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その壁を抜けたら───  作者: メイズ
恋と共に秘密探索
59/59

59 カエル人間

 トーコさんの中は温かくて心地良い。



 ───愛してる。



 最早僕にとって、心に秘めしただの憧れの人ではない。正真正銘僕の彼女だ。


 僕が死ぬ時まで、誰にも渡さない。触らせない。



 遂に僕たちは一つになれた。




 トーコさんとの今夜の約束を果たす僕。


 ただただそんな幸せな夢現(ゆめうつつ)の中にいたんだ。



 うっすら目が覚めただけの薄らぼけた頭では、今自分が置かれた状況は理解出来ていない───



 電子音


 モニターの波


 雨漏りのシミの天井


 硬いベッド


 囲む白いカーテン



 僕は動けない。身体が重くて、だるくて。


 猛烈な睡魔で。


 妖艶で幸せな幻覚で。



 そうそう、そんな感じだよ。"まな板の上の鯉" って‥‥ことわざが‥‥あっ‥たよね‥‥‥?



 カーテンがシャッと開く音。


 僕を‥‥覗き込む‥影‥は‥‥だ‥‥れ‥‥‥?



 *


 *



「あら? この子、うっすら目が開いてる? んー、また眠っちゃったみたいね」


「入谷(いりや)教授。患者のバイタルは正常ですが、目覚めるまではもう少しですね」


「寝ている間に検体も取れたし、詳しい分析結果を早く知りたいわね。ハッカーコードAIからの通知には慌ててしまったけど、今回の響さんの暴走も運は私たちに味方した。これも透一郎さんの遺志のお陰だと私は信じてる」


「私も同意しますよ。暮科博士も天国から娘さんを守っているのでしょう。もちろん科学研究者としてこんな思考は全く非科学的ですが」


「うふふ‥‥けれどこの世に起きる現象を人類が科学で全てを解き明かせるわけではないでしょう? 私たちは愛の力を数式で表せるのかしら? きっと科学はそんな概念による念力は否定するのでしょうね」


「それにしても‥‥。不思議過ぎませんか? 改変された遺伝子が元に戻るなんて。しかも変態を繰り返すとは。彼の緑色の手‥‥」


「まさかカエル化から人間に戻れるなんて、改変した響さんにも予想外だったのでしょうね。その点は私が仮説を立ててある。響さんは大量の遺伝子改変ショットをこの男性に施した。透子ちゃんの身辺にいる響さんにとっての邪魔者を排除する目的も兼ねてだろうけど、彼のDNAは単なるカエル化を拒んだのね」


「体はともかく脳の代替はどうしたのでしょう? 驚くことにそのままの記憶を保っていたようですよ」


「例えばの推測だけど‥‥微小管マイクロチューブルによる量子記憶を発展させた、という線はどう? 脳の神経細胞の中にある「微小管」、チューブ状の構造体に量子計算をさせたのではと推測してはどうかしら? カエルサイズに縮小された脳、あるいは全身の微小管ネットワークの内部で、原子核や電子のスピン状態に全身の全データが「量子重ね合わせ状態」として固定されたら? けどそれはあったとしても未知の領域であって、彼の上だけで奇跡的な偶然で起きたのだと思う。特殊なDNAとの親和性があるのは絶対条件よ!」


「つまり脳の代わりのデータストレージとして使っていたのは、ハードディスクや脳組織のような大きな物理体ではなく、「DNAの塩基配列」または「水や微小管の量子状態」という、ミクロ〜量子レベルの構造だったと考えられるのですね?」


「ええ、データそのものに質量はないし、物理は塩基配列で済ませる。カエルの大きさでも理性を維持できたのはそのためだったという仮説よ」


「元の人間の姿への開放はどのような機序が働いたのでしょうか?」


「そうね‥‥彼は危機に陥るとカエルになってしまうんだったわね? ならこんな仮説はどう。カエルの脱皮の皮と本体とは、極めて特異な揮発性フェロモンを介して、常に「同一の個体である」という境界線を共有していた。ここではアラーム共有フェロモンと名付けましょう。だから脱皮した皮が燃えることで本体もカエル姿での危機を察知して元の姿に変態した、という説が成立つ」


「ならばアラーム共有フェロモン揮発が届く範囲に、燃やす現場にカエル本体がいることが必須ですね! しかもそれなら新鮮な脱皮したての皮でないと効果がありません。その仮説が正しければ、偶然にもその2点も、透子さんとこのカエル人間がクリアするシチュエーションだったということになりますね! その点も奇跡的に思います」


「ええ、とはいえ変態をこれ以上繰り返すのは危険だわ。けれどもこの変色の手は脱皮皮がないと元には戻らない」


「ってことは‥‥‥一生涯このままか、危険な変態を再びして脱皮をするかですね。けれどもカエル化したら命の保証はない」


「ええ、どちらにしろ過酷な未来が待っていると言えるわね‥‥‥」


「けれども入谷教授! アラーム共有フェロモンを私たちが合成出来たら彼は安全に手足を元に戻せます」


「そうしてあげたいけれど、このボロい秘密研究所では資金も人手も足りないわね。スタッフを雇う予算もないわ」


「あ! ならば意識が回復したら本人にやらせれば良くないですか〜? 僕が指導しますよ! 僕にも部下が出来たらワクワクですw」


「ぬぬっ?!・・・本人の希望が先ではないかしら〜? しかも自分のためとはいえタダ働き同然となるのよ」


「希望確認もちろんです!! あー、この患者さん天川さんでしたっけ? 早く起きないかな〜? 僕が説得してみせますよ! おいおい! 天川、早く起きろよ〜〜コチョコチョコチョコチョ‥‥」


「・・・あのね、八木沢さん? むやみに患者に触れないことッ!!」(u_u*)


「すみませーんもうしませーんw 天川楽しみすぎるッ!」 (*´ω`*)


はてさて。天川さんの運命は‥‥( ´ー`)φ

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