政治
実在する人物、団体とは一切関係がありません。
【国会議事堂・衆議院予算委員会室】
7月某日。午後1時12分。
衆議院・予算委員会室は、いつものように熱を帯びた論戦の最中だった。
「総理、少子化対策費の財源について再答弁を求めます! 選挙のときの公約とは大きくかけ離れている!」
与野党の議員たちが騒然とするなか、
壇上に立つ一人の女性の表情は崩れなかった。
高山早苗。日本史上初の女性内閣総理大臣。
弁護士出身、保守と現実主義のバランス感覚で政界をのし上がり、
その毅然とした姿から、内外では「日本版サッチャー」とも称されていた。
「……本件については後ほど資料を提出いたします。
ただし、国民の命と暮らしを守るという一点について、政府は一切妥協いたしません」
議場がどよめく中、突然、秘書官が背後から駆け寄ってきた。
「総理……急報です。沖縄本島にミサイル着弾の模様。現在、被害情報を確認中」
一瞬、空気が凍った。
「……委員長。国家の安全保障に関わる緊急事態が発生しました。
予算委員会を一時中断させていただきます」
議場のざわめきが怒号に変わる間もなく、
高山総理は無言で立ち上がり、後方のドアへと向かった。
SPたちがすぐに取り囲み、列を作る。
【首相官邸・内閣危機管理センター】
午後1時36分。地下1階、危機管理センター・作戦会議室。
巨大なスクリーンには、嘉手納基地・那覇市・与那原町の上空映像が映し出されていた。
煙、混乱、避難――それはもはや「演習」や「示威行動」ではなかった。
すでに防衛省から緊急報告を受けていた佐山正久防衛大臣が、座席から立ち上がって言った。
「総理、これは明白な武力攻撃事態です。
発射されたミサイルは中距離弾道型、複数発が同時着弾。
嘉手納基地周辺で多数の負傷者が確認されています。
これは侵略行為であり、専守防衛の範囲を超えています。」
高山総理は黙ったまま、画面を見つめていた。
「防衛出動の閣議決定をお願いします。陸・海・空自衛隊を即時展開させます」
室内が一瞬、静まり返った。
高山は目を伏せ、数秒沈黙してから、静かに、しかし力強く言った。
「……よろしい。防衛出動を認めます。即時、部隊を展開してください。
国民の命と、日本の領土を守るために――政府が、すべての責任を負います」
その言葉と同時に、防衛省の担当官がタブレット端末に命令コードを入力していく。
自衛隊の戦闘行動が、事実上開始された瞬間だった。
【官邸前、夕刻】
夕焼けに染まる首相官邸前。
報道陣が騒然とするなか、高山早苗首相はカメラの前に立ち、淡々と、しかし一切の動揺を見せずに語った。
「本日午後、我が国沖縄本島に対して、武力攻撃が行われました。
これは我が国への明白な主権侵害であり、断じて容認できません。
我々は、国民の命と暮らしを守るため、必要なあらゆる措置を講じます」
その目は、真正面を見据えていた。
まるで、すべてを見通すかのように。
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【衆議院本会議場・特別審議・緊張高まる午後】
壇上には再び「めいわ新選組」代表・山形太郎。
いつもより語気を抑えながらも、その瞳には確かな熱が宿っている。
山形太郎(ゆっくりと、だが鋭く)
「総理……国民の皆さん、不安に思ってるんですわ。
ほんまにこれ、戦争に巻き込まれるんちゃうんかって」
「ウチらの生活はどうなるんか。
食料の輸入は? エネルギーは? 株価は?
なんも分からんまま、防衛出動が決まった。
“台湾のことは日本の未来や”――そら、立派な話ですよ」
(少し溜めて)
「けどな、**“明日、爆弾が飛んでくるかもしれん”**っていう現実を、どない説明してくれんのですか?
国民が知りたいんは、そこのとこですわ」
(議場、ざわめきと一部拍手)
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【答弁:内閣総理大臣・高山早苗】
(静かに立ち、力を込めた視線を山形へ向ける)
「山形議員、国民の不安、それは当然のものです。
しかしその不安を、“煽る”ことが政治家の仕事ではありません」
(一瞬、議場に緊張が走る)
「私は国民に、事実をもって説明し、信頼を得る責任があります。
この防衛出動は、日本の安全保障上、必要不可欠な措置であり、戦争を拡大するための行動では決してありません。」
「むしろ、我が国が毅然とした態度を取ることで、
中国側に“越えてはならない一線”を明確に示しているのです」
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(左派政党議員席から一斉にヤジ)
「威嚇の連鎖だ!」
「火に油を注いでいるだけだ!」
「外交努力はどうなった!」
「民意を無視するな!」
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【衆議院予算委員長】
(議長席から大声で)
「静粛に!!」
(議場、しぶしぶ静まる)
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【委員長】
「……これ以上、議事を継続することは困難と判断いたします。
只今より休憩に入ります。審議は後刻再開いたします」
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(高山総理、ゆっくりと椅子に腰かける。山形は静かに書類をまとめて席へ戻る。議場はざわつきつつも、短い静寂に包まれる)
【衆議院控室・休憩時間中】
議場を離れた高山早苗総理は、議員控室の一角にある応接スペースへ向かう。
既にそこには、国憲民主党党首・玉井雄一郎が静かに座っていた。
国憲民主党――“与党でも野党でもない存在”、通称「ゆ党」。
その影響力は侮れず、少数与党である自由党政権がここまで持ちこたえてきたのは、
ある意味この男の“現実的中道主義”のおかげと言える。
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高山総理(やや疲れた顔で、それでも微笑みを浮かべる)
「お待たせしました。…玉井さん」
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玉井雄一郎(スーツ姿を崩さず、柔らかく会釈)
「こちらこそ、お呼び立ていただき光栄です、総理」
(少し間を置いて)
「ずいぶん、きつい質疑でしたね。
山形さんはまあ……あれが持ち味ですが、火薬のにおいが強すぎると思いますね。」
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高山総理
「私も同じです。国民を守ることは政治の責任です。
でも“恐怖を使って政治を動かす”のは、どこか違うと思っています」
(玉井の目をしっかりと見据える)
「私は、今国会で必ず防衛出動の事後承認を成立させたい。
日本が一枚岩であることを、内外に示さねばなりません。
そのために――玉井さん、あなたの力が必要です。」
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玉井雄一郎(静かに腕を組み、目を細める)
「……国憲民主党は、戦争をしないために存在してる政党です。
けれども、戦争“される”のをただ見ているつもりもありません」
「正直に言えば、党内も割れています。
自衛隊の出動が本当に“防衛”なのか、それとも“拡大”なのか――不安の声は多い」
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高山総理(穏やかに、しかし力強く)
「分かります。だからこそ、あなたが橋渡しをしてくれることに意味がある。
玉井さん、あなたの言葉なら、国民も耳を傾けてくれる。
“この出動は未来を守るための最小限の決断である”と、
あなたがそう言ってくれたら……議会も、国民も、揺るがない」
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(玉井、黙ってうなずく。数秒間の沈黙)
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玉井雄一郎(静かに立ち上がり、ネクタイを正す)
「分かりました。…本会議再開後、国憲民主党は事後承認に賛成に回ります。」
「ただし、忘れないでください総理。
私たちは、常に“歯止め”をかける役目です。
国民の不安を置き去りにする政権なら、いつでも“引きずり降ろす”覚悟はある」
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高山総理(軽くうなずき、凛とした声で)
「それでこそ玉井さん。あなたのそういうところ、私は信頼しています」
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(二人は静かに握手を交わす。言葉以上に重い信頼のやりとり)
その裏で結ばれた静かな握手は、
“政争”でもなければ“癒着”でもなかった。
それは「国家を守る」という一点でのみ、交差した意志。
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――休憩終了の鐘が鳴る
国会、再開へ――
【衆議院・本会議場】
午後3時 -休憩を経て再開された本会議。
議場全体に、かすかな緊張とざわめきが漂っている。
やがて議長が木槌を打ち、重々しい声で宣言する。
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議長
「これより、防衛出動に関する事後承認の採決を行います。記名投票にて執り行います」
与党・自由党は衆議院で過半数を持たぬ少数与党。
法案可決には、中道穏健派である国憲民主党の動向が鍵を握っていた。
その代表・玉井雄一郎が、いま壇上に立つ。
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玉井雄一郎(ゆっくりと起立、視線を前に)
「国憲民主党は、政府提出の防衛出動に関する承認決議に、賛成いたします」
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(場内、緊張の糸が切れたようにざわめく)
山形太郎(めいわ新選組党首、憤然と立ち上がる)
「玉井さん!!
……ほんまにそれでええんですか!?
国民を守る気がないということですね!!
これ、アメリカの戦争に加担する道ですよ!!」
(机を叩き、思わず語気を強める)
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左派系議員ら
「裏切りや!」
「中立を捨てるのか!」
「国民は納得せえへんぞ!」
(議場、大混乱)
議長(強く机を叩き)
「静粛に!! 静粛に願います!!
議事の妨げとなる行為は慎んでください!」
(しぶしぶ座る議員たち。怒りの視線が玉井に向けられる)
混乱のなかでも、投票は淡々と進む。
記名による投票用紙が回収され、票読みが始まる。
やがて、議長の前に結果が届いた。
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議長
「防衛出動に関する承認決議の投票結果を申し上げます。
賛成:245票、反対:220票――よって、本決議は可決されました。」
(与党・自由党の議席から小さな拍手。玉井雄一郎は深く一礼。
一方、反対派はどよめき、無言で天井を見上げる議員も)
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高山総理(静かに起立)
口を開くことはなく、ただ議場に向かって深々と一礼。
その背筋はまっすぐに伸び、揺らぐ様子はない。
誰よりも決断の重さを知っているのは、他ならぬ高山早苗だった。
これは勝利ではない。だが、国家としての覚悟を示した一歩である。
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(議場を静かに後にする高山。後ろ姿に、誰も声をかけない)
ふはは。




