよりは『したくない』という感じで、ミゲとカメリアの言い争いを眺めていた。

「でも…このままでも駄目だよな」

 よいしょとばかり一歩を踏み出し、勢いをつけて思いっきり2人の美少女を抱きしめた。

「あんまりそんなことしてると…オレが困るだろう?どっちを選ぶかなんてできない程、2人が好きになって来てるのに……」

 自分の口元に2人を引き寄せ、勢い任せに甘い声で囁いた。

 ミゲとカメリアの体から力が抜け、アーラに寄りかかり、2人はその甘い言葉の余韻に浸っていた。

 しかし2人を抱きしめつつ、ヴノたちを見るアーラの顔はまぬけなほど情けない。

 アーラ自身、自分の吐いている言葉に対して、自分自身への嫌悪感と2人への罪悪感に苛まれていた。

「……女難の相だな……」

 ジンは、少々複雑そうな表情で、そう呟いた。

 


そんなアーラたちを見つめるクレイは、同情しながらも、どこか楽しそうだった。



◆◆◆



「あー、疲れた」

 家に帰るなり、アーラは伸びをした。

「まぁ…毎日あれじゃな」

 ジンもさすがに呆れた口調だったが、アーラに同情していた。

「なぁ、ジン。ミゲの兄貴として、オレが明らかに二股かけてるって…どうよ?」

「かなり特殊な二股だな。俺も見るのは初めてだ。ミゲもわかってやってるし、カメリアも受けてたってるし…。なるようになれだろ?お前自身は『現状維持』で落ち着いたんだんじゃなかったか?」

「いつまでもこのままじゃいけないとは思うけど…。今は自分に余裕がないんだよなぁ」

「…言っても諦める2人じゃないだろ。ミゲはそうだが、カメリアも根性ありそうだ。

 いっそのこと、2人とも愛人にすれば?」

「それが兄貴の台詞かっ?!」

「俺もそれ以上言いようがない」

「……そうだな」

 しばしの沈黙後、アーラとジンは、目の前に広がる光景に今は集中することにした。

「講義で必要なものこれぐらいか?」

「うん。でもさ、ジン。受ける講義がほとんどオレと一緒っていうのも…」

「とりあえず『綺晶魔導騎士』を目指してるんだ。一緒にもなるだろう?」

 アーラとジンはテーブルの上の本や道具を整理していく。

 1階の台所のテーブルの上には、2人の希望した講義に必要な本や道具が並んでいる。

 同じ『綺晶魔導騎士』の道を選んだため、とりあえず、この3ヶ月の受講する講義はほとんど一緒だ。

 


 あれだけ騒がしかった家の中は、ここ2日間は嘘のように静かになっていた。

 初めからいきなりハード過ぎたんだ。アーラはそう考えている。

 心配だったクレイは、なんとか落ち着いた様子で、ここ3日間を過ごしている。

 『ブルゾス』退治が本格化するのはあさって。明日まではなんとかゆっくり過ごせるだろう。

 心配していたジンとの関係も、2日目の朝のような迫ってくる様子ないので、こちらも今のところ、安心して良さそうだ。



「なぁ…ジン」

「んーなんだ?」

 ジンは手際よく、自分とアーラの分の道具や本を分け、整理を続けていた。

「お前の好きな人って誰なんだよ?」

 アーラはなんとなく気になっていたことをジンに尋ねてみた。

 訊いたからどうだというわけではない。ただ知りたいだけだ。友達として。

そんなところだろう。

「気になるか?」

 にやりとジンが笑った。

「そりゃな…親友だろ、オレたち」

「そうだな。親友だな」

「いやなら別にいいけどさ」

 これはアーラの作戦。いつもはやり込められてしまうが、たまにはこちらが優位に立ってみたい。

「…そんなに拗ねるなよ」

 久々にきたっ。ジンの声が耳元で囁かれる。

 アーラの腰辺りで組まれるジンの両手。いつになく密接な関係ではないか?

「それはな…お・ま・え・だ」

「…うっわぁーっ!!」

 絶叫に近い叫びで、アーラはジンから脱兎のごとく逃げ出した。

 ジンはアーラの行動で笑いが止まらず、すでにその膝は崩れ、腹を抱えて苦しそうにしていた。

 ぜぇ。ぜぇとアーラは肩で呼吸を整える。

「おま、おま…お前なぁ、ミゲとはどう…どうすんだおっ!!」

「どう、どうすんだ『お』って…どうもしないお…」

 言い間違いの上げ足を取りやがってぇぇっ!!

 ジンは目にいっぱいの涙を溜めて、アーラを見つめている。おかしそうに。

 人をおもちゃにしやがって。アーラからはめらめらと、復讐のオーラが立ち上った。

 そんなアーラを、歩み寄ったジンが大事そうに抱きしめた。

「な…なんだ…よっ」

「よを強調してくていいよ。とにかく落ち着け。そのうち教えるよ。だから焦るな」

「焦ってなんか…」

 更にジンの抱きしめる力が込められる。

「それでもお前は親友として俺にとって一番大切なのは確かだ。ミゲのためにも、お前には怪我なく無事に過ごしてもらわないとな」

 アーラはジンの背中に手を回してみた。なんとなく、そうしたかったから。

「お前もオレにはとても大事なんだ。怪我なく無事に過ごすのはお互い様だろ」

「…んっ。そうする」

 アーラが離れようとしたが、ジンはぎゅっと抱きしめたまま、アーラを放そうとしない。

「な…なんだよ」

「……ひとつお願いがあるんだが…」

「なんだよ、言えよ」

「夜、お前を抱いて寝ていいか?」

「はぁーっ!?」

 アーラはもがくが、それでも、ジンはアーラを放そうとしない。

「…いつも抱いて寝ていた…その『朱雀』が…」

「スザク?なんだそれ。誰だそれっ!?」

「壊れてしまってから…夜がゆっくり眠れなんだ。お前、ヤケに抱き心地がいいからな」

「なんだ、その理由はっ!!」

「親友だろ?」

「親友だっ!!」

「頼む」

「嫌だっ!!」

「頼むっ」

「い・や・だっ!!」

「た・の・むっ!!ゆっくり寝たいんだっ!!!」

 しばしの沈黙。そしてアーラの――消え入るような声が聞こえてきた。

「…った」

「えっ…!?」

「…わかった」

「いいのか?」

「いいっていんってんだってっ!!」

「やっぱ、お前は俺の大事な親友だなっ!!」

 結局はこのパターンなのかっ!?

 今もまた、胸の激しい動悸が始まっている。

 アーラの慌しく始まった『アカデメイア』での生活は、『安息』という日々はまだ当分ないのかもしれない。



 


それでも、アーラは心の中で強く、強く呟いた。

(でも―――負けないっ)

 ただし今は、声を大にして叫びたい。

「誰かこの親友ジンを、どうにかしてくれ」と―――――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。