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花火を打ち上げて。  作者: 黒花
第2章 夜空に高く昇る
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第38話 あなたも同じ

 ランタナ王子に報告するというから、てっきり城に向かうと思っていた。


 が、グロリオさんは城の前を足早に通り過ぎると、そのまままっすぐ西へと進む。行き先は騎士団の本部だった。



 騎士団本部。それは各騎士団の騎士たちが集まるだけではなく、その建物の最奥の部屋で執務をするランタナ王子に会いに、他の団体の者も出入りするという場所だそうだ。


 騎士団本部の周りには練習場があったり、隊員たちの寮があったりして、この場所から色々な指示が飛び交う事も少なくないという。


 騎士団本部の北隣は俺も知る植物園が並んでいて、有事の時は騎士と庭師が協力し対応をするのだそうだ。



 庭師。という事は彼女もいざという時は闘ったりするのだろうか。中庭で俺を捕らえようとしたくらいだから、その可能性は十分にあり得る。


(王女様なんだし、その辺りは遠慮してほしいけどな)



 騎士団本部へと到着した。色々な紋章が掛かれた門を潜り、俺はグロリオさんの後を着いて歩く。

 隣にリナリアもいたが、彼女は何か察していたのか、ずっと無言でついてきていた。


 歩く途中ですれ違うのは、グロリオさんと同じ騎士団の服装をしている人もいれば、色違いの服装の人もいる。深緑の服装の人はおそらく庭師だ。


 彼らがそれぞれのタイミングでこちらを見てくる中、最奥の部屋の前まで来るとグロリオさんが足を止めた。



「ランタナ様。グロリオ・レイにございます。ご報告があります」


「よろしい。開けよ」



 扉の向こうには大きな机があって。


 ランタナ王子は俺の顔を見るなり「タクミじゃないか」と椅子から立ち上がった。




「そうか。言葉が通じたか」

「はい」


 先程の出来事を一部始終、ランタナ王子に伝える。すると彼は驚いた顔を見せたものの、すぐさま表情を切り替え腕を組み考え事をはじめた。



「以前、タクミの世界に魔物は居なかったと聞いたが、それはどうなんだ?」


「いません。


 いや、居た可能性は完全には否定出来ませんが、俺の知る限りそういった情報はなかったです」


「魔法具は、もうガルベラに返したのか。


 ならば異世界から来たという条件さえ揃えば互いに会話が出来るという事か?」



 そうか、もしも俺が今あの翻訳の首飾りをしていたとしたら、魔法具で魔物との会話が成立するかもしれないという仮説が立つ。


 だが、俺はもう首飾りをしていない。それは魔法具以外の理由で、俺が言葉を聞いたと言うことを示していた。



「タクミ。まさか君は異世界から来たのか?」


「あれ、言ってませんでしたか」


「ああ」


 隣から声がして。

 ポカンとした表情でグロリオさんが俺を見ていた。


 あれ? 言ってなかったか。てっきり知っていたと思っていた。



 そうか……と呟いた後、彼は表情を戻しランタナ王子の方へ再び向いた。その切り替えの早さは流石、副長クラスの人だからこそ成せる技なのかもしれない。



「ランタナ様。


 先程知ったのですが、タクミ殿はどうやら花の精霊たちとも会話ができるそうです」


「なんだと?」



 あー……ランタナ王子は知らなかったのか。


 俺が花の精霊と会話ができることについて。

 これはここまでくる間に俺からグロリオさんに話した事だ。


 今思えばロゼリスがあれだけ驚いていたのだから、これは判明した時点で、ランタナ王子にも伝えるべき件だったのかもしれない。


 先日ガルベラに話した時は彼が既に知っているようだったので、勝手に周りにも知らされていると思い込んでいたが、どうやらそうではなかったらしい。



「報告が遅れてすみません」


「いや、いい」


「以前、植物園で精霊たちの声を聞いたんです。

 その時に、彼らが私の母国語を話していたので、結果彼らと話が出来た、というものです。


 姿は見ることは出来ないのですが、会話は可能でした」


「ふむ。聞こえるだけでなく、言葉が同じか。



 精霊たちは随分昔からこの世界に存在している。


 だが実は、彼らの先祖がどこから来たのか、彼らがどんな力を持っているのか、判明していない部分の方が多い。

 もしかすると精霊もどこか別の世界から移ってきた者たちなのかもしれないな。それこそタクミと同じ故郷から、などだ」



 俺は首を傾げた。言葉を聞き間違えたかと思ったが、でも間違えてはいなさそうだ。


 精霊も別の世界から来た?


 俺が異世界から来た者と会話ができて、精霊たちとも会話ができるというのなら、精霊たちも異世界から来たという仮説。



 いや、ここだけ聞けばランタナ王子の見解は筋が通っている。


 だけど違う。精霊については俺だけが特別聞こえるわけじゃない。彼女がいる。



「ロゼは話が出来るどころか、姿も見えるんですよね? それに俺たち以外にも姿が見えたり声が聞こえる人も居なくはないって、ロゼが言ってました。


 だったら精霊と異世界は関係ないかと思います」



 もし王子の見解が正しいとするのなら、精霊は異世界から来ていて、その姿と声を認識できる彼女も、俺と同じように異世界から来たことになってしまう。


 彼女はこの国の王女だ。それも目の前にいるランタナ王子とも血縁者だ。



 だがランタナ王子は首を振る。


「ロゼリスは、だいぶ特殊だからな。何とも言えんな」


 え、彼女はまたそれとは違った理由がある?


「特殊……??」



 俺はわけが分からなくなり、会話が途切れ、部屋の中がしんと静まってしまう。


 何か会話を、とグロリオさんを見ると、またまた彼はポカンとした表情で俺を見ていた。



「…………」



 ロゼリスの事は一旦考えるのをやめよう。

 今は先ほどの魔物退治のことを、もう一度最初から思い出そう。


 何か思い出すかもしれないから。



 急に考え込みはじめた俺をグロリオさんがソファーへ座るよう誘ってくれる。

 俺はそろりと移動すると静かに座りそのまま考え続けた。


 地面に横たわったシロクマ。声が聞こえて、そして。


「あ……そうだ………」



「タクミ、何か気が付いたことがあるのか?」


「あ、いえ。気が付いたことでは無いのですが」


「なんだ」


 気付いた事ではない。思い出したのだ。


 あのシロクマが、死ぬ前に俺に言った言葉を。



「魔物が最期に『あなたもおなじでしょう』って言っていました」


「魔物と同じ……」



 俺も同じってどういう事だろう。


 単なる同じ“異世界から来た者同士”という意味なのか、それとも俺も同じ魔物の類だという意味なのか。


 もしも後者だとしたら、俺はこの国にとって有害な存在だということだ。



「俺もそういう類いなのでしょうか。


 前の世界でも、この世界でも、至って普通の人間のつもりでいたのですが」



 もし同じ魔物の類だったら、俺も処分されるのだろうか。この国を危険に陥れる可能性や、他人に危害を加えてしまうような存在だったら。



 目を伏せながらそう伝える。


 王子もグロリオさんも二人とも何も言わないから、俺は更に不安になる。



「タクミ、大丈夫だよ」


 ランタナ王子が珍しく明るく笑いながら俺の肩を叩いた。

 まるで励ましてくれるかのような、明るい声。明るい表情だ。



「こんな風に、正直に報告してくれるタクミを、疑ったりしないさ」


「ランタナ王子」


「だからまた何か気が付いたことがあれば、いつでも教えてほしい」


「ありがとうございます」



 肩に置かれた手が、優しくて温かい。


 すこし泣きたくなった。


 ガルベラといい、ロゼリスといい、そしてランタナ王子といい……皆揃いに揃って人が良すぎる。



 ポンと逆の肩を叩かれ振り向くと、同じようにグロリオさんも笑っていた。ううう、この人も……。




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