四天王の力に抗う術はあるのか
「デスバース四天王『ゾルグ』」
「四天王……!」
突如現れ、自分達が苦戦していた敵を造作もなく屠ってみせたゾルグと名乗る獅子頭の男の言葉に、ホワイトルミナスは思わず息を呑む。
長年戦っているが、デスバースについて人類が知っていることはそう多くない。
当然「四天王」という存在についても明らかではないが、目の前にいるゾルグの圧倒的な存在感を考えれば、それがかなり上位に位置する者であることは間違いないだろう。
「いつまでもまだるっこしい戦いばっかりで苛立ってたからな。俺が直々に叩き潰してやることにしたんだよ」
シーモネイターを筆頭に、臨戦態勢を取ったヒーロー達を睥睨したゾルグは、牙を剥いて好戦的な声で吠えるように言い放つ。
そう言うと、ゾルグは握りしめた拳をゆっくりと掲げ、燃えるように爛々と光る双眸でシーモネイター達を冷ややかに見据える。
「ちょっとは楽しませてくれよ」
振り下ろされた拳が地面に叩きつけられた瞬間、そこから生じた衝撃波が大地を砕き、天を揺るがし、地球そのものを震え上がらせる。
反射的に障壁を作ってその衝撃を受け止めたホワイトルミナスだったが、その桁外れの威力に吹き飛ばされてしまう。
「っ、なんて破壊力……!」
(こんなの、まともに受けたら……)
ただの衝撃波で光の障壁に亀裂が生じるのを見て取ったホワイトルミナスは、身体の芯が恐怖で冷えるのを感じる。
「聖槍・ウル! ――『ディバインストライク』!」
そんな感情を払拭するように己を奮い立たせたホワイトルミナスは、手にした槍に渾身の力を注ぎ込んでゾルグに向けて放つ。
「『ブレイズ・ロア』!」
魂へと呼びかける声に答え、身体の中に宿ったアルマの石がもたらした力を纏う光の槍が衝撃波を貫くと同時、ガーネットも赤い炎を収束した熱線を放つ。
まるで機を見計らっていたかのように放たれた光と炎の一撃が渦を巻くような軌道を取ったかと思うと、一つに束ねられる。
「フン」
しかし、ホワイトルミナスとガーネットの力が一つになった槍の一撃はゾルグの手によって軽々と受け止められ、光と炎は軽々とかき消されてしまう。
「っ」
「ホワイトルミナスの『共感』――この程度か」
その事実に愕然とする間もなく、衝撃に紛れて上空へと飛翔していたシーモネイターが股間部から顕現させた槍を掲げて突撃する。
「チンコランス!」
「ヌン!」
股間部にそそり立つ雄々しい鋼の槍の刃をゾルグは、素手で掴んで受け止める。
シーモネイターの力とゾルグの力が拮抗し、地面に亀裂が入り、雷が生じる。
「なるほど。うちの下っ端どもがやられるわけだ」
股間の槍の威力をその身で確かめたゾルグは、シーモネイターの力と強さを認めて牙を剥く。
「だが! 俺には通じねぇ!」
握力を込め、股間から生えた槍の刃を握りつぶしたゾルグは、その拳をシーモネイターに打ち込む。
しかし、その一撃が命中する寸前、身体をひねって回避したシーモネイターは、掠めただけで身体が削れてしまうほどのゾルグの攻撃に怯むことなく至近距離で股間の大砲を具現化させる。
「尿クリアキャノン!」
大砲から放たれた金色の砲弾がゾルグに命中するが、わずかに半歩分ほど後ろに下がらせる程度のダメージしか与えることはできていない。
「消しとべ」
最強のヒーローであるシーモネイターの攻撃を造作もなく耐えきったゾルグは、その手のひらから暗黒色の力を生み出す。
「く……っ」
瞬間、その暗黒の力がもたらした破壊の力により、シーモネイターは吹き飛ばされはるか遠くのビルに叩きつけられ、瓦礫と共に地面に落下していく
「シーモネイター!」
それを見ていたホワイトルミナスは、青ざめた表情で声を張り上げる。
「ほう。俺の攻撃を受けて、形が残るとはな……中々頑丈な奴らしい」
「そんな……っ、シーモネイターがあんなにあっさり」
不敵な笑みを浮かべるゾルグの言葉に、ガーネットは最強のヒーローであるシーモネイターがなすすべもなく吹き飛ばされた現実を前に息を呑む。
ゾルグの持つ圧倒的な力。その片鱗を前に、これまで培ってきた戦いの経験が、勝機がないと告げていた。
「ガーネット!」
「っ!」
その時、ホワイトルミナスの鋭い警告の声で我に返ったガーネットは、いつの間にか肉薄してきていたゾルグの姿に息を呑む。
「はあああっ!」
間近に迫ると、なお強く感じてしまう死の認識を振り払い、全霊の力を込めた炎を放出して抗わんとしたガーネットに、黒い力を纏ったゾルグの爪が叩きつけられる。
「――あっ」
振りぬかれた一撃は炎などなんの意味もなさずにガーネットに直撃し、悲鳴を上げる余裕もなく、吹き飛ばす。
「はああっ!」
その一瞬の隙を逃さず、ゾルグの懐へと肉薄したホワイトルミナスは、気合の込められた裂帛の声と共に全霊の光を込めた槍の刃を突き立てる。
その槍の一撃はゾルグの脇腹に突き刺さり、次の瞬間――その刃が砕け散る。
「っ」
自身の渾身の一撃が効かないばかりか、逆に武器を破壊されてしまったホワイトルミナスは驚愕を禁じえずに目を瞠る。
ホワイトルミナスがそれに気を取られたのはほんの一瞬。しかし、その一秒にも満たない時間は、ゾルグにとっては、絶好の機会だった。
「きゃあっ!」
振りぬかれた拳の直撃を受けたホワイトルミナスは、純白の翼を散らしながら吹き飛ばされ、地面に数回バウンドしてビルに叩きつけられる。
「ああ……」
シーモネイター、ガーネット、ホワイトルミナスの三人が瞬く間に倒されてしまった現実を目の当たりにした人々から絶望に彩られた呻き声が零れる。
「なんて、威力……身体が動かない」
瓦礫から身体を起こしたガーネットだったが、先に受けた一撃によるダメージは極めて深刻であり、戦闘はおろか、まともに戦うこともできなくなってしまっていた。
砕けた腕と身体から赤い血が地面に滴り落ち、常人ならば塵一つ残さずに消しとんでいるゾルグの一撃で受けた損傷の深さを物語っている。
「っ……」
(咄嗟に防御したのに……回復が追い付かない)
そしてそれはホワイトルミナスも同様であり、無残に乱れた純白の翼を広げて立ち上がろうとするも、身体がそれに答えてはくれない。
光の力で治癒を施すも、その回復よりも受けたダメージの方がはるかに大きいのは明白だった。
「生きてはいるようだな。だが、すぐにトドメを指してやるぜ」
そんな二人の姿を睥睨し、ゆっくりとした歩みで距離を詰めるゾルグは、見せつけるようにその身から暗黒色の力を放出する。
「なんて奴なの。これまでの敵とは格が違う……!」
その様子を安全な場所から見ていたシーモネイターも補佐である暁は、あまりにも圧倒的なゾルグの力に畏怖を覚えながら、小さく歯噛みする。
苦痛と闘志に歪められるホワイトルミナスとガーネットの顔を交互に見比べた暁は、焦燥に駆られた声でエリザベスに語りかける。
「応援は!?」
「もちろんしましたが、まだ時間がかかります」
圧倒的なゾルグの力によって瞬く間に追い詰められてしまったため、応援も援護も期待できないことを理解した暁は、小さく歯噛みして絞り出すように声を発する。
「何とか、人々の避難だけでも……」
ゾルグが現れたことで、この戦いがこれまでにないものになると予感した暁が歯噛みしたその時、強い語気が耳朶を打つ。
「まだだ!」
その声に視線を向けた暁とエリザベスは、瓦礫の中から立ち上がる鋼のヒーローの姿を瞳に映す。
「シーモネイター……」
その鋼の身体に亀裂を刻まれながらも立ち上がったその姿に、ホワイトルミナスとガーネットが畏敬の声を零す。
血が流れているわけではないが、決して浅い傷出ないことは一目でわかる。だというのに、立ち上がったシーモネイターは、それを感じさせない覇気を放っていた。
「まだ、負けていない! 私はまだ戦える!」
「ほお?」
敵に向けてというよりは、己に言い聞かせるように声を発したシーモネイターに、ゾルグは口端をつり上げて獰猛な笑みを浮かべる。
「――いいぜ。お前を殺せば、人間共も絶望するだろうからな」
折れることのない闘志を見せるシーモネイターを正面から見据えたゾルグは、その手中に濃縮した暗黒の力を弾丸のようにして打ち出す。
「っ!」
本能的に危険を感じたシーモネイターが身を捩った次の瞬間、その傍らを弾丸をはるかに超える速度で通り過ぎた暗黒の玉が、背後にあったビル群を消しとばしていた。
「確実に消し飛ばしてやるよ。せめて首から上くらいは残してくれよ」
「――!」
圧倒的な破壊力を見せつけたゾルグは、そう言って地を蹴り、彼我の距離を一瞬にして縮めてシーモネイターへと襲い掛かる。
「ハアッ!」
「く……っ、『ションベンガトリング』!」
ゾルグの攻撃を紙一重で回避したシーモネイターは、股間から伸びるガトリング砲から金色の弾丸を雨のように放つ。
破壊の嵐を巻き起こす金弾の雨がゾルグに降り注ぎ、暗黒の力を纏ったその身体をその場に縫い留める。
全く効いていないというわけではないが、大きなダメージを与えることができているというわけではない金色の弾丸を受けるゾルグは、ある程度その攻撃を受けたところで、筋肉を膨張させる。
「オオオッ!」
咆哮と共に放たれた暗黒の力が金色の雨をかき消し、シーモネイターを吹き飛ばす。
「く……っ」
「お前の攻撃力はヒーローの中でも高い方だが、それ以外のスペックはそれほどでもない。――特にスピードは、決定的だ」
そう言うと共に、ゾルグはシーモネイターへと接近し、暗黒の力を纏った爪を振るう。
シーモネイターが最強のヒーローであることは間違いない。だが、それはシーモネイターが全てのスペックにおいて比類ない力を持っているというわけではない。
シーモネイターのスペックで最も高いのは攻撃力。しかし、それ以外のスペックでは、他のヒーローの方が優れている。
その中でも最も劣っているのは速さ。――特に移動速度に関しては、ホワイトルミナスやガーネットの方が数段上になるため、到着がわずかに遅れたのだ。
(私の能力を分析しているのか……!)
ただ力に任せて戦っているように見えたゾルグが冷静に戦力を分析しているのを聞き、シーモネイターは、意識を研ぎ澄ませる。
圧倒的な力を持つ者の余裕とでも言うべきか、シーモネイターに対して語りかけるゾルグは、鋭い爪を持つ手を掲げて不敵に嗤う。
「さらに、攻撃は得意だが、防御や回避に特別な能力や力を持っているわけじゃねぇ。つまり――」
シーモネイターは、最強のヒーローであるが故にその戦闘力による敵の撃破は得意でも、受け身に回った戦闘を不得手としている。
その情報を把握しているゾルグは、シーモネイターを見据えて牙を剥く。
「お前は俺に勝てねぇってことだ」
「シーモネイター……」
勝利を勝ち誇ったようなゾルグの言葉に、ホワイトルミナスは言葉を詰まらせる。
実際、ゾルグが述べた事は正鵠を射ている。
このまま戦っても、ゾルグが勝利することは確実であると、この場にいる誰もが理解していた。
「見くびってもらっては困る。私は戦いで手を抜いたことはないが、全ての手の内を晒したわけではない」
しかし、そんな絶望を振り払うように、シーモネイターは力強い語気で応じる。
「……!」
決してただの強がりではない言葉に、ホワイトルミナスとガーネットはかすかな希望を抱き、ゾルグは剣呑な眼差しでシーモネイターを見据える。
この場にいる者達、この戦いを見ている全ての人々の視線を一身に集めたシーモネイターは、精神を整えるべく深呼吸をする。
「見せてやろう。私の――シーモネイターの力を」
「まさか、あれを使われるおつもりですか!?」
それを見ていた暁が思わず息を呑むのと同時、シーモネイターは自身の指で身体の中心――人間でいえば臍のあたりを押し込む
「『ベンイ』起動」




