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両親との会食が終わり、服装がどうの謝罪の品がどうのと忙しなく動いている両親に「確認しているから」「大丈夫だから」と結局全ての準備を一から確認し終えたエルフレッドは少々憮然とした面持ちで両親と別れた。伯爵が公爵に迷惑を掛けれないという気持ちは解るのだが信頼されていないのではないか?という気持ちが胸をもたげーー。
(自分の夢の為とはいえ嘘をついているのだから文句も言えん)
自分に疚しいところがあるので如何ともしがたいエルフレッドであった。
さて、待ち合わせの場所で待っているとヤルギス公爵家の家紋の入った客品用の馬車が目の前に停まった。
(可笑しな状況になったものだ)
そもそもが謝罪による訪問がメインのハズで自身の家の馬車で行くのが礼儀である。当然、それを知っているエルフレッドは勲章授与式の挨拶の際にそう断りをいれたのだがーー。
「ユーネ=マリア様の御子となられたエルフレッド君にそのようなことはさせられませんわ!」
と、苦虫を潰した表情の公爵閣下を前にして公爵夫人から満面の笑みでの御達しである。一応、それでもやんわりと断ろうとしたが両親の間に挟まれたリュシカよりーー。
「バーンシュルツの馬車を待っていっては何時になるか解らん!申し訳ないと思うなら我が家の馬車でさっさと来い!」
と、押し切られてしまった。その時の公爵閣下の真に遺憾な表情は当分忘れられそうもない。久々にあった執事のグレミオの案内で馬車に乗り込む。今まで乗ったどの馬車よりも乗り心地の良いそれに微睡みを覚えながらエルフレッドはその目を遠くにやった。
そうこうしているときらびやかな華を思わせるモダンな宮殿が見えてきた。目的地であるヤルギス公爵家の宮殿である。見る者を圧倒するホーデンハイドの公爵邸と比べてヤルギスの公爵邸は華やかな貴族様はこういう所に住んでるのでしょうねぇを体現する美しさがあった。
軍部に関わりが深く家のことは奥様任せであったことが造りに影響しているのだろう。しかも、その奥様というのは名だたる王家の姫君達である。軍部最高司令官が住むと考えるには頬が釣りそうになるが王族の姫様が住むと考えるとなるほどと頷ける、そんな屋敷であった。
水の女神を象った噴水、咲き誇る赤や黄色の色味が強い庭園ーー、そのままでもお茶会が開けそうな純白のテラスなどに出迎えられると思わず変な笑いが出た。
馬車が停まったのを感じ正装の見えないような皺を伸ばして身繕いをしていたエルフレッドはヤルギス公爵家の方々が御用達であるとされている、ライジングサン発祥"ひのきやの水羊羹"を手に背筋を伸ばした。
「ようこそおいでなさいました。エルフレッド様」
使用人の方々の声に出迎えられて笑顔で応えようとしていたエルフレッドはその中心に佇む公爵夫妻を見つけて頬を引つらせた。
「謝罪の席に関わらずこのような過分なお出迎え、このエルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツ、大変申し訳無く思う所存で御座います。先日は入学式にてヤルギス公爵家御令嬢であられるリュシカ=へレーナ=ヤルギス様に大衆の面前で恥をかかせてしまったこと、ここに深くお詫び申し上げます。こちらの品はヤルギス公爵家の方々が足繁く通われてると伺い急ぎ買って参りました。良ければお受け取り下さい」
そう言ってひのきやの水羊羹を差し出すと一瞬ゼルヴィウスの瞳が輝いたように見えた。
「まあ!ひのきやの水羊羹ではありませんか!早速お茶と一緒に頂きましょう!」
控えていた家令と思わしき人物が恭しく頭を下げて受取り、早速中へと消えていった。
「エルフレッド君!ユーネリウス様の名を冠する英雄の誕生は人類史が始まって以来三人目の奇跡です。その奇跡の御子を我が家に迎えられるなんてユーネ=マリア教、最高の栄誉ですわ‼︎私は貴方を歓迎致しますわ!」
薄紫の瞳を輝かせて喜ぶメイリア様を見ていると本来の訪問の目的を忘れてしまいそうになるがあくまでも公爵令嬢に式典で恥をかかせた謝罪である。ひのきやの水羊羹を受け取ってから、あまりこちらに意識を向けていなかったゼルヴィウスが思い出したように咳払いをして口を開いた。
「こほん!確かに君の誠意は受け取ったよ。確りと趣向を調べて良い品を選ぶのは難しいことだからね。それに君は栄誉ある式典の後にここに来ている。両親と一日中祝いの席を設けても良いところをなるべく早く謝罪しようとする誠意、そこは認めようじゃないか。しかし、今日の様子を見ていると君は家の娘といささかーー「エルフレッド‼︎来るのが遅いではないか‼︎」
白亜の階段からドレスアップされたリュシカが駆け足気味に降りてくる。普段のバトルドレスのようなお転婆な雰囲気は一切無く、一見華やかな深窓の令嬢といった装いだ。とはいえドレスの裾を掴んで駆け寄ってくる様は結局何時ものリュシカらしいがーー。
「あ、あのリュシカ様。失礼を承知で言いますが、只今ヤルギス公爵閣下と話しておりましてですねーー」
「......リュシカ様?エルフレッドそなたは本当に反省しているのか?」
むすっとしたリュシカはそう言うが話を遮れて頬を引つらせている公爵閣下を見ているとそんなことを言っている場合ではない。
「いえヤルギス公爵家邸内でその御令嬢であられるリュシカ様のことを軽々しく呼ぶ訳にはーー「リュシカ」
「リュシカ様のーー」
「リュシカ」
「リュシカさーー」
「リュ・シ・カ」
エルフレッドは失礼と解っていながら溜息を吐かざるを得ない。
「まあ、リュシカったら!」
頬に手を当てて口ではそう言っているが満面の笑みを浮かべるメイリア様が止める様子はない。
「......リュシカ。今、俺は公爵閣下と話していてな。あまり邪魔をするのは感心しなーー「構うものか!父上は厳しくも寛大な御方であられる!誠意を持って謝ったのであれば悪く言うはずがなかろう‼︎大体そなたは誰に何をしてここに来ているのだ!私はそれを言っておるのだ!」
言ってることは解らなくもないがリュシカは気付いていないのだろう。寛大な御方と言われている件の公爵閣下の顔が血涙でも流しそうな程に歪んでいることに......。
(悠長な事を言ってる場合ではない。ここはどうにかこの場をおさめないとな)
そう思ったエルフレッドは真剣な表情で口を開こうとしたのだがーー。
「誰が、誰に、何をして、ここに来・て・お・る・の・だ‼︎」
無視をされたと感じたのかリュシカはエルフレッドの胸の辺りを指で突きながら言ってくる。
「......私めが、リュシカ様のことを、入学式で泣かせて、ここに来ております」
「解っておるではないか!では私のために時間を使うというのが道理というものであろう?こっちに来い!珍しい花が咲いたのだ!庭園で花でも愛でようではないか!ーーあっ。あとリュシカな!」
「あ、おい!まだ閣下の、閣下の話が終わってないと思うのだーー、うわ、ちょっと、手を引っ張るなっ‼︎」
そのまま手を繋ぎ(メイリア主観)邸宅内へと消えていった二人を「まあ!大胆ですわ!」と見送ってメイリアは頬に手を当てた。
「ふふふ、ユーネ=マリア様の神託の御子が来訪するなんて今日は何と素晴らしい日なのでしょう。水羊羹と共に噛み締めなくてはーー」
少し上手いことを言って邸宅内に戻ろうとしたメイリアは思い出したかのように振り返った。
「貴方!私は先にお茶の準備をしておりますのでゆっくりお戻り下さい♪」
そして、メイリアはるんるん♪と鼻歌を混じらせて邸宅内へと消えていった。
そして、一人残されたヤルギス公爵家当主兼アードヤード王国軍総元帥ゼルヴィウスは何処からともなく携帯端末を取り出すと友人欄の一番上に書いてある人物に電話を掛けた。
「......休みの日にどうしたというのだ?仕事のことなら仕事の日にーー「アハトマン!明日言いたいことがある‼︎飲みに行くから空けといてくれたまえ‼︎いいな‼︎」
「いや、いいなも何も、何がーー」
何やら言っているアハトマンを無視してゼルヴィウスは電話切ると溜息と共に月を見上げた。
明日は良い酒が飲めそうだ。遠い目をしながらゼルヴィウスはそう思うのだった。




