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裏庭ダンジョン~ブラック企業で燃え尽きて世捨て人になったおっさんは先行者利益で無双する~  作者: 笑パイ
第1章 獣人生誕

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第35話 下乳しか勝たん

「出てくるのを待っていたぞ」

 ミノキンはそう言ってにやりと笑う。


「アヤさん、逃げてくれ!」

 俺は叫んだ。彼女はMPが尽き、HPも300弱しか残っていない。もう逆転の目が無いのは明らかだ。ボス部屋の外に出れば、光の球で完全回復できる。俺を上に乗せていなければ、廊下の穴もジャンプして越えられるだろう。アヤさんは悲しそうな瞳でこちらを見ている。


「アヤさん、頼むから逃げてくれ!」

 そう叫ぶと、アヤさんは名残惜しそうに「……ニャー」と鳴いてから、出口へと走っていった。それでいい。君は猫なんだ。忠義なんてものは犬に任せておけばいい。猫は勝手気ままに生きるべきなんだ。


「卑怯な手を使ったとは言え、たかがレベル29の身でありながら余に本気を出させたのはなかなか見事であった。辞世の句があるのならば聞いてやろう」

「そんなんねぇよ……。そうだな、代わりにアンタの名前を教えてくれないか?」

「名前は……ない」

 すこし悔しそうな表情を浮かべてミノキンは言った。


「吾輩はミノタウロスである。名前はまだない……か。ハハッ。王なのに名前がないとは滑稽だな!」

「貴様! 許さん!」


 ミノキンは激怒した。顔を真赤にして大剣を振り上げる。

往生おうじょうせい!」


『ミノタウロス王の大剣』が俺の腹に突き刺さり、俺は死んだ……筈だった。勝利を確信したミノキンが大剣を俺の腹から引き抜いた瞬間に『身代わりのペンダント』が砕け散る。

 ああ、そういえばそんなの装備してたな。だが俺のHPは残り1だ。状況は何も変わっていない。


「!? 貴様、なぜまだ生きている?」

 ミノキンは大げさに驚いて後ずさった。


「かくなる上は、余の究極奥義で肉片も残らぬほどに木っ端微塵にしてくれよう!」

 ミノキンは大剣に光属性の魔法を注ぎ込んで練り上げていく。

 俺はラクスティーケ像の下乳を眺めながら、ミノキンの言葉を聞き流していた。

 人生最後の光景としては悪くない。


「どうせならば、本物のほうが良かったけどな……」

 そう思った瞬間、身体に電流が走るような衝撃を感じた。そうだ、起死回生の手はまだ残っているじゃないか!


「動け、動いてくれ!」

 俺は必死に手を動かそうともがいた。だが、ほぼ死亡状態の俺には手を動かす力すら残っていない。


 HP1の状態ならば普通に動き回れるが、HP0になった途端に死ぬ。

 そういうゲームは多いが、少なくともこのダンジョンの中ではそうはならない。


 感情を爆発させて「うぉおお!」とか叫ぶと謎パワーで限界突破して強くなる、なんてパターンの漫画やアニメも多いがどうやら俺には無理だ。

 せっかく起死回生の一手を思いついたのにそれを実行することができずに死んでいくのか……。


「くらえ、究極奥義――」

 ミノキンがそう口を開いた時に、視界の隅にもふもふの獣が映った。

 その刹那、HPが回復する。


極光斬魔剣きょっこうざんまけん!」

 ミノキンがスキルのモーションに入るのと同時に俺はマジック・ポーチから取り出したハズレ券をすべて床にぶちまける。


「ハズレは当たり、アタリも当たり。幸運の理――」

 虚空から目の前に出現したラクスティーケにミノキンの究極奥義が当たる……かのように見えたその瞬間、自分の目では捉えられないなにかが起こった。ひとつ分かるのはミノキンの身体が大きく裂けているということだ。


「おやおや、パッシブスキルの【倍返し】が発動してしまったではないか。天使を攻撃すると危ないよ?」

「ラ、ラクスティーケ様!? 神像を大剣で打った天罰なの……か? ことわりの神々は余を見放したも――」


 ミノキンがセンテンスを完成することなく床に崩れ落ちると、すかさずアヤさんが飛び乗って【絶牙】で止めを刺した。


 正直言って【倍返し】は期待以上だったが、彼女を呼べば何かが起こるだろうと思っていた。

 幸運の天使を呼んだ人間がそのまま死ぬというのはちょっと考えづらい。

 

 それにしても危なかった……。こんな危険な橋は二度と渡りたくない。そう思いながらマックス・ポーションを飲み干して、両足をもとに戻す。


「天使を道具に使うとはなかなか良い度胸だな」

「い、いや、今際の際にご尊乳――じゃなかったご尊顔を拝したかったのです」

 俺はしどろもどろになりながら答えた。


「別に禁止はしておらん。魔王戦などでやられると少し苛つくが、この程度の雑魚ならばさして問題はない」


 超強敵だったんだけど、雑魚か……やはり次元が違う存在のようだ。

 ラクスティーケは「こほん……」と咳払いを払ってから、言いかけだったセリフを言い直す。


「ハズレは当たり、アタリも当たり。幸運の理天使ラクスティーケじゃ。良くぞハズレ券を10枚揃えた。褒めてつかわす」

「ははーっ、ありがたきお言葉!」


 俺は彼女の足元に土下座してから、ちらりと上を見やってラクスティーケの下乳を確認した。

 やはり本物のほうがいいな。ぐふふ。

面白いと思っていただけましたら、ご評価いただけますと幸いですm(_ _)m

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