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22 転校生




「言いますね。ですが、貴方では雫さんを守れない」


放たれた長方形の薄い紙は空中で茶色の人の形をとり、僕たちを囲む。

ただの紙が質量に反してあんなに膨れるなんて、どうかしている。僕の眼がおかしくなったのかと瞬いた。だけど、何度目を閉じて開いても結果は同じで、それどころか紙で出来た人型は煉を攻撃してきた。

ひょいひょいと煉は僕を抱えたまま攻撃を避けているが、反撃に出ようとすると僕を離すことになるので、躊躇することがたびたびあった。どうやら僕を自分から離すのが嫌なようだ。


「私の式すら倒せないでしょう」

「こんなもの!」


僕を強く抱き寄せて、片方の拳をぐっと胸の前で構える。


「やめておきなさい。雫さんに怪我をさせてしまいますよ」

「!!」

「言ったでしょう?貴方は雫さんを庇いながら攻撃どころか守ることすら無理なんです」

「―――……雫」


緑川が言った言葉に煉が言葉を失い、哀しげな瞳で僕を見る。


「煉?何がどうなっているのかさっぱりなんだけど。緑川さんが言っていることも分からないし…煉は分かるの?」


 何が何だか分からない状態で悲しい瞳を向けられても、なんて答えたら良いのか分からない。鈍い僕でごめんなさい。というか、行き成り未知な戦いと意味不明なことを言われて、理解できる人間がいるのかどうか。いるのなら僕に説明をお願いします!


口に出せない緊迫した雰囲気だったから我慢していたけど、式という者も煉が攻撃に意思がないことを汲み取ってからは威嚇しているだけで襲ってこようとしないし、煉の棘が抜け落ちるのを感じた僕は、場違いだと感じたけど思っていることを口にした。


「……あいつと共に行け…」

「は?説明はしてくれないの?」


いつもはあんなに自信満々だというのに、それにさっきまでの威勢は何処に行ったのやら、唇をかみ締めてうな垂れている。その姿が痛々しいよりも、僕を巻き込んだこの騒動の原因である煉からの突き放した言葉に、僕は怒りを感じていた。


「いいから、今は行け。あいつの言う通りだ。今の俺には…雫を守れない。だけどお前を諦めたわけじゃない。雫の身に危険を及ぼす輩を排除してから迎えに行くから。その時は――」

「虫が良すぎませんか?」

「ぐ…っ」

「何?何が??訳が分からないよ。どうして僕には教えてくれないのっ!?」


煉は無言で僕の背中を押し緑川さんの元へ行けと言う。そして緑川は煉の戦意喪失を読み取って式とやらを元に戻した。







煉と別れ、緑川さんの車の中で僕は考えに集中していた。一気にいろんなことがありすぎて、整理しないと逃げ出したくなる気持ちでいっぱいだったから。

緑川さんに煉とのキスシーンを見られたという羞恥があって目をあわせられないけれど、彼もまた車に乗ってから考え事をしているようで、ずっと目を閉じている。だったら僕も煉の行動の原因を探ってみる。


引き金となったのは多分、僕の養子の件だろう。


『ようやくお前の隣を歩くことが出来たのに、また俺の元からいなくなるのか!俺はこの手を離したくない、もう二度と!』


 あんな悲痛な叫びを今まで聞いたことがなかった。

僕には記憶が無いけれど、普通の生活をしたら、全身全霊で表す心からの叫びなんて聞くことはないだろう。まして僕を求める言葉だ。落ち着かなくて、ふかふかのシートに座っていても居心地が悪く感じる。


そういえば、僕が記憶喪失になる前から幼馴染である煉すら避けていた節があったといことを思い出す。

以前体育の授業が終わった時にクラスの二人から聞いたことだ。僕から構うなオーラを出して人を寄せ付けなかったと言うのは事実だとして、煉の僕に対する過保護振りを考えると煉から僕を避けていたというのは考えられないから、僕が煉を避けていたということになるわけだ。

でも、そうだったとしたら、何故僕は煉を避けていたのだろう?


記憶をなくし、避ける理由すら忘れた今の僕は煉に頼りっきりで、煉はようやく本来の幼馴染として接することが出来たと喜んでいた。その矢先に、養子の件があがった。また、僕が煉から離れることになる。そこからの執着で、ああなったと思うんだけど……

そこでまた問題が発生する。


煉はどうしてそこまで僕にこだわるのだろう?いくら幼馴染だからといっても異常なほどの執着だと思う。


『雫…どこへも行くなっ』


切ないまでの訴えに、僕は安易に答えを返してしまった。『何処にも行かないよ』と。言葉だけの約束じゃ満足できず、煉は最終手段として物欲で僕を傍にとどめようとしたんだ。


「………」


流れを予測して理解した風であっても、煉の心は分からない。結局は考えても分からないことだらけだ。解決するにはちゃんと話し合いをしなきゃいけないだろう。

そう思うものの、幼馴染としての仲にしては煉の執着は行き過ぎているから、きちんと話を聞いてくれるだろうか?またあんな流れになったらどうしよ?

あの場面を思い出して、赤面してきた顔を隣にいる緑川さんに見られたくなくて俯いた。


「怖かったでしょう」


そんな僕の様子をどう取ったのか、緑川さんが心配そうな声をかけてくれる。

怖かった?怖かったのかな?そんなことを考える間なんてなかったから、分からないけど、今思うと、何時も煉じゃなかったから体は萎縮していた。それって多少は怖かったといえるのかもしれない。

でも煉の真っ直ぐな想いと思いがけずに優しい手は……つうか、緑川さんにしっかりと見られてしまったんだ。その目で今僕を見ないで欲しい。

恥ずかしさが頂点に来てギュッと服を掴む。

力いっぱい掴んだために震えてしまった肩を抱き寄せようとした緑川の手が、途中で止まったことも知らずに、あの場面を見られたことに赤面していた。


「…黄之本煉には近づかないほうがいいでしょう」


その言葉に、え?と緑川さんに振り返る。


「あの人では通り魔から貴方を守ることも出来ない上に貴方を傷つけてしまう」


そんなことはない。煉は僕を大切にしてくれている。と反論できないのは、緑川さんの普通の人では持ち得ない不思議な力を目の当たりにしたから。多分、彼が言っていることはそういう力のことを言っているのだ。


「あの…緑川さん、あの人形は…緑川さんの…?」

「――――――そうですよ。あれは式しきといって陰陽道の術です」


一瞬、哀しそうに見えたのは本来なら誰にも知られたくなかった力を僕が知ってしまったからなのだろうか?それでも僕の問いにちゃんと緑川さんは説明をくれる。


「雫さんには出来ることなら、このような力が必要のない世界に普通の生活に身をおいて欲しかったのですが…」


 その意見に僕は賛成だよ。


通り魔にさえ出会わなかったら緑川さんの言っている普通の生活のままだっただろう。思い出しても恐ろしい通り魔も変わった力を持っていた。警官、いや普通の人では太刀打ちできない輩だ。対抗できるのは、同じく普通でない力。そう、緑川さんや青柳さんのような力が必要なのかもしれない。

尋常ならない力を持つ通り魔が、どうして僕に固執するのか。十分な力を持っているというのに、更なる力を求めて血を欲する。僕の血は奴に力を与えるという…また襲われるかもしれない恐怖に、背中に悪寒が走った。


「力の限りお守りします」


不安で睫を揺らす僕に、大人である包容力で優しく言葉を落としてくれる。心強いと思う反面、さらに不安が掻き立てられるのはどうしてだろう?


「暫くは家に帰らず、私どもの家でお住みください。学校へは送り迎えをします。もちろんお父様もこちらにお泊りして頂くようにお願いしますが……出来ることならば、学校の中まで付いていきたいところです。それは流石に無理なので、雫さんに気をつけてもらう他ありません」


緑川さんの提案に口にしたいことがいっぱいありすぎてどれに答えていいのか、口を金魚のようにパクパクと開けるだけで、返事が返せない。

あの『緑川家』で寝泊まりする!?まさかこの目立つ車での送り迎えじゃないよね?とか、そこまで手を煩わせたくないとか…もし反論して学校の中まで警護という名の監視をされたら、たまったものじゃない!だから、


「……気をつけます」


と言うしかなかった。


それに、僕は決めたことがある。

自分の周りで何が起こっているのか―――記憶が無いからと皆に迷惑をかけないようにしようとしていて、ずっと受け身だった。でも、ここまでややこしくなってきたのだから、いつまでも受け身でいたら、それこそ物事が複雑に絡み合って何も出来なくなりそうなんだ。って、もう既に絡み合っている気もするけど、兎に角、出来うる限り周りでおきていることを調べたい。

自由に動けるのは校内だけだ。

これ以上自由な時間を奪われても困るからと素直に全てを了承した。






 翌日、何処から調べようかと朝のHRを窓の外を眺め上の空で聞いていたら、いつもと違う流れとざわめきに、つと黒板を見る。そこには丁寧な文字で『天野勾己』(あまのこうき)と書かれていた名前と知らない顔があった。


「転校生を紹介する。天野勾己君だ。彼は日本人だが外国暮らしが多く日本のことは詳しく知らない。皆、助けてやってくれ。天野君、君の席はまだ用意できていないから空いている席―――そうだな、窓際の後ろから二つ目に座っていてくれ」


先生が指定した席は今日欠席した生徒で僕のとなりの席となる。席が用意できないほど急な転校生は、僕の隣の席に来ると二カッと笑って『よろしく』と握手を求めてきた。

座っていては失礼だと思い、立ち上がってそれに応じたのだが、彼は吃驚するほど背が高かった。僕より20センチは高いんじゃないだろうか?すらっとした手足に、日に焼けた肌、両脇に分けた髪の毛は無造作に伸ばされていたにもかかわらず、野性的で似合っている。少しばかり染めているのだろうか、茶色というより日に透けて赤っぽく見える。

肌が焼けているから、髪の毛も日に染まってしまっているのかも。


「日本語は話せるんだね」

「もちろん、日本生まれだから。ところで白石、教科書がまだそろっていないから、見せてくれないか?」


 日本生まれ?変な言い回しだなぁ。

それに制服は届いているのに教科書がまだで、机も用意されていないとは変なの。と思いつつ、僕の名札を見て名前を知った彼は、いそいそと大きな体を使って机をくっつけてきた。僕にとっては丁度いい机も彼にとっては窮屈そうだ。


時期はずれの転校生かぁ……僕の周りでは事件が渦巻いているようなので、何もなければいいのにと願う。



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