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第96話 うろちょろ

 今日の朝は珍しくハムがケージの外にいて、のんびりと毛繕(けづくろ)いをしていた。上から眺めている俺を全く気にしていない。

 終わると後脚で立ち、ふらふらしながら俺の方を見た。それだけで壁を引っ掻くような行為には及ばなかった。

 良い兆候と感じ、掌(てのひら)を上に向けた状態でハムの足元に近付けた。逃げる素振りを見せないので、さらに押し進める。

 さすがに強引が過ぎたのか。ハムは指先に鼻を近づけてきた。匂いを頻(しき)りに嗅ぐだけで噛まなかった。

 気を良くした俺は掌を前脚の下に潜り込ませた。ハムは掌を歩いて横から抜けた。嫌がるような感じではなかった。

 もう一度、掌アタックを敢行。今度は後脚を狙ったが小走りで躱(かわ)された。

 ハムはくるりと向きを変え、掌の上を走り抜けた。一瞬ではあるが自ら乗った。


 手乗り、いけるかもしれない。


 やんわりと掌アタックを続けた。ハムは掌を躱したり、横切ったりを繰り返した。完全に掌に乗せることは出来ず、噛まれもせず、中途半端な時間がだらだらと流れた。

 最近のハムは回し車を回さない。鳴っている音を聞いた記憶がない。夏の夜は音がうるさくて途中で目覚めたこともあるというのに。

 そこで名状し難い『今日のこれ』を運動と認識すればいい。寒い冬に陥る運動不足解消に大いに役立ったと考えれば、少しはすっきりするだろう。

 付け加えれば噛まれないだけマシとも言える。以前は朝の挨拶のように指を噛まれていた。血の玉が滲み出たこともあった。あれに比べればマシどころか、大いなる飛躍と言えるだろう。まあ、どうだろう。


 多少の歯痒さを感じつつ俺はノートパソコンを開いた。

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