第96話 英雄達の帰還後 その2
皓達が元の世界に帰ってから早1週間以上が経とうとしていた、新しく建てた家でのんびりと寛いでいた時だった。突如玄関の方に人の気配を感じ気になって出てみる、するとそこに立っていたのは皇帝ツァイの遣いの者だった。その人は雪咲にそっと手紙を渡すと、そそくさと森の奥へと消えていく。
「……?」
雪咲は気になり手紙の中を見てみる。
ー拝啓 雪咲殿
本日はお日柄も良く……なんて堅苦しい挨拶は無しにしよう。今回君に手紙を書いたのは他でもない、少し君に伝えて置かなければいけないことがあるんだ。それに伴って私の城へ来て欲しいんだが……。日程は今日より2日後の太陽が登り切る前には、城の控室に居て欲しいって感じかな。伝えたいことと同時に渡したいものもあるから、正装で来てくれると助かる。
皇帝 ツァイより。
「渡したい物?」
雪咲は首を傾げながらも手紙をまじまじと見つめる、何だろうと思いつつも部屋の中へ戻る。そして居間の障子に手を触れた瞬間、何かを思い出し玄関口の方へと戻っていく。玄関口の戸の中に隠していたのは木材で出来た桶、中には柄杓が入っている。それを持ち外の水道で水を入れ、花を適度に見繕って家の裏から山の上の方へと昇っていく。
頂上付近に脇道に逸れる道があり、脇道の方へと歩を進めていくとそこには立派な奥津城があった。底に刻まれていたのはユリナの名前、クレアの(即死ノ魔眼)で亡くなってしまった仲間の一人だ。きちんと墓石を清掃し、前に刺した花を取り替え、全体に水をかけてあげる。そして墓前で手を合わせ合掌、刹那ユリナと出会ったばかりの時の事を思い出す。
「……ごめんな、助けられなくて」
小さく呟き、そのまま後片付けをして山を下り自分の家へ戻る。
ー最中、不自然な視線を感じながらも……。
家の敷地内に入り玄関の戸にそっと触れる、刹那背後から殺気にも似た気配を感じ取る。何事かと即座に振り返ってみても何も無い、そんな不可解な現象に首を傾げる。先程まで静かだった森の中が急にざわめき出し、ほんの少しだけ寒気を感じる。
「……何だろう、少しだけ胸騒ぎがする」
服の裾をぎゅっと握り締め口内に溜まる唾液をゴクリと飲み込む、手に汗がじんわりと滲み気の所為か額から汗が伝い落ちてくる。ここに居てはまずいと思い家の中に入る、すると先程のような冷たい雰囲気から少しだけ逃れることが出来た気がする。
「はぁ……疲れた」
縁側に座布団をいくつか持ってきて並べる、その上に横たわり日を浴びながら意識を遠くへ飛ばしている。空の果てを眺め飛び立つ小鳥やワイバーンを眺めていたら、いつの間にか視界が暗転……軽く眠りについていた。
ーーー
はぁ……はぁ……
息を切らせ森の中を彷徨う少女、彼女は縄張りに入ってきた侵入者を追跡していたがどうやら見失ってしまったようだ。
早く見つけないと……あれは危険すぎる……。
侵入者から感じ取ったあの魔力、底が見えずまるで暗い深海に投げ出されたかのようなイメージが脳裏をよぎる。試しに殺意を飛ばしてみても全く手応えがなく、あんなに感じていた驚異は突然跡形もなく消えてしまった。
自慢の耳をぴょこぴょこと動かしながら音を聞き分け、自慢の鼻で侵入者の残り香を辿る。しかし底に見えたのは、見えぬ壁に遮られた何もない場所。否、景色が歪んでいるためそこに何かがあるのは確かだろう。
少女は結界の中に入れるかどうかを試そうとしていた、だが荒げていた気を落ち着かせてみたら意外とすんなりと入れてしまった。物々しい見えぬ結界の中に広がる景色は少女を魅了し、まるで心の底から渇望していた光景と頭の中でほぼ一致する。家があり、庭があり、見慣れぬが緑があり、色取り取りな花があり、綺麗な水があり……それはまるで、楽園と言っても過言ではなかった。
わぁ……!
先程まで強張っていた少女の心が少しだけ緩み、結界の中の色んな所を見て回っていた。それは宛ら遊園地に来た子供のように、見て触れて感じて楽しんでいた。
少女は頭の片隅で考えていた、先程の侵入者がここに居るのではないのかと……。だがその考えすら止め、その可能性を完全に捨て去ってしまった。そう……侵入者はすぐそこで寝ているのに。それに気付いた瞬間、少女は思い出す。何のためにここまで来たのかを……だがすやすやと気持ちよさそうに眠っている侵入者からは、先程のような悍ましい魔力は感じられない。
……今なら殺すのは簡単、けど私の目的はあくまで警告。
侵入者の寝顔をじっと見つめてみる、女性のような顔立ちにサラサラとしつつもしっとりとしている髪、細く簡単に折れてしまいそうな胴体や手足、それは本当に子供の寝顔でも見ているようだった。そっとその頬に触れてみようとした瞬間、侵入者の目は薄っすらと開く。それに驚き飛び退く少女。
……
ーーー
雪咲は何者かの気配を察知しゆっくりと瞳を開いてみる、すると目の前には見たことのない少女がこちらを睨んでいた。
どうも、秋水です。
この作品も初投稿日からまるっと1年が経過しました!!
あまり変わらないただの作品ですが、まだまだ続くのでこれからも気が向いた時にでも見て頂けたら幸いでございます。




