16 元の世界では
天川の話は思いもよらない情報だった。マジで私がそんなことになっていたの? どうして? 謎が増えた。
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具だくさんスープが、食卓テーブルの上でほわほわ湯気を立てている。
彼はスプーン片手に、少し上を見上げては思い出すような仕草で話し始めた。
現世では、なぜか私は突然関連企業に出向したことになっているらしい。いきなり予告もなくいなくなった私に、同僚らはみな大変戸惑っていたという。しかし役員レベルからの通達だったので、疑問をぶつけたり異論を挟める者は、私の直属の上司も含め誰もいなかったという。
天川以外は────
「僕は絶対におかしいと思いました。入社からペアを組んでいる僕に一言も予告なく、昨日までそんな素振りの欠片さえ無かったのに。それに暮科先輩に全く連絡がつかなくなるなんて。・・・先輩の作ったスープ、メチャうまです! これは何のお肉ですか? 魚ですか? 上品で淡白で初めての味ですぅ〜」
私の作った大蛇入りのスープをおかわりしながら、天川はこれまでの鬱憤を晴らすかのように力説してる。
「気に入ってくれて良かった。小骨があるかもだから気をつけて食べてね♡」
ヘビ肉ってことは今は黙っておこうと思う。栄養つけるのが先だし。
「ペアを組んでる僕に引き継ぎすらしないで去って行くような暮科先輩ではありませんからね。絶対におかしいと思ったんです! で、連絡がつかないならって、僕はその日、仕事が終わったらすぐに先輩のマンションに向かったんです。ピンポンしても無反応だし、お留守のようでしたので、僕は先輩が帰ってくるまでドアの前で待とうと思ったんです」
天川はそんなにも私を心配して探してくれてたの? 意外だわ。仕事では頼りなくて、私を頼ってばかりの軟弱な子なのに。
「で、僕の終電ギリまで待つつもりでいたんですけど、ほんの30分くらいドアの前にいたら、中年の女性が現れたんです。それは暮科先輩のお母さんでした。お部屋の片付けの手伝いに来たって」
───エッッ!! 誰っ!? その人はこの世にもういないわよ。
「へぇ・・・私の母親が? どんな人だった?」
「いかにも会社員ってスーツ着てたし、ビジネスマナーの笑顔だったから、お母さんも会社帰りに立ち寄ったんだなって思いました」
───なら工場勤務だった私の母親ではない。お母さんが化けて出たのではなさそう。なら誰よ? 幽霊より余計に薄気味悪いじゃない?
「『せっかく心配して来ていただいたから、透子はもうじき帰って来るし、中でお茶でも飲んで一緒に待ちましょう』って言って下さったので、お言葉に甘えることにしたんです。ずっと外で待ってて不審者と間違われても嫌だし」
「ふうん。なら天川、私の部屋の中を見たのね・・・」
───(;・∀・) 恥ずかしいわ〜。あのとっ散らかった、ゴミ屋敷に近づきつつあるお部屋を見られたなんて。先輩としての、いや、人間としての威厳が崩れる音が聞こえる。完全なるゴミ屋敷、では無かったことが救いよね。
「いえ、それが・・・僕、そこから記憶が無いんです。気がつけば世界が巨大していて。けど、小さくなったのは自分の方で、信じられなかったけど自分はアマガエルになっていたんです。それも草ボーボーの自然の中で。これは何らかの脱出ゲームで、僕はビジターの参加者だって知らない間に知っていました。僕にかけられた呪いを解く条件は、脱皮した皮を聖なる炎で燃やし浄化させることだということも」
「知らない間に知っていたって、どういうこと?」
「僕にもわかりません。けど置かれた状況とクリア条件を知っていたんです。サブリミナルな催眠術にでもかかったんでしょうか?」
「・・・そうかもしれないわね。ここはレトロ趣味を被せた隠しハイテク世界なのよ。記憶を埋め込まれた可能性もあるわ。まだまだ私にも謎だらけなのよ」
ここでは一般人には計り知れない高度なハイテクが使われているようだから、謎が起きてもそういうものっだって捉えておくしかない。つまり魔法の世界なのよ。
天川は多分だけど、NNKデス組織によって遺伝子の魔法にかけられたんだ。私を追ったばかりに巻き込まれた・・・?




