第3幕 5
白昼堂々と、男たちは持っていた剣を抜き、ヴノやクラッペたちに襲い掛かる。
クラッペの武器は短剣が2本。長さの違う代物で、戦闘形態は接近戦。
男たちの剣を物ともせず、2本の短剣の他、足技で優雅に男たちを圧倒していく。
さすがは『アトスポロスの盾』と言い切れるだけの実力を持っていた。
「このままでいいと思うか?」
「思わない」
ヴノの問いに答えたのはミゲだった。
声が聞こえたときすでにミゲは、男たちと戦闘を繰り広げているクラッペの加勢に向かっていた。
「…クレイ」
「ああ」
ヴノとクレイは短いやり取りで互いの意思を確認し合う。
カメリアとカリディアへと視線が向かう。
「私たちは街の人の護衛と避難を」
「あぁ。でもまだ仲間がいるかもしれないから気をつけろよっ」
「はいっ」
カメリアとカリディアが、戦いを喧嘩程度に見守る取り巻きへと向かい、ヴノとクレイがクラッペとミゲの助っ人に入った。
「必要ないかもしれないけど、俺たちも一応男なんでっ!!」
「紳士じゃない。私の好みだなっ」
ヴノの台詞に、クラッペから冗談が飛ぶ。
あれだけの格闘をしているのに、汗ひとつもかいていない。よほどの実力者らしいことが窺える。
ヴノもクレイも…そしてミゲも武器となるものは持っていない。
が、3人の形は違いこそすれ、男たちの剣を難なくかわし、退け、やり込めるだけの護身術を獲得していた。
が、男の1人がクレイの姿を見届けるや、突然けたたましい咆哮を上げた。
人の叫ぶ声ではない。獣の咆哮そのものである。
「…な、なんだよっ!?」
ヴノが動揺する。男たちの気配が突如変化したことを感じ取ったからであった。
「『魔獣化』?ここは『アカデメイア』の中でしょう?」
「…どこかに『悪霊使い』がいるみたいね。この男たちに憑依させて、どこかで操っているんでしょう」
ミゲも戸惑っていたが、クラッペが冷静に状況を判断する。
「クレイくん。皆から離れないでね。今、君を見て変化したみたいだからっ」
クラッペから指示をされ、クレイが無言でクラッペを見た。
クラッペは小さく頷く。
(この人は僕の正体を知っているっ!!)
大きく目を見開いたが、ここで慌てても仕方がないと、クレイはクラッペに従った。
5人の男が一斉に、動きを止め、その姿が変化を始める。
ある者は一回りも大きくなり、ある者は顔がまるで獣のように突き出てくる。
「…ここで大人しく変身を待っている必要はないわよね」
ミゲが構えに入る。
リン。リン、リン。まるで鈴の音のように、耳に優しい音が周囲に響いた。
ミゲから蛍火のような淡い紅色の小さい光が、無数に浮かびあがってくる。
それが幻想的で、見ている者たちは美少女を包むその光に魅入られてしまう。
ここで何を思ったか、カメリアが両手を前に――男たちに向かって突き出した。
「…ぐぁぁああああっ!!」
男たちから、先ほどの咆哮からは明らかに違う、まるで苦しんでいるようなうめき声が上がった。
そしてその体の其処此処から、花の芽が発芽を始めている。
わずかの間に成長し、色とりどりの花を咲かせ始めた。
「…すげ」
ミゲの光も幻想的だが、カメリアの能力も、おぞましい男たちの姿からは想像できない美しい変化に、見物を決め込んでいた人々からも思わず拍手があがった。
「カメリアばっかりにいいところ持っていかせられないしっ」
ミゲが右手を前にかざすと、紅の輝きは男たちの上へと降り注いだ。
が、ここで花が一斉に枯れ始める。
そしてその枯れ果てた花に火の粉が移り、大きく燃え上がった。
「――ぎゃぁっ……」
最後は余りに呆気なく、燃え上がった炎は一気に男たちの体を燃えつくした。
断末魔も聞き取れずに男たちの体は炭化し、ぼろぼろに朽ち果て、燃え尽き消滅した。
「…見事な連携ね。ミゲの集中の間にカメリアが花で男たちの『霊力』を奪い、花を枯らせ、ミゲが炎で一気に燃えつくす。街の人たちへの被害もないし、これじゃちょっとした大道芸にも見えるもの。昨日、今日知り合った仲じゃここまで息が合わないでしょうに」
それは賞賛の言葉だったが、昨日知り合ったばかりの2人で、しかもほとんどアーラを取り合い、いがみ合いしかやっていない。
ヴノもクレイも言葉なく、クラッペの解説を聞くしかなかった。
「…あの男の人たちは……」
「残念だけど、あそこまで取り込まれてしまうと、例え上位の『アトスポロス』でも助けることは不可能。ミゲとカメリアの判断は正しいわ」
「そうですね…」
クラッペの答えは、クレイにはよくわかっていた。だが訊かずにはいられなかった。
そして自分の抱く罪悪感を、もっと悪化させる結果となった。
「…でも…俺たちを狙ったみたいだな…なんでだ?」
ヴノは男たちの行動へと疑問を移した。
「俺たち…じゃないよ、ヴノ」
「クレイ?」
「やつらは僕を狙ったんだ」
真剣な面持ちでクレイが呟いた。




