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征服のフロレント─全てを失った皇女が全てを手に入れるまで─  作者: 智慧砂猫
第一部

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第11話「求めるもの」

 なぜわざわざ計画を土壇場で変更してまで事実を話すべきだと考えたのか、エスタにもすぐに理由が分かった。


「おお、君は……まさかアドワーズの?」


 若き国王ハシス。ルバルス前国王が急病によってこの世を去り、皇太子であった彼が継いだのはまだ数年と短い。しかし齢三十に届かぬまでも知性は老獪な者のそれである。フロレントの髪と瞳の色を見てすぐに彼は気付いた。


「国王陛下にご挨拶申し上げます。アドワーズ皇女、フロレント・クレール・フォン・アドワーズと申しま

す。この度は謁見の機会を与えて下さり、感謝の意を」


 フロレントが頭を下げると、一歩後ろで立っていたエスタも胸に手を当てながら膝を突いて頭を深く垂れる。ただ、あえて名乗ろうとはしなかった。


「顔をあげたまえ、むしろ感謝すべきは我々の方だ。盗賊団に襲われた村の人々を救ってくれたと聞いている。大切な会議中だったので報告を受けるのが遅れてしまって申し訳ない。ぜひ褒美を取らせたいのだが……」


 そこでようやくフロレントは顔をあげて────。


「ではひとつお願いがあります」


「うむ、申してみよ」


 きっと互いにとって利益の生む提案だろうと思っていたハシスが期待に耳を傾けた。フロレントは尻込みひとつせず、堂々と彼に伝える。


「アドワーズ皇国は既に帝国の手に落ちました」


 話を黙って聞いていた宰相や警備の近衛騎士たちがぎょっとしてざわつく。ハシスも楽観的な表情から真剣なものへ変わった。


 だが返事はせず、手をひらりと振って静かにさせてから続きを促す。


「既に戦況が思わしくない事は耳に入れていたかと存じますが、既に皇都でも虐殺が行われ生存者は確認した限りでは一人もいない状況でございます」


 帝国の戦力がいかに強大であるかはハシスもよく理解している。いや、知らない人間などいない。たとえ平民であっても帝国が攻めて来たと言えば死を覚悟する。だからこそ彼は尋ねずにいられなかった。


「であれば君はどうやって、その戦火を生き残った?」


 他国から見ても精鋭と称賛を送れるアドワーズ皇国の騎士たちでも帝国には敵わなかったと見れば、護身術をかじる程度の皇女では生き残るのは不可能だ。誰もが疑問に思っていたところで、エスタが顔をあげた。


「私が皇都にいた帝国兵を残らず討ったからだ」


 誰もが黙り込んだ。彼女の言葉が冗談だと思ったし、今この場で発するべき言葉であったかと空気を読めない小娘を見るような冷たい眼差しだった。


 だが、ハシスだけは違った。


「いささか信じ難い。証明できるか、騎士の娘よ」


「うむ。少々動揺を生むであろうがやってみせよう」


 フロレントに目で合図を送り、彼女が頷いて許可を出せば待っていたとばかりに一歩前へ踏み出す。ほんの一歩。誰でも分かる挙動だ。瞬きひとつする必要さえない。しかし、全員が目を疑った。


「……驚いたな。なんと巨大な一歩だ」


 誰も目で捉えられなかった。いつ手にしたのか、彼女は真っ黒に輝く剣を握ってハシスの足下に突き立てて堂々としてみせた。


 いつでも首など獲れる。そう言われた気がして彼もひやりとする。


「気丈な振る舞いだ、若いわりにはよく出来た人間であるな」


「フ、見抜かれて当然か。わざわざ手間を取らせた」


「気にするな。この程度の事は想定の内に入っている」


 傍にいた近衛騎士が剣を抜けるよう手を掛けてハッとする。革のベルトが切れて床に剣が落ちた。エスタは剣を片手に小馬鹿にしながら────。


「貴公ら、武人としてなっておらぬぞ。刃が喉元に触れてから緊張感を抱くようでは三流だ。その剣が何を守るためであるかをよく考えなおすのだな」


 格の違いを見せつけてフロレントの傍へ戻る。そっと「かっこよかったわ」と言われて、彼女は少しだけ嬉しくなって自慢げな表情で返す。


「それでは国王陛下。話を続けてもよろしいでしょうか」


「ああ、遮る真似をしてすまない。続けてほしい」


 ここからが問題だ、と深呼吸をする。いくらエスタの腕を認めてもらえたからといって最後まで気は抜けない。緊張で額に汗が浮かんだ。


「────彼女は、エスタ・グラムは人間ではございません。私が封印を解いた、千年も前に実在したとされる魔族と呼ばれる者です」


 今度こそ冗談だと思いたい話だったがフロレントの表情は真剣そのものだ。その上、エスタの動きを見せられた後だと騎士たちも疑いたくとも疑いきれない。


 ただ、ハシスと宰相の反応は僅かに違うものだった。


「……なるほど。では、その双角は本物か?」


「うむ、立派だろう。飾りではないぞ」


 答えを聞いて宰相と小さく話し、二人で頷いてから彼はこほんと咳払いをして、もうひとつの質問を投げかけた。


「魔族などおとぎ話でしか今や耳にしない事ではあるが、君たちを見ていれば嘘とは思えぬ話だ。なぜルバルスへ訪ねて来たのか教えてもらえないか」


 事と次第によってはとでも言いたげな様子だった。もしかしたら本当に敵に回してしまうかもしれない。緊張感に潰されそうになるのを耐え、フロレントは傍に立つエスタの小指をきゅっと握り締めながら言った。


「私たちの目的は帝国の崩壊。そのための力を手に入れる必要があります。……ですので、この城の地下に眠る魔族の封印を解かせて頂きたいのです。それが今回の褒美として私たちが求めるもの。それ以外にありません」

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