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6/17→6/17 サウナだろ


6/17 土曜日 PM2:23


 今朝、『引継ぎ』の最後に載っているカレンダーを確認して判明した事実がある。今日は、サボってもいい日らしい。要するに小説のことを考えなくてもいい、ということだ。


俺はもともと二週間に4日は『小説を書かない日』を設定していた。サラリーマンや公務員のように、休日を作る意図である。それは厄介な記憶障害と付き合うようになってからも変わらない習慣らしく、カレンダーには『仕事した』を意味する〇が付く日の群れのなかに、ときどき空欄があった。


で、それによれば俺はここ二週間ぶっ続けで書いている。多分、自分の状態が気になって、書きかけの小説を読んで、そのまま義務感やら執筆欲求やら焦燥感に駆られての結果なんだろう。結果、取るべき休みを取っておらず、二週間が過ぎようとしていた。


どうしたもんだろう、と少し考えた。


休みの日を作るようにしてたのは、疲れないようにするためや、オンとオフの区別をつけるためだった。作家なんていう仕事をしているとその辺が曖昧になって、メリハリがなくなってしまうんじゃないかと思ったからだ。


けど、今は昨日のことを覚えていない。だったら別に休む必要ないんじゃないか、とも思わなくもない。


けど、書き続けたことで知らずに疲れがたまっているのかもしれないので、リズムを崩さないうえでも休みを取るべきかもしれない。


よし決めた。俺は、休む。


考えてみれば、当たり前の結論だった。このカレンダーは過去の俺たちが休んでいたことを表している。彼らも昨日の記憶がない状態で休むことを決めた証だ。それと同様な状態にある俺が、違う結論を出すはずがないではないか。


休みたいし、遊びたいんじゃ俺は。


 と、いうことで俺は修に連絡し、落ち合うことにした。


「そろそろ休みかな、って思ってたよ」

「そうか。それにしてもお前、暇なのか? 土曜にいきなり連絡しても空いてるとは」

「たまたまだってば」


 会話をしつつ、俺たちがやっているのはキャッチボールである。集合したのはバッティングセンターなのだが、ここは少し変わっていて、キャッチボール専用のスペースがあるのだ。しかも空いていることが多く、今日も俺たち二人しかいない。


「この前俺に話してたらしい、良い感じの女とはどーなったんだよ?」

 バシッ、シュッ。

「まあね。その話はあとでしよう。どうせ飲むでしょ」

 バン、ヒョイッ

「オフコース」

 パフ、シュパッ。


 益体もないことを話しながら続く軟球のやりとり。

 いい年してキャッチボール? と思う人もいるかもしれないけど、これは意外と楽しかったりする。適度に体も動かせるし、工夫すればエンターテイメント性もある。それに草野球と違って人数を集めなくてもいい。


 二人で出来るスポーツとしては、卓球とかバスケの1ON1とかバドミントンでもいいけど、勝負事だとちょっとムキになって疲れてしまうので、ごくたまにやるくらいで十分なのだ。あと、俺と修では得意なスポーツやゲームが違うので、わりとワンサイドゲームになりやすいため勝敗がないキャッチボールが最適なのだ。

 

 ちなみに、俺の方が強いのは卓球、ダーツ、ビリヤード、当たり前だけどボクシングもか。

 修のほうが上手いのはバスケ、バレー、スノボ、テニスあたり。


 全体的に爽やかよりなスポーツが上手いのは流石修だと思うね。

 そんなわけで俺たちは大学時代も、卒業してからもちょくちょくキャッチボールで遊んでいた。これからすぐにオッサン化していくのだろうし、運動不足の解消にもよさそうだしな。


「アキラくん、打ったー。入るか、入るか……!?」


 不意に叫んでボールを投げる。バットは使ってない、たんに山なりなボールを投げただけ。


「伸びがありませんねー。センター、余裕を見せてキャッチ。三者凡退です」


 修はグローブを後ろに回し、背中越しにキャッチした。


「バックホーム行くよー、アキラー」

「おお」


 続いて修が低めの速い球を投げてくる。三者凡退にしたはずなのになんでバックホームなのかとかそういうのは気にしたらいけない。で、俺はしゃがんでキャッチして、透明ランナーくんにタッチする。


 ちなみに、俺も修も別に野球に詳しいわけではなく、部活でやっていたこともない。雰囲気だ。ほかにも、メジャーリーグの実況の人っぽい適当な英語で騒ぐ、漫画の魔球に挑戦してみる、とにかく高速でキャッチボールしてみる、山手線ゲームをやりつつ連続回数に挑戦しなどのバリエーションがある。くだらないんだけど、わりと楽しい。


 と、ここで気になったことを聞いてみる。

「なあ、この二年で何回くらいキャッチボールした?」

「さあ? 多分二か月に一回くらいはしてるんじゃないかな」

「結構やってんな。っていうか、前向性健忘前とあんまり変わらなくねぇか」

「そうだね。キャッチボールしたくなる周期みたいなのが無意識下にあるんじゃない?」


 俺と修は再び緩く球を投げあいながらそんな会話をした。

 なるほど。記憶はなくても、習慣はある程度続くのかもしれない。今日休みを取ったことだって結果的にはそうだったわけだし。


 俺は今でも、基本は小説書いて、飲みに行って、少しは体も鍛えて、適当に遊んで、修とも会っているのだろうか。それなら、二年前とさほど変わらない。

 と、思ったことを『引継ぎ』に書いておくとするか。


「このあとどうする?」

「まずサウナだろ。で、飲みに行こうぜ」

「変わらないな、アキラは」

「そりゃそうだろ」


 そう、そりゃ、そうだ。


6/18 日曜日 AM6:00


 目覚ましのアラームが鳴ってる。

 うるせぇ。今何時だってんだよ。俺は気持ちがわりぃんだ。あー、やべぇ、これ完全に二日酔いだ。


 っていうか、俺、昨日どうやって帰ってきたっけ。わからん。そんなに飲んだんだろうか……。


 いや、これ飲んでるな。仕方ねぇ、とりあえず水飲んで、二度寝だ。いや、これ下手したら一日グロッキーもありえるな。二日酔いどころか、まだ酔っているような気がする。

 寝よう。で、寝よう。明日にはさすがに治ってるだろうし、今日はもういいだろ。



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