1 暗闇の次に現れし
目の下に出来たクマを隠すのも限界に近づいてる。
眠れない日々が続いてる。疲労も度を越すと逆に眠れなくなるなんて知らなかった。入社3年目の私は上から下からいいように使われっぱなしだった。
私は今、これまでの人生の中で一番疲れているって自覚してる。
「暮科せんぱ〜い、このクレーム対処どうしたらいいですかぁ? 僕あのおじいちゃん苦手ですぅ〜」
「暮科さん、急で申し訳ないけどファイル送っておいたから、チェックしてプリントして明日の昼までに20部お願いね! お詫びに今度ゴチするわ」
「暮科さんがアシスタントすると交渉が上手く進むジンクスがあってね。先方にも評判がいいし、君には期待してるよ!」
ミスの多い新人(けど入社ほぼ1年経ったよね?)のお世話とフォロー、上からは面倒で細かな、でも正確な査定がいる書類を回され、さらにその上の課長から面倒な顧客との交渉のお供に指名されるという悲劇。
夜10時を過ぎてやっとたどり着いたワンルームマンションのドアを開けて隙間に滑り込み、鍵をかけた途端にバッと玄関の上がりに倒れ込んだ。
床の冷たさが頬に痛い。まだ肌寒い3月。
顎を少しずらして見る奥の暗い部屋の中は、外からの明かりで、サテンのカーテンが窓枠に沿って照らされてる。部屋の中は今朝出た時と全く同じようにとっ散らかってる。
ミリも動いていないよね。自分でお片付けしない限り永久にそのままなんだ───
自然と生まれ出た涙が、鼻筋を超えて床にポトリと落ちた。
立ち上がろうとしたけど動きたくない。ううん、動けない。
もう全部全部嫌だッ。みんなみんなみんな大嫌いッッッ。あんな会社も生活も、こんな優しくない世界は滅んでしまえばいいのよ!!!
神様、私を助けて・・・
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「・・・・・・寒っ」
え? ヤダ。私、気を失ってた?
「う?! 暗ッ!」
暗闇で、体をムクッと起こした。
なんなの? このありえない真っ暗闇!? なんにも見えないじゃない!
とにかく電気のスイッチを───
半脱げの通勤用スニーカーを振り払って立ち上がり、手探りで壁を探す。
暗すぎてマジでどこがどこだかわからない。立ち位置がどこだかわからない。こんなにも狭いワンルームの玄関だというのに。方向感覚さえ失ってる。
瞳孔が閉じているのかも。疲れ過ぎて自律神経もおかしくなってるに違いないわ。
痛ッ! 指先が何かにぶつかった。
「もう〜、なんなのよ? スイッチどこなの!!」
イライラして独り言が出た。
「これじゃ暗くてなんも見えないじゃん!」
小さく呟いた私は、次に訪れた場面に唖然とした。
ふうっと私の視界に浮かび上がったのは、オレンジ色の優しげなランタンの灯りに照らし出された部屋。まるでおとぎ話の中に出て来る、森の中の小さなお家の様相だったんだもの!




