第29話 仮定と勘
魔法石作りの結果を出し合った俺たちは。まとめや報告、発表の仕方などの予定を立てて、今日は解散となった。
あとは当日、会場のセッティングなどを手分けして実際に発表をしていくという感じだ。
(この感じはちょっと文化祭とか思い出すな)
皆でワイワイしながら準備を進めるこの感じ。意見を出し合ってまとめて……という作業が、俺は結構好きなんだよな、と一人笑みを浮かべる。
さて俺も帰るかな、と机に並べた自分の魔法石を集め袋に片付けていると、横にガルベラが立ち、俺の手元にある魔法石を眺めていた。
「皆、魔法石が作れるようになったな。正直この短期間で皆がここまで作り意見を出せるとは思っていなかった」
「俺が魔法石を作れるようになってから、皆ものすごい勢いで作れるようになったよね」
「魔法初心者に負けてはいられない、と皆が猛特訓しはじめたからな」
ククッと笑うガルベラ。俺もつられて笑うと、彼は俺の魔法石をコロコロと転がしはじめる。
「タクミ。今回の魔法石の結果の報告なんだが、私が主催者でよかったのか?
提案したのはタクミだっただろう」
「俺はいいよ。
元を辿れば、最初に俺に魔法石を持たせてくれたのはガルベラが最初だっただろ?
あの石だって、本当はまだ作り始めてからそんなに経ってなかっただろうに、俺の為に貸してくれてありがとう。
きっかけはガルベラだから。だからガルベラが主催者でいいと思う」
彼はこの成果を自分の手柄のようにしてしまうのは避けたいと言うが。
俺からしたら、魔法石を作りたいという俺の提案に乗ってくれただけで充分だった。
すると彼は小さく頭を下げた。
「感謝する、タクミ」
恩人の王子様の為だ。何とも思わなかった。
「あとこれは、俺の余計な世話かもしれないのだが、やはり石の扱いには気を付けろ」
「それってどういう意味?」
声のトーンを低くされて、こっそりと話をされる。
それは先程、俺が他人に魔法石を渡してしまった、という申告をしたからだろうか。
皆の前だから大丈夫だと言ってはくれたけれど、やはり本当はあまり好ましいものではなかったのかもしれない。
「いや……これは私の推測でしかないから、一応の注意喚起だ。
おそらく私たちの特化型の魔法石。
これは作り手の願いや祈り、想いがそのまま効果にも表れる。自分の術を自分で発動させる分には、まあその人次第だから何とも言えないが……。
使い手が願うことで発動するのであれば、例えその術が人々にとって悪い影響を与えるものであったとしても、術は難なく発動してしまうだろう。
それを悪用する者がいないとは限らない」
「悪用」
はっとする。
そうだ、今ここはこんなにも穏やかな国だけれど、十年前には戦が起こったという国なのだ。
この国の魔物退治に尽力する今と、大陸国との争いの過去。
俺が知らないだけで、もしかしたらすぐ近くまで魔の手が伸びている可能性があるということ。
勝手に未来もこのまま平和だろうと思い込んでいたけれど、そんな保証はどこにもなく、自分の身は自分で守っていかなくてはならない。
(平和ボケの頭は中々治らないよな)
人をそんなに疑いたくはないけれど、この世界で生きていくためには、その考え方を頭の隅に置いておく必要があるのかもしれない。
それが大切な人を守ることに繋がるのなら。
「……分かった、気をつける。ありがとう」
ガルベラが強く頷いた。
そして、まあ、魔法石については、まだまだ分からない事の方が圧倒的に多いけどな、と笑う。
「先程も説明したが、建国記念日の当日は、私は王子としての公務がある。
皆とはあまり長い時間一緒にはいられないが、途中でそちらに顔は出す。父上たちと皆で行くことになっているはずだ。
そうだ、それと私の代わりに、トレチアにも補佐をするよう頼んである。彼女の魔力の型は非常に珍しいからな……きっと来客との話の中で役に立つだろう」
「OK、ありがとう、任せとけ」
別に今回の魔法石については、完璧さなど求めていないし求められてもいない。
自分たちの視点で気付いたことをまとめ披露し、聞かれた質問の答えが分からない場合は「これから調べます」でいいのだから。
だから特にもの凄い緊張するとか、そういうものは殆ど無かった。
彼が手にしていた俺の魔法石。
失くすなよと、と彼が俺の袋の中へと入れる。
俺はというと今日は何の本を図書館で借りようか……なんて暢気に考えていた。
だが、その後に続いた彼の言葉に、俺はピタリと動きを止めてしまう。
「で。あいつはどういう魔法石を作ったんだ」
「………誰の」
「誰のって、ロゼリ「あーー!」……」
ガルベラの口を思い切り手で塞いだ。ままま待て、皆がものすごい勢いでこっちを見てるぞ。
「バカお前ここで言うなよ! って何で知ってるんだよ」
「やはり彼女と魔法石を交換したのか」
「ぐぬぬ……」
忘れてた。
ガルベラは、俺とロゼリスが何度か会っているのを知っている。
え、でも何で。
何で俺たちが魔法石を交換したって知っているんだ。
「……?」
どうやら俺、最近は思っていることが顔に出やすくなったらしい。
「私は昔から勘が良く当たるのさ。じゃあな、タクミ」
俺を見るや否やニヤリと笑った彼は、手をヒラヒラとさせて颯爽と教室を出て行った。
急に爆弾投下された気分だった。
「なにこのザワザワ感」
男同士で、女子との話をすることはよくある。
この世界に来てからはあまり機会はなかったが、日本にいる頃は学校でも会社でも、最近お前はどうだと話すことは少なくなかった。
だから別にガルベラから彼女の事を聞かれても何ともないはずなのに。どこからか不穏な感じが湧いてくるのだ。
嫉妬心? いや違う。それは前に解決した。ガルベラとロゼリスの間に、共通の女の子がいるというはなしだ。じゃあ、この不穏な感じはなんだろう。
「これって胸騒ぎってやつだよな」
胸元へと手を伸ばせば、服の下、首から下がる二つのペンダントへと触れる。
ガルベラから借りている翻訳魔法の金色のペンダント。
そしてロゼリスから貰ったおまもりの魔法石。
シャリッと小さく擦れる音がして、傷がついていないかと、俺は慌てて魔法石を手に取った。
透き通った水色から緑色へのグラデーションに乳白色が少し混ざる綺麗な石。
大きさからして特化型、水魔法の5だ。
彼女は水魔法特化の庭師なのか。
そう真剣に魔法石を見つめていて。
俺はこの時ずっと彼女の魔法石を見つめていて。
俺から少し離れた場所から、俺の胸元の魔法石を同じように見つめている人がいたことに、俺は気付かずにいた。




