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1人の方言話者より  作者: 言根(ことね)
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「なおす」

 「郷に入っては郷に従え」ということわざがあります。


方言話者である私が、わざわざ意識的に標準語を知ろうとするのは、生まれ育った郷であるこの方言圏から出るときのためです。



それは、標準語圏に限らず、行き先が異なる方言圏のときも同じです。


「方言を"なおして"、相手に合わせる。」


上記の文章が、標準語として通ってしまうと知ったとき、私は衝撃を受けました。



「なおす」=「片付ける」って方言じゃなかったの?



お互いに、?ですよね。


私は、翻訳するという意味での「なおす」は方言側だと思っていました。


言語変換に対して、何か欠陥や不備があるものを修正するというイメージが全くなかったからです。


私にとって、


「方言を標準語に"なおす"。」


というのは、"置き換える"という意味で、


方言を標準語に"修正する"つもりなど、ありませんでした。



そのため、


「お皿を食器棚に直しといて。」


と言われて「?」を浮かべる人は


「日本語を英語に直しなさい。」


と言われた時も同様に「?」が浮かぶのだと思っておりました。



 意味が通ってしまうから、気づかれにくいように思います。


「修理する・修正する」を意味するのが標準語だとされる「なおす」において、「片付ける」を意味する方言があります。



「食器洗った?」(食器は洗った?)


「すすいでから食洗機に入れとうけん、直しといてくれん?」

(すすいで、食洗機に入れてあるよ。食器棚に片付けておいてくれないか?)


「ありがとう。直しとくわ。」(ありがとう。片付けておくね。)


「ありがとう。」



こんな家事の分担を例に挙げてみました。


お皿にとって、


使われていない時の正しい居場所は食器棚です。


食事中の正しい居場所は食卓です。



どちらも間違った場所ではありません。ただ、場面に合わせて置かれている場所が変わっているだけです。



これが私の思う、「なおす」です。



方言と標準語にも、日本語と外国語にも、文語と現代語にも、話し言葉と書き言葉にも優劣はありません。


等価変換です。



 一方で、


「お皿、直しといて。」(お皿を直しておいて。)


と言われて、割れたものを想像する方々が言語を別の言語に"なおす"とき、


ただこの場において伝わらないという点のみに注目して、「意思の疎通の道具として機能していないものを修理する」というニュアンスで「直す」を使っていらっしゃるのだろうと受け止めています。


日本語を英訳するときに大した劣等感があるわけでもなければ、英語を和訳するときに特に優越感があるわけでもないのでしょう。



 ただ、標準語こそが「正しく」て、方言話者は「治す」べきだとお考えの方には賛同できません。


その価値観を責めたいというのではなくて、そんな世界で「治せ」と言われた側の方々の傷に癒えてほしいと思っているのです。


そして、その価値観を形成した言葉こそが「直す」であった可能性さえあると思うのです。



鶏が先か、卵が先か。

「標準語が正しい」が先か、「直す(=修正する)」が先かです。




 1人の方言話者より、


「標準語に直してくれん?」


という表現では私が


「標準語に置き換えられますか?」


という意図で発信したとしても


「標準語に修正できますか?」


というニュアンスを取り入れて受信されてしまう可能性があるのだと知りました。



同時に、「郷に入っては郷に従え」と言われることはあっても、誰かを育んできた言語に総合的な優劣はないという価値観を自覚しました。



 今、あなたが驚いてくれているなら、それは私と同じ点に関してでしょうか?それとも、"私の感覚"に対してでしょうか?

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