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伯方乃 ソルトのオカルト話

分岐要素を投入

コメント、批判、改善点募集

_七月_


私立アーモンドナッツ学園には最近、いくつかの怪談が流布されている。


それはまことしやかに囁かれている噂であり、学園の生徒の間で話のタネになっている。


曰く、四階の長廊下には恐怖が映る。

曰く、三階のトイレには花子さんが居座っている。

曰く、校長のヅラが飛んでいる。


噂の中には明らかにおふざけが混じっているが、オレは正体を確かめずにはいられなかった。


オカルトは存在するのか、どうかを。




「私はこの胸に残る違和感をどうにかしたいのよ」


学園中を練り歩きながら生徒たちから噂を収集していたら、とある部室前で気になる言葉が聞こえた。

部室名を確認すると厚紙にマジックペンでオカルト部と書かれていた。


それは新入生歓迎会にはなかったはずの部活動だった。


好奇心が脊髄反射で部室の扉を開けていた。


その部活は裏闇 推名、王位 茶々、親染 易意の三名が三日前に創設したものらしく、学園で噂されている怪奇現象を解明するのだと説明された。


同じ志しを持つ者に、オレは興奮した。


その勢いのままオカルト部に夜の学園探索を提案した。

夜の学園に入るには、余程の緊急案件か部活の申請が必要で、部活に所属していないオレにはまさに渡りに船だった。


オカルト部の三名は提案を快諾し、すぐに申請を終わらせた。


夜の学園探索はあっさり許諾された。


その日の夜、集合場所に向かおうと意気揚々と夜の学園の正門を通ったオレは、急に意識を失った。


…………

……………………

『この世界には違和感しかないだろ?』

…………………

…………………



「んぁっ…何が起こったんだ!?」


目を覚ませば、オレは教室にいた。どうして教室にいるのかはまったく理解できないが、教室にはオレ以外にオカルト部の茶々と易意が寝ていた。


「おい、起きろ。どうしたんだよ、何があったんだ」

「うみゃー眠ー」

「うっっ、なにが」


混乱しながらも、二人は起きてくれた。軽く意識を失う前のことを確認するとオレと大体同じだった。


「あれー椎名ちゃんはー」

「あっ」

「ホントだ、椎名さんはいないのか!?」


茶々が少しふらついた足取りで教室の外へと出た。


「いたー」

「えっもう!?」


なんと椎名は教室のすぐ側で寝ていた。


「起きてー」

「むぅ、んっ、なに」

「現状がわかるか」

「…なにこれ」


オレたちは校舎の四階に位置する一年一組の教室にいた。

学園の校門で意識を失って、気が付いたらここに。

誰の仕業だこれ。


「まずは、どうするべきかしら」

「…学園から出る、とか」

「このまま学園探索ー」

「危機感なしかよ」


手持ち無沙汰なオレたちは、とりあえず廊下を歩いていた。

現状が余りにも意味不明で、いったい何を目的としたものかわからないからだ。


だからそれを見たとき、まるで理解できなかった。見間違いだと普通に思った。


「階段が…」

「ない」

「おっ、オカルトだー!?」


手すりはある、それだけが階段があった証だった。本来階段があるはずの空間は平地と化していて、それがまやかしではないことにオレたちは混乱した。


「ホントに平地だー…」

「ハリボテじゃ、ない」

「なによこれ、意味わかんない」

「…いや待てよ、実はここ四階じゃない、とかないかな」

「どゆことー」

「じ、実はここ、一階なんじゃないかな、なんて」

「そっ、そうよ、窓を開けたら地面がすぐそこに」


椎名がほとんど懇願染みた震え声で窓ガラスに手を掛け、


「えっあれ」


ガチャガチャと、不穏な音を立てるばかりだ。


「おっ、おい椎名、まさかとは思うが」


オレは椎名が手を掛けた窓ガラスとは違う方の錠に触れた。

錠が開かない。


「嘘だろ」


それからオレたちは付近の窓ガラスと一年一組以外の教室の扉を確認した。

まだ西棟は未確認だが、一年一組の窓ガラスを含め開きそうにはなかった。


「ソルト、物置教室の扉が開いたぞ」

「あの文化部のか」


物置教室というのは学園の文化系部活の共同部屋だ。そこには多種多様な資材、道具、食材が置かれている。


「今は別に用は、ないか」

「そうだな、次は」

「西棟ー」


そのときのオレらは、噂のことを忘れていた。


【四階の渡り廊下の窓ガラスに恐ろしいものが映る】


それは学園に流れている怪談の一つだ。


………………


半端なく怪しいが、今は少しでも情報が欲しいときではある。

誰かの手の平に導かれる気分を味わいながら、オレたちは四階の渡り廊下へ移動した。


学園内は妙に明るい月明かりが照らしていて、いかにもな雰囲気を醸し出していた。

渡り廊下の両側はガラス製の窓で、少々汚れている。


「ここの窓ガラスもダメね」

「頑丈だねー」

「西棟の方も階段なくなってるのかな」

「勘弁して欲しいな」


どうしてだかわからないが、嫌な予感がした。

不意に、窓ガラスに何かが映った気が___


「あ゛っっっっっづ!!!」


それは突然のことだった。まるで脈絡がなかった。オレの右腕が焦げるように熱くなった。


「ひゃっ!」

「うわっ」

「わーーー」


急に叫んだことにビックリした三人だったが、オレが右腕を抑えてうずくまる姿を見て困惑した。


茶々は腕に触れて異常がないか確かめてきた。


「いきなりどうしたの!?ソルト君」

「ちょっと待って、ホント熱かったんだけど今ぁ!?ホント」

「熱いって…」

「腕が赤くなってるよー」


易意は直ぐに周りに不信な物がないかを確かめた。


オレの言葉に疑問を抱きながら、椎名も周りを見渡す。


「火…?そんなのどこにも___」


直後、椎名の目がある一点を見つめて硬直した。


「…椎名?」


辺りを観察していた易意が突然言葉を切った椎名を呼びかける。


「あ」


そして何かに気づいたのか、目がオレの後ろを捉えていた。

オレはゆっくりと後ろを振り向く。

そこには、黒いモヤがあった。

どうして今の今までそれに気づけなかったのかわからないが、それが異常であることはわかる。


「茶々ちゃん、後ろ」

「わーー」

「…」


しかし椎名は青ざめた表情で硬直したままだ。


「何だよこれ、埃とかか」

「だとしたら特大だね」

「あれー椎名ちゃーん?」

「…ぁ」


動きを見せない謎の黒いモヤを振り払ってみるが、モヤはまるで意思を持っているかのようにオレから距離を取った。


「椎名ちゃーんおーい椎名ちゃーん」


茶々は不信に思ったのだろう、反応のない椎名に声をかける。


しかし椎名は動かなかった。いや、動けなかった。呼吸すら忘れて体が静止していた。

よく見れば指先が震えているのが分かるだろう。


「___ぁっ」


様子がおかしい、易意は椎名の肩に手を置いて呼びかけ―――――


「おい、椎」

「いやあああああぁぁぁぁぁぁあ!!」


―――――椎名が発狂した。


__________________



何とか椎名を落ち着かせること五分。

その間、黒いモヤに動きはなかった。


「どうどう、落ち着いたか椎名」

「…ぅん」


何があったのか。

そんな野暮な質問はしない。

きっとトラウマ的なものに触れてしまったのだろう。


「えっと多分、あの黒いのだよねー」

「あぁ、まぁ、そうだな」

「どうするよあれ」

「僕としては正体を知りたいね」

「マジか」


易意はオカルト同好会の一員として、現状の原因を知るべきだと考えている。

しかし目線が泳いでいた。

好奇心と不安で決断が鈍っている。

不意に、


「___ュ」


違和感が鳥肌と共に走った。


「あ、う、あ」


易意の目の焦点が定まっていない。

息が詰まり、目線がガラスと地面を交互に映している。

呼吸が細かく、小さく、激しくなり、


「大丈夫ー?易意くん」

「はっ___うん、ありがとう」


茶々が呼吸困難に陥りそうな易意に声を掛けた。

易意は深呼吸して落ち着いた。


椎名は黒いモヤを慎重に観察する。しかし何も起こる気配はない。


「さっき、声が聞こえた」


椎名は勇気を振り絞って先程の体験を思い出す。


「えっと、聞こえたって、窓ガラスからー?」

「うん、間違いなく」

「誰か聞こえた奴いるか?」

「いや、まったく」


それはいきなりのことだった。


「あ、ソルト、お願いがあるんだけど」

「おうどうした」

「塩ちょうだい」

「…は?」


何でだ。

いやホント椎名何でだ。


「おうわっ、待って待って!」


椎名はオレの体をまさぐった。

そして、


「オカルトには、塩!」


黒いモヤに投げつけた。


ギャーース!!


黒いモヤが無様に悲鳴を上げて気化していく。


「待って何で効いたの!?」

「お清め的な?」

「お清めってなにー」

「てかあのモヤ悲鳴上げてるんだけど」

「うわっ、めっちゃ効いてる」


椎名がもう一度オレの体をまさぐる。


「いや、待って、お願い」

「仕返ししたい」

「いやなんか怖い」

「せいや!」

「うぼぁ!」


ギャーース!!


「はっ、意識が飛びかけた!」

「ソルト」


易意も、体をまさぐってきた。


「待つんだ、許してくれ」

「せいや!」


ギャーーーァァァ


オカルト部はオレを犠牲に、黒いモヤを退治した。彼らの健闘は素晴らしく、未来永劫語り継がれることになるだろう。


「…はっ!あっぶねえ気絶してた!」

「ゴメンねソルト」

「ありがとうソルト」

「悪かったー」

「もうちょい気持ち込めようぜ、ホント」


__________________


「まさかソルトにあんな力があったとはね」

「驚きの新発見だ」

「便利ー」

「なんかまた投げられそうだわ、俺」

「まぁ塩って、昔からお祓いで使われているもんね」

「ん?」

「おはらいー?」

「へっ、あれ?」


椎名が何かおかしなことを言っていた。


あれから場所を移動して何か変わったところはないか探索したが目ぼしい成果はなかった。

教室に変わりはなく、階段は消失したまま。


「ちょっと腹が減ったわ」

「あっ、物置教室見てない」

「料理部の食材とかあるかなー」

「勝手に食べていいの?」


オレたちは小腹を満たせたらいいなと思い、碌に調べていない文化部の物置教室に入った。


「うわー色々あるー」

「絵に、人形、これは…コスプレ衣装?」


教室内には本当にさまざまな物があった。


「熱々の白米だ…!」

「へっ?」

「炊き立てのご飯がある!」

「わーおいしそー」

「何で夜中に炊き立て」

「…多分炊く時間を間違えたんじゃない?」


きっとお茶目な部員がいたのだろう。


「あたしおにぎり握るー」

「僕はおかずでもさがそうかな」

「ソルトーちょっとちょうだーい」

「仕方ないなぁ」


先ほどの怪奇現象から精一杯心機一転を図るオレたち。


「後日食材はちゃんと補填しないといけないわね…うん?」


椎名の目が何かを捉えた。


「どうしたんだ」

「今、何か動いてた」

「今度は何だろー」

「ゴキブリとかなら楽だなぁ」


目端に何かが映った気がした。


「今いたぞ」

「えっホントにいるのかい」

「どこだろー」


はっきりとはわからない。だが確実にいると断言できる。

そんな塩梅。


「あれ、ここに人形なんて置いてあったっけ」


ふいに、椎名が迂闊な行動をした。

好奇心で手が人形へ伸ばしていた。

その瞬間、オレの背筋に悪寒が走る。

ヤバい、なにかヤバい。


「椎名!」

「へっ?」


気付いたときには大声を出していた。


「どうしたのよ、いきなり」


しかし遅かった。


「あれー椎名ちゃーん左手ー」


人形が手に、ハマっていた。


「へっ?…ひゃっ!」


椎名は反射的に手を振り払った。

しかし人形は離れなかった。


「いや!何これ!」


椎名は涙目で人形を振り払おうとするが、やはり離れない。


「きゃはははははっ」


その場の誰でもいない声が部屋に響く。

その場の全員が、声の発信源に注目した。


「きゃははっ!この娘はボクのモノだ!」


椎名の右手に嵌ったパペット人形が、高々に宣言すると、右腕が異様に伸びていく。


「イヤァァァ!」


椎名の絶叫が、教室を震わせる。

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