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僕は僕の書いた小説を知らない  作者: Q7/喜友名トト


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33/35

原文ママ

一部抜粋。


2015/4/25


 びっくりした。交通事故の現場をみたのは初めてだったから、すごく怖かった。

 子どもが飛び出してきて、それを避けた車が対向車線のオートバイにぶつかって、少し離れたところにいた私にも聞こえるくらいおっきな音がした。

 オートバイに乗ってた人にもびっくりした。あんな事故だったのに、立ち上がって、腰を抜かしてた子どものところまで歩いて行って、頭を撫でて何か言ってた。危ないから離れた方がいいよ、とか言ったのかな。そのあとすぐ倒れちゃったのに、そんなことが出来てすごいなぁ。



2015/6/2


 びっくりした。あ、書き出しが前と同じだ。たまにしか日記付けないとこうなっちゃう。

 今日びっくりしたのは、お店にきたお客さんに見覚えがあったから。あのとき事故にあったあの人だってすぐわかった。救急車を呼んでからあとのことは知らなかったから、凄くほっとした。大きな怪我はしてなくて、元気そうだった。


2015/6/28


 あの人、よくお店に来るなぁ。いつも紅茶飲んでるけど、コーヒーは嫌いなのかな。うちのコーヒー、美味しいのに。


2015/7/5


 さすがに暑くなってきたきたからか、あの人もライダースジャケットを着てなかった。それにしても、いつもなに書いてるのかな? 超真顔で書いてるけど、たまに一人で笑ってる。基本ちょっと怖い顔してるから、なんか可愛い。


2015/7/18


 ライダースは脱いでるけどブーツは年中らしいなぁ。今日はあの人、めずらしく人と一緒だった。相手の人の声が大きかったから聞こえちゃったけど、ライダースさんは小説家なのかな? 


2015/8/12


 バケットが切れたからパン屋さんに買いに行った帰りに岸本さんとすれ違った。私が会釈したらすごく怪訝な顔をされちゃった。ちょっと傷つく。わたしのこと覚えてない?


2015/8/25

 岸本さんが考え込んでた。それから『ちょっと意見聞きたいんだけど』って話しかけられた。身近に妹さんしか女の人がいなくて、小説で書くために最近女の子で流行っている服を知りたかったんだって。雑誌とか買えばいいのに、と思ったけど『はーどぼいるど』はファッション誌は買わないんだって。


2015/9/2


 アキラくんおすすめのバーに連れて行ってもらった。あーゆーところ初めてだったら、ちょっとドキドキした。ハイボールを頼んだら、ライムかレモン入れる? って聞かれた。わたしはライムが好きなので、嬉しい。


2015/11/2


 アキラくんと話していると、ときどき、あれ? って思うときがある。前話さなかったっけ、この話、とか。


2015/11/8


 どうしよう。わたし、アキラくんのことが好きになっちゃったみたいだ。ちょっと変わった人だし、超カッコつけなんだけど、なんか楽しい。うん、これは仕方ない模様。


2015/12/05


 アキラくんのうちに本を借りに行った。男の人の家に行くのってかなり緊張したけど、多分バレてないよね。読んでみた。面白い!


2015/12/24

 

 あんまり得意じゃないけど、わたしなりにはアピールしてみたけど、かわされてる気がするのです。むむ……。

 


2016/1/1


 もう少しで学校も卒業かー。調理師学校の二年って短いよね。製菓コースに進んでもう一年通おうかなぁ。


2016/1/15


もうこれはあれですね。いかんですよ。わたしは、告白を決意したのです。

 うわー、告白だって



2016/2/1


 びっくりした。でも、ちょっと納得したっていうか、あー、今まで不思議だったいろんなこと、だからだったのか! って思った。昨日のこと覚えてないってどんな気持ちなんだろう。それでもああしてるなんて、やっぱりアキラくんは強いんだと思う

 そして。うーん。なんか気持ち変わるかなぁ、と思ったけど、わたし別に変らなかったな。


2016/2/13


 ばばーん! 彼氏ができたのです。いぇーい。色々大変なこともあると思うけど、同じ症状で結婚してる夫婦だっているんだし、頑張っていこう。

 それはそうとピアスなくしちゃった。ショック。



2016/4/15

 学校卒業したけど、就職が決まってないよう。BLUEも好きだし、勉強になるけどちゃんとしなきゃね


2016/5/2


 最近のアキラくんは辛そうにしてる。小説のプロットっていうのが完成しないんだって。これが完成しないと小説を書き始められないって。昨日のことを忘れちゃうから、上手くいかないこともやっぱりあるんだと思う。アキラくんは人といるときは強がってるけど。 


2016/6/1

アキラくんが、俺は死んでるみたいなもんなんだ、って言った。とっても寂しかった。



2016/6/22


 わたしだったら、きっともう小説書くのやめてると思う。だからアキラくんは、強いな、って思う。でも、強がってるだけだって、笑ってた。



2016/7/3

フラれちゃった。ずっと書けなくて、それは死んでるのと一緒だって。だから一緒にいるのは良くないって。一瞬言葉に詰まって、わたしは何も言ってあげられなかった。


目の前で『引継ぎ』から私についての内容を全部消されて、もう小説も書かないって言われたときはさすがに泣いちゃった。でも、最後にお願いは聞いてくれた。


諦めない、負けるものか。彼が迷いながらも口にしていた言葉。引継ぎの最後にそう書いてくれた。


アキラくんは自分を死んだのと同じだっていうけど、それは違うよ。覚えてなくても、少しずつでも進んでるよ。だって三ページも進んでる。だって私が貴方を好きになった。


諦めない、負けない、そんな貴方を好きになった。この五か月があったから、引継ぎには貴方が貴方らしくあれる言葉が増えたから。


2017/6/5


 びっくりした。三度目のびっくり。アキラくんがお店にいた。そっか、引き継いでないから、覚えてないから、同じお店に入っちゃう日もあるのかー。つい、じっと見ちゃったよ。


 彼は小説を書いてた。とってもとってもとっても、嬉しかった。


2017/6/21


 会えるかなぁ、と思って友達とボーディーズにいたら、ほんとにアキラくんが来た。田中さんは私がハイボールを頼んだ時にライムを入れるっていうのを覚えててくれて、すごいなと思った。アキラくんは、最初のときと違って今度は自分から作家だって教えてくれた。

 そしてなんと!! 今はあのときあんなに苦しんでた小説がだいぶ進んでるんだって!!


2017/8/1


 私ってけっこうあきらめが悪いんだなー、って思った。一度なくしたことなのに、また一緒に笑いたいって。あ~、どうしよう~。


でもほら、生きてるからね? こう、あれだよ。積み重なって、それが未来につながる的な! それにしてもアキラくんは本当に変わってないなぁ、でも、なんだろう。ちょっとだけ、どこか違う気もする。

アキラくんがまた書き始めたように、私も頑張らなきゃって思った。

 


2017/10/27


 久しぶりにアキラくんに会った。だいたいのことは田中さんから聞いていて、胸が痛んだ。どうしてこの人にばっかりこんなことが起こって、大好きなことを辞めるなんていう悲しいことを二度も言わなきゃいけないんだろう、って思った。


 でも、わたしも今回はちゃんと言った。ダメだよ、って。一生懸命書いてきたこと、知ってるから。これまでのアキラくんが可哀想だから。ちゃんと向き合わなきゃダメだって。

 約束、してくれた。あの時とは違うね。それは時間がたったから? わたしもアキラくんも、時間を重ねてちょっとだけ強くなれたから? そうだといいなって思う。



2017/10/31


 人が何か書いてるってとこを見るだけで、よくこんなに感激できるなぁ、って思った。でもホントのことだもんね。私もアキラくんも、一年前とは違ってて、だから違うことを選べた。嬉しいな。


2017/11/2


 送られてきた小説は、『私小説』だった。きっと、一文字も読み飛ばしたりせず、全部読んだ。心にしまい込むみたいにして読んだ。普通にとっても面白かったし、感動した。私にはうまく表現できなくて平凡な感想になるけど、ほんとうに感動した。


 俺は生きている、って一行に、泣いてしまった。


 ちょっと照れくさいけど、これが出版されてアキラくんのキャリアになればいいなー、って思う。


 アキラくんは、私と過ごした去年のことを知らないから、きっと私がこの小説を読んで前向性健忘のことを知ると思ってる。そう決めてくれたことが、嬉しい。

 わたしのほうはどうしよう。じゃーん! 実は……! と言っちゃおうかな。


 考えはまとまってなかったけど、読んだってことが伝えたくて、アキラくんにメッセージを送った。


 そいえば、この小説を読むと、その、つまり、あの。あれなのかな。


 なんて思ってたら、スマホが振動した。返信が彼にしては早い。少しだけやりとりをして、最後に来たメッセージには、こう書かれていた。


〈俺、君のことが好きだよ〉


 泣きながら笑ってしまった。こんなことってあるんだなって、奇跡みたいだな、って思った。



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