5/2 コーヒーのおかわりはいかがですか?
5/2 火曜日 PM1:00
「コーヒーのおかわりはいかがですかー?」
手帳を開き、一人で書き物をしていた俺に、ウェイトレスさんが声をかけてくれた。人懐っこい笑顔がまぶしいぜレイディ。
ちなみに、小説を書くのになにゆえノートPCを使わないかと言うと、カフェでPCを起動するのはなんだか恥ずかしいからだ。なんかこう、オシャレな感じがしてダメだ。黒縁眼鏡とか踝丈の白パンツとかハットが似合うキャラじゃないからな、俺は。
「あー、どうしようかな……」
「今日はブルーマウンテンナンバー1なので、お得ですよ!」
「そうですか。じゃあいただきます」
ちょっと迷った俺だったが、黒のエプロンと白いシャツのコントラストが清潔感を漂わせるショートカットのウェイトレスさんが大変可愛らしいので、とりあえずお代わりをもらうことにした。ちなみにコーヒー豆のことはよく知らん。
本当はカフェという場所も苦手だ。なんとかプレートだとか、なになにのナントカ風ランチだとか、すかした名前で量は少ない飯の意味がよくわからん。海が見えるのはいいんだけど、小綺麗で落ち着かない。
喫茶店はおっさんがやっていて、古い漫画とか新聞が置いてある店が一番だ。インテリアやファッション関係の雑誌は読まんし。
なのになんで今は、カフェに入っているかというと、外をうろついて小説の続きを考えるのも疲れたし、思いついた展開をまとめたかったからだ。歩きながらだとアイディアが浮かびやすい、というのは前向性健忘の状態でも変わらないらしい。
結果、美人なウェイトレスさんも見れたし、コーヒーもよくわからないけど美味しい気がする。これは『引継ぎ』に書いておいてもいいかもしれない。
「お待たせしました。どうぞ、ごゆっくり!」
ウェイトレスさんはコーヒーを置くとちょっとだけ笑いかけてくれた。素晴らしい接客姿勢だと思う。まあ美人だからだけどさ。
で、コーヒーを一口。うん、やっぱり旨い気がする。ふわっと甘い香りが鼻腔をくすぐり、ほのかな酸味が余韻として残る。ここは洒落てるだけではなく、コーヒーにこだわりがある店なのかもしれない。
「さて……と」
俺は再び手帳に目線を戻し、がりがりごりごりとアイディアをまとめだした。書きかけの小説を読んでみたところ、プロットももっと改良したほうがいいような気がしたのだ。
うーん、せっかくああいう展開にするなら、もっと伏線はったほうが……。
俺は急いで書くとめちゃくちゃ字が汚い。けどどうせ俺しか読まないのでどうでもいい。とても日本語にはみえない呪文のような文字列を綴り、ときどき唸って後頭部を掻く。
「……ふう」
どのくらい時間がたったのかわからないけど、きりがいいとこまでまとめられた。なので、顔を上げてみると、カウンターのあたりにいたさっきのウェイトレスさんと目があってしまった。彼女はぴくん、と一瞬硬直すると、持っていたトレイで口元を隠してしまった。そして誤魔化すようにしてカウンターを拭き始めた。
……俺はそんなに不審にみえたのだろうか。……まあ、平日の昼間だしな……。そういや、今着てるこのライダースジャケットは、いつ洗濯したのか当然覚えていない。いや、臭くないから多分大丈夫だと思うんだけど、そう感じているのは俺だけなのか……。
「……すいません。お会計お願いします……」
いいんだ。ウェイトレスさんに限らず可愛い店員さんに勝手にときめき、そして身の程を知るのは男にはよくあることなんだ。それにどうせ俺、明日には忘れてるしー……。
くそったれ。さっさと帰って小説書くぜ。
とりあえずブルーマウンテンっていう豆が旨いことは引き継いでおくとしよう。
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