1話「何が声がしますが、」
家の中でドタバタと走っているような音がする。こっそり少し扉を開けると、ポニーテールの姉と、エルフ耳の女の子が追いかけっこをしていた。
「待てぇぇ」
「アハハ、きゃー!!……あ、パパ〜」
小さなエルフ耳の女の子が耳をピクッと動かして、扉に隠れていた男に気づき、駆け寄ってくる。
男は扉を開け、しゃがんで手を広げ、女の子を抱きしめる。
「パパおかえり〜!」
女の子はそういうと男に抱きついた。
「ただいま!ハルナ!」
男はハルナを抱えて、リビングに進んだ。
この話の主人公を言っておう。メタ的に言うとこの原作者はこういう最初は苦手らしいから俺目線で自己紹介しよう。俺の名前は笹原 裕也つい最近まで30代アラサー1歩手前だったサラリーマンである。
そして、腕の中でニコニコ笑顔のこの子の名前はハルナ。耳が少し尖っているように見える?そらそうだ、この子は異世界から来たエルフの女の子だからだ。(自己紹介終了)
少し原作者のせいでメタ的な事になったが、裕也はハルナを連れてリビングに入った。その時、リビングのカーテンが少しだけ揺れた。その光景を見た裕也はハルナと出会った時をふと思い出す。
ーー
アラームが鳴り響く部屋、少し開いていたカーテンの隙間から日差しが差し込む。その光の先に、1人の男が眠っていた。鳴り響いていたアラームは諦めたように鳴り止み、裕也は隙間の光から逃げるように布団の中に逃げ込んだ。しかし、布団の中に潜ると、少し息苦しい。それに、一度目が覚めてしまってはもう一度目を閉じても、眠ることはできなかった。男は諦めたように布団から顔を出し、窓の方を見るとカーテンの隙間からの光で余計に目が覚める。
「今…何時だ……?」
裕也は諦めて時間を確認しようとスマホに手を伸ばした。しかし、スマホの時間を見た瞬間ベットから飛び上がった。
「やばい!遅刻だ!」
裕也は慌ててスーツに袖を通し、時計を付け、仕事用のリュックを掴んでアパートを飛び出した。走りながらネクタイを締めつつ、全速力だ会社に急いだ。
ーー
「はぁ…」
結局遅刻してしまった…。あのあと、最寄りの駅にギリギリ着いたまではよかった。いつもなら通勤ラッシュより少し早い時間で余裕を持って出るのだが、しかし、朝寝坊したおかげで、通勤ラッシュの時間帯にぶち当たり、見事に遅刻してしまった。そのせいで、課長から鬼のような説教をされてしまった。もう嫌になるわ!
そんなことを思い出しながら、また深いため息を吐いた。
「おいおい、朝からめちゃくちゃデカいため息だな?」
「うっせ」
裕也ため息を見てこちらを向いてニヤニヤしながら、隣に座る男が話しかけてきた。
彼は俺と同期の小林直人、俺とは違いイケメンで仕事は普通にやればできる、猫を被っているが本当は優しい男である。また幼馴染であり会社の後輩と結婚しており、娘がいる。
「何があったんだよ?いつもなら俺がくる前にいるのに?」
正直言おう、少しウザい。しかし、確かにそうだ。いつもなら直人より俺が出社は早い。少し心配してくれてんのか?
「寝坊だよ、寝坊」
ニヤニヤしながらこちらを見る直人を横目に、裕也はPCを立ち上げ午後からの資料制作を開始した。
「へぇ、本当に寝坊か?」
直人は質問を聞き返してきた。裕也は少し呆れながら、直人に質問に対する答えを返そうとした。
「本当に寝坊だ…よ?」
(この子を…)
裕也は窓の方に振り向いた。何か?窓の方から何か聞こえた気がした。気のせいだろうか?
目を戻すと、直人はこちらを見ていた。直人は手をチョイチョイと手招きしながら、俺を呼んだ。
「なんで三代美女の原田さんの方じっと見てんだよ?もしかしてお前にも春が…」
「それはない」
直人が言い終わる前に断言した。そんなものはない。あるわけない。てか三代美女とかあったんだな。
「まぁ、そうだよなー」
「当たり前だ、てかお前資料作ってるか?」
裕也は、直人がPCをあまり触ってないのが少し気になった。
「まぁ、半分は作ったし;なんとかなんだろ?」
直人は笑いながら、裕也は呆れながらそんな話をしていると背後から悪寒を感じた。
「お前等」
直人と裕也は首の襟を掴まれた。2人は後ろを見ると何故か笑顔の課長が立っている。
「か…課長?笑顔が怖いですよ?」
「あ…」
2人は課長の顔を見て寒気を感じた。とういか直人何言ってんだ!バカか!
「こそこそしゃべるのはコミニケショーンの観点からとてもいいんだがね?2人とも午後からの会議の資料はできたのかい?」
裕也は「まぁほとんどできてます。確認まだですけど?」と余裕の表情だが、横目で直人の方を見ると「えーと、俺もほとんど終わりました」と言いながら目は泳いでいた。
裕也は課長を横で直人に、さっき半分っていてなかったか?と思い、直人の方を見た。直人はぎこちない笑顔で、こちらが見ていることに気づき、裕也にウインクした。つまり(ヤ・バ・い)と。
課長は「ほう、なら見せてもらおうか?」と言い出し、裕也は画面に出してある午後からの資料を差し出した。しかし、直人の方を見ると、笑顔だが顔は汗でダラダラだった。
「ほう確かにほぼできているな。さて、直人?見せてもらおうか?」
直人は震える手で課長にPCを差し出した。
「…半分しかできて無いような気がするが…どうゆう理由か聞こうか?」
直人は「えぇと」と言葉に詰まっていた。裕也は小さなため息を付き、課長の方のに向き直った。
「課長」
「なんだ?」
「直人は俺の資料制作を手伝ってもらってたんで、あとで俺が手伝おうかと思ってまして…」
裕也は直人に助け舟を出した。
「そうか?なら仕方ない、直人、さっさと終わらせろあと二時間しかないぞ」
課長はそう言い残して裕也と直人から離れていった。
「裕也ぁぁぁ」
課長が遠くなると、直人は裕也にギリギリ裕也だけに聞こえる声で膝に飛びついてきた。
「助かった!ほんとに助かった!」
「今晩奢りな?」
「もちろんでございます!」
土下座の勢いで直人は裕也に言った。
全く、仕方ないやつだ……
ーー
裕也は午後から行われた会議を資料にまとめていた。ふと、窓の方を見ると少しあかくなっており、夕方になったのだろう。デスク横にある時計を見てみたら、午後6時、そろそろ終業時刻になる。裕也は隣を見て直人に声をかけた。
「直人?」
直人は呼ばれてこちらを見た。顔から「なんだ?」と言わんばかりの顔でこちらを見てきた。
「もうそろそろ終業時刻だか……帰れそうか?」
直人は裕也から「終業」という言葉を聞いて、腕に着けている時計を確認すると、「確認あるから少しかかるわ、いつものとこだろ?先行ってろよ。後で追いかけるからさ」と言ってPCに顔を戻した。
裕也は「わかった」と直人に言い残し、行きつけである居酒屋に向かうことにした。
しかし、会社のエントランスに来た時スマホのバイブ機能が震えていた。
ーすまん!課長から明日の資料半分作って帰れ!って言われたー
直人からそんなLINEが届いた。もしかして、今日のことである程度作らせておきたいのか……?とは思ったらがあまり深く考えず、スマホを胸ポケットに入れた。
「……帰るか」
直人が来れなくなっては、一人で居酒屋に行ってもそこまで楽しくない。居酒屋から直で家に帰ることにした。
「どうか……」
裕也は会社を出ると、またなにか聞こえた気がした。裕也は振り向いたが何もいない。見えるのは少し赤く染った街中とスーツ姿のオッサン達だけだった。裕也は気にせず前を向くと、また歩き出した。




